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埋蔵金

作者: 竹取 裕基

「島崎、知っているか? 三号公園の裏山に、凄い宝物があるんだ」放課後、四年二組の下駄箱に息せき切って走ってきた親友の涼が、僕にそう言った。


「何だよ、その宝物って」涼の話を聞いてみると、学校の近くの三号公園の裏山に怪しい洞穴があり、噂では徳川埋蔵金の一部が隠されているという。

 以前、僕もその話をどこかで耳にした事があった。


 涼は、洞窟を探検して確かめてみよう、早くしないと誰かに埋蔵金を先に取られてしまうぞ、と急かすので僕は行く事にした。


 そこで(はる)()にも声をかけて、今度の土曜に三人で洞窟を探検する事になった。僕らは同じクラスで、三人でよく遊んでいる。今回の探検は三人だけの秘密だ、ほかの誰にも絶対に言うな、男の約束だぞと、お互い固く誓い合った。


 土曜の午後二時。コンビニに現れたのは、涼、陽翔、そして長い髪を赤いリボンで括った小さな女の子と白猫だった。

「こいつは、誰だよ?」涼が怪訝そうな顔をして尋ねた。

「凛だ。妹だよ。家で一人なのは嫌だと、僕についてきちゃったんだ」陽翔が済まなさそうな顔をして答えた。涼は顔をしかめた。


 凛は、おずおずと兄の後ろに隠れるようにして、しっかりと白猫を抱きしめていた。


「猫の名前は?」偉そうに涼が訊きながら猫の頭を触ろうとすると、猫は鋭い牙を剥き、シャーと声を立てて威嚇した。涼は慌てて手を引っ込めた。


「キラ」と凛が答えた。涼は凛を一瞥し、しばらく考えた後、仕方がないと言った。それを見て陽翔は安心したようだった。


 僕たちは裏山に行き、涼を先頭に歩いた。途中で登山道を外れると、獣道があり、ツタや枯れ草をかき分けながら進んだ。山々の多くの木々がすっかり葉を落として枝だけになっていた。


 後ろを振り返ると、凛は兄にくっつくようにして歩いていた。キラは二人の先を歩き、心配そうに凛を時々振り返って見た。やがて山の斜面に、針金で固定された木の板と「立入禁止」と書かれた札が見えてきた。穴は板で塞がれているようだ。


「着いたぞ。ここだ」涼は、凛を見て言った。「怖いなら外で待っていろ」

 凛は首を横に振り、兄の袖をしっかり握った。

「板を外そう」僕はそう言い、板の四隅の針金を外した。すると板は簡単に外れ、古いコンクリで出来た小さな穴が表れた。屈めば中に入れそうだ。中をライトで照らしてみると、入り口は狭いが、奥は広々としていた。

「危ないよ。やめよう」陽翔が、声を震わせてそう言うと、涼は軽蔑したように、男のくせに怖いのか?と聞き返した。そう言われた陽翔は、少し怒った感じで首を横に振った。

「行くぞ!」涼が先頭を切って穴に入り僕も続き、陽翔、凛、キラも続いた。狭い入口を抜けると、大人でも立って歩けそうだ。穴は丸い感じで、ムッとする湿気で充満していた。

少し進むと、穴は左に大きくカーブし先はよく見えない。壁面をライトで照らすと、大きなひび割れがある。ライトの光を頼りに、二十メートル程、進んだ時の事である。


「うわああ!」突然、涼が絶叫し、たった一つのライトを持って自分だけ逃げていく! 


 その叫び声に恐怖にかられた僕たちも一斉に逃げはじめ、真っ暗闇の中で僕らは無我夢中で出口へと走った。トンネルは絶叫で満たされ、死の恐怖の中、僕も叫びながら走った。やっとの思いで外に出ると、涼も陽翔も青ざめて、凛は兄を掴んでしくしく泣いており、キラまでもが震えているようだった。


「一体、何だったんだよ」陽翔が聞いた。すると涼は、苦々しい顔をして、蛇がいた、蛇は苦手なんだ、と言った。陽翔は、あきれたような顔をした。しばらくしてから、もう一度行こう、と涼が言い出し、僕たちは再び穴の中に入った。先頭を涼が進む。僕らも続く。穴は百メートルほど先で行き止まりになっていた。そこに大きな黒い箱が置いてあり、蓋には錆びた南京錠がしっかりとかかっていた。


「これだ! 埋蔵金だ!」涼が大声を上げた。僕たちも興奮して叫んだ。箱には錠がかかっているから、穴の外で錠を壊して箱を開けよう、と陽翔が提案した。僕らは箱をみんなで協力して運び出した。凄まじく重かったが、何とか外に出した。陽翔が家に金鋸を取りに行っている時、もし中身が埋蔵金だったら、みんなで山分けしよう!と涼が言った。


「持ってきたよ!」陽翔がそう言いながら錠を切り始める。やがて南京錠が地面に落ち、僕らはワクワクしながら蓋を開けた!

「なんだ! これは!」中を見て僕たちは叫んだ。中は割れた皿や電球などのゴミ、汚い古新聞などが詰まっており、箱の中をよく探したが埋蔵金など、どこにもなかった。

「マジかよ……」僕らは失望し大きなため息をついて、その場を後にした。


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