表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

勇者が目覚めたら

ファンタジーっぽいイントロですが、ファンタジーではありません。

 少年は目覚めた。寝床から起きて、階段を降りる。


「おはようアイン。シチューを作っているから待っててね」


 ジャガイモをナイフで切り分けている中年女が、少年に声をかけた。

 彼は静かに頷いた。

 彼は自分の立場を理解した。自分の名はアイン。この女は自分の母。ここは田舎の小さな一軒家らしい。母親は、朝ご飯を作っているのだろう。羊の肉が鍋でグツグツ煮えている。

 アインは、鍋の音に耳を傾けているうちに覚醒した。自分が何者か思い出したのだ。


「僕は……僕の前世は勇者だった! これは七回目の転生だ!」


 前世から前々々々々々世までの戦いの記憶が、次から次へ押し寄せる。


 始まりは、洞窟に住みつき旅人から財を盗む大蛇を退治した。あの時は仲間がいなかった。

 次の人生では、氷の山で人々を食い殺す邪鬼を倒した。僧侶が仲間になり、治癒力に助けられた。

 三度目は、地下に潜み大地を震わせる悪竜を打ち負かした。魔法使いも仲間となり、攻撃力が強化された。

 四度目にて、海底神殿で人々の魂を吸い取る大神官に勝利した。船で大陸の間を駆け巡る冒険だった。

 五度目は、人々を滅ぼし魔物の国を作ろうとした大魔王を、天空魔城で消滅させた。巨鳥の背に乗って、縦横無尽に空を渡った。


 そして前世ではついに、世界を消滅させようとする、時の破壊神と対峙し、奴を時の彼方に葬り去った。このときは時間の回廊を渡って過去や未来に旅立ち、謎を解き明かしたのだ。


 七度目の転生。今度はどんな冒険が待ち受けているのだろう? 少年の胸が高鳴る。

 母親は、息子の覚醒にかまわず、鶏の卵が入った籠を差し出した。


「アイン。馬小屋のじいさんに、卵を届けておくれ」


 彼はもちろん「はい」と答える。

 冒険は、いつも小さなお使いから始まる。やがて、世界の大きな謎を解き明かし、巨大な悪と対決する時が来る。

 このお使いを果たさないと、何も進まない。そうしないと、母のジャガイモのシチューは、いつまで待っても出来上がらないのだ。



 前世で勇者だった少年は、馬小屋のじいさんに卵を届けた。お礼に、銅貨を二枚もらった。

 ここで銅貨をくすねてはいけない。母親に届けるのだ。そうしないと次に進めない。だから彼は、セオリー通り二枚の銅貨を母に渡した。


「お疲れ~、シチューできたよ。銅貨一枚は、お前にあげるよ」


 アインの心が弾んだ。これで銅貨一枚をゲットした。そのうち銅貨一枚なんてどうでもよくなるが、序盤は小さなクエストの積み重ねが重要だ。シチューを食べてお腹いっぱい。ここで、次のクエストにつながるはず。


「外で遊んできたら」


 母の助言にアインは素直に従う。彼は知っていた。村人全員に話を聞かなければならないことを。



「今日もいい天気だね~」


「お母さんの卵はおいしいよ~」


 善人ばかりの穏やかな村。が、村の平和は長く続かないだろう。彼は知っていた。こうして村で情報を集めていくとクエストが発生し、次のイベントが解放されるのだ。

 平和は長く続かない。

 当然だ。

 そうでなければ、転生の意味がない。

5話で完結します。続きをお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ