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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第一幕 リリとの出会い
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料理

 これから始まるクッキングタイム、その前にリリがひとつ訊ねる。

「その肉山で獲ってきたものなのでしょう。土地が悪いから臭い、なんてウワサだけど」

 幹人は微笑みを浮かべながら絡みついた誤解をほどき始めた。

「実はさ、土地が悪いなんて最近誤解から生まれた迷信で」

 獲ってすぐに血抜きと内臓の取り出しを行わなければ臭みが出てしまうことを説明してナイフで肉を捌く。

「確かにね、山から流れてくる水はいいし果物は美味しいのに肉が悪い、なんて土地が悪いだけじゃ説明しきれないなあ、おばあさんのためにも街の人のためにも誤解をとくからね」

 リリは幹人にとびきりの笑顔を見せた。

「幹人は凄いね、流石未来人。私たちには分からないことももしかしたらそのうち分かるのかもな」

 仲良く料理を進めゆく。小麦粉に水を加えて練り、ちぎってゆく。すっぱいりんごを切って、みかんの皮をむいて、ニンジンを切って。

「そういえばキャベツないの? あったら助かるんだけど」

「ごめんよ、時期じゃないみたいで実ってないのさ」

 幹人はちぎった小麦粉の塊を薄く延ばしてねじり、煮えたぎって踊るお湯が収まる鍋に放り込んだ。

「明日はまき割りしなければね、幹人」

 異なる世界に行っても魔法の勉強に労働、科目は変わってもどこにいても怠けることなど許されないのはどこの世界でも同じことなのだろう。茹で上がった小麦粉、つまりパスタとニンジン、肉を加えて炒め始めた。

「このみかんとりんごでも絞って加えてみるかな」

 リリの言葉に正直嫌な予感が舞い漂うものの、止めたところで幹人の舌には臭みを感じる肉が待っているだけだろう。素人の血抜きでは限界など想像がついていた。マズくはなりませんように、そう祈りながら果実のしぼり汁を注ぎ込む。そして残されて出番を待ち続けているトウガラシを入れて、料理は完成した。

 出来上がったものを二枚の皿に分けて、眺める。湯気を上げるそれは幹人には不安の種としかなり得なくて、なかなか手が伸びない。

 箸もスプーンもなく、木べらで食べられるわけもなく、手でつまみ口へと放り込む。

 肉の臭みは口の中で広がりパスタも少し茹ですぎたのだろう、ゆるくて口の中で砕けるようにぼろぼろになり、りんごとみかんの若干の甘みと幹人の知る果実よりいくほどか強い酸味と爽やかな香りに包まれて、仕上げのトウガラシはそれらを引っ張るように混ざり合って辛みを主張していた。

――なるほどなあ

 料理は難しい、そう考えさせられる一品に幹人はなにも言葉が出てこない。その一方でリリは目を輝かせていた。

「美味しい。久しぶりにいい味してる料理をいただいたわ、ありがとう幹人」

 リリのその言葉と笑顔を見ることができた、それが見られたならそれでいいか。そう思って満足した。

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