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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第四幕 異種族の人さらい
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無双

 紘大は調理場で驚き震える店長の手に納まるナイフをつかみ取ってカウンターを飛び越え手を伸ばし、放り投げる。ナイフに纏わりつく鋭い輝きの糸は進み行く物の軌跡に伸ばされて、光の線を描いていた。


 伸びて進んで作られるものは光の道か。


 力の向きに任せて進んだナイフがたどり着いた先に待っていたもの、それは男の腕。勢い衰えぬまま皮膚を突き破って痛みと悲鳴を呼び起こす。喚く男に飛びついて蹴りを入れつつナイフを引き抜いて、開きっぱなしのドアの向こうへと廃棄した。


「かかって来いよ、なんならお前らの秘密基地になるここを傷つけないように外で戦うか?」


 男たちは話し合って外へと出る。


「ははっ、そんなに大事かよ」


 嘲笑を浮かべつつ、店長にナイフを返して爽やかな笑顔を贈る。店長は訊ねた。


「行くのか?」

「当然。あのままじゃ営業妨害なんでね」


 一歩二歩、足を進めて立ち止まって言葉を加えた。


「ナイフ、しっかり洗っておいてくれ。あんな忌まわしいDNAが客の身体に入るなんて考えただけで寒気がするだろ」


 外でしっかりと待ち構える男たち、腕を押さえる者が睨みつけながら強い声で見かけだけは強力な言葉を打ち付ける。


「遅かったじゃねえか、ビビり散らしてお漏らしの処理でもしてたか?」


 対して、同意を示しながら否定も見せる、そんな言葉を刺し込む。


「たり前だ、お前らの傷口にかけるためのションベン用意してた。ビビってる暇もなかったんだ、笑ってくれよ」


 男たちの顔つきが険しさに染め上げられて、衝動に突き動かされて紘大に襲いかかる。


「勇敢だな、衝動買いならぬ衝動殺しってか」


 紘大から余裕を剥ぎ取ることなど叶うこともなく、男たちの前に手が突き出される。


「出ろよ、俺のチカラ」


 紘大の周囲を囲むように現れた青く鋭い稲妻に男たちは飛びのいた。生き生きとして輝き走る目を引き裂く青はそのまま幾つもの剣へと姿を変えて地に刺さりその場で揺らめいていた。


「じゃ、まずは一人目」


 そう言い残して剣は引き抜かれて男の衣服は引き裂かれていた。今にも見えてしまいそうなものを押さえて隠して。無様な様子は持ち込み与えた本人の目にもしっかり映っていた。すっかりニヤけていた。


「次は恥ずかしいだけじゃ済まないぜ」

「な、なんだと!?」


 無様の権化に哀れをも注いで。お通しからのメニュー表、二品の選択が差し出された。


「お客様がおいでになられたのはバーで特別コースをご所望ときた。『お代は頂戴せずに逃げコース』か『命で払って刺激ゲキ強コース』か、お好きな方を」


 言葉が終わるか終わらないか、その時点で男たちの選ぶものは決まり切っていた。背を向け一目散に逃げ出す。恥もなにもあったものではない。生きるためにただ走り続けるのみ。明日を迎えに行く、ただそれだけを見つめて。闇に消えゆく男たちの背中を見つめながら紘大は剣を仕舞う。揺らめきは広がり希薄になってやがては消える。闇の中へと溶け去ってしまったのだという。


「何だったんだあいつら。しっかし店の番犬ってのは疲れるものだな」


 続いたため息と共に吐き出る愚痴。それは仕事とはあまりにもかけ離れたものだった。


「ったくよ、なんで美少女寄越さねえんだよ、暑苦しくてたくましい男同士の友情とかいらねえからな」


 この男は、この上なくオンナというものに飢えていた。

――美少女がいねえと栄養失調で死んじまう

 求めるものは美少女ハーレムと呼ばれているあれ、ただそれだけだった。楽園にその手は届かぬか、夢は夢としてただ見て眠りて夢に見るだけなのだろうか。


「ああ、作りてえ。美少女ハーレムの楽園!」


 異世界で雷を操るチート能力をもったので力を発揮してみたらいつの間にか美少女ハーレムが出来上がっていた件について

 などといったタイトルを思い浮かべつつも首を横に振って打ち消した。そう、あれは今を見ていて散歩感覚で実現できるようなシロモノではない。

 ならばこれからどうするのか。そう、聞き込みである。

 閉店時間の近づいたバーの中、客や店長に疑問を飛ばすことで店内を自身の疑問色に染め上げて行った。


「誰か、なんでもいい。かわいい女の子の居場所は分かりませんか?」


 私よ、ここにいるわ―― バーにいた丸まるとした女たちが手を挙げ名乗り出ていた。紘大の心の内で否定しつつ訊ねる。


「俺の好みは細くてもっと子どもっぽい顔してるような子なんだ、知らないか?」


 その発言に返すような反響は「そんなみすぼらしくて未熟な顔の子が好きだなんて」「変わり者かしら」といったものばかりだった。

――え? 俺の好み、ここじゃ通じねえの?

 話を聞くからに肉付きの良い女や成熟した子が人気者となる国が多い。そうだと知ってからの紘大の思考は己の至高にまで、秒を数えるまでもない速度で到達していた。

――俺の好みのタイプが普通に非モテ……ラッキー! ハーレム作り放題だぜ

 ただし、好みのタイプがそうそう残っていないという懸念もあった。ふくよかな身体は豊かさの象徴、あくまでも大量の食事と運動不足を作り上げることで無理やり金持ちを演出している家庭も多いのだという話も耳にして、思うのだった。

――つまり、みんな太らされてるわけだな

 風聞に乗せられ届けられし風潮。その真実は確かめるまでもなかった。

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