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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第二幕 時渡りの石
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目覚め

 瞳は開かれた。光差し込む一室の中、穏やかで柔らかな時間と共に幹人は身体を起こした。隣りに横たわるひとりの魔女と二匹の生き物を目にして微笑んで。

――可愛いなあ、みんな癒しだね

 思考は誰にも読まれない、ひた隠しにし続けて心の内に仕舞う。そんな彼の姿を見て声をかける者がいた。

「おおっ、目覚めたか、幹人」

 街の住民、その中でも特にふたりに優しく接してくれていたこの男はしっかりとみんなのことを見守ってくれていたのだった。

「リリ嬢もお前さんもよく頑張ったな。おかげで王都は今大変なんだってよ」

 話によると幹人は二晩の時を夢の中で過ごしてしまったようだ。一晩明けて一度目を覚ましたリズは落ち着きなく駆け回ってカイコガはずっとリリの傍にいたのだという。

「言っとくがリズは俺のメシ半分近く持ってったからな」

 そうして幹人の元へと運んだのだそうだ。

「あっすいません」

 謝罪は口の上で述べられるだけの形だけ。それでも男は笑って許していた。

「気にすんな、それよりリリ嬢はまだ起きないのな」

 それを見て取った男は頭を掻きながら街にまで広まったうわさ話を幹人にも広めていた。


 王の数々の蛮行とその日の行ないを受けて王都はすぐさま頭への信用を失っていたのだという。


 騎士が幹人とリリに取っていた行ない、盗賊を仲間に引き入れていたこと、王の考えた一連の計画の真相。全ての悪事は暴かれて王は姿のみが立派な逃亡民となってしまったそう。


 ただでさえギリギリを強いられていた王都の生活を更に苦しくしたことへの不満は全て盗賊が村を襲ったのだからという理由で無理やり納得させていたものの、その盗賊を村に向かわせたのが王なのだから人々の恨みは一斉に火を吹いて王都を包み込んでいた。


 これがたかだか二晩目を離していた内に起こったのだというのだから幹人の驚きは大きなものだった。

「いいか、もう王都はない、そこにあるのはただの都だ」

 それでも王都の生活に比べれば遥かによいものになるのだと断定されていた。

「王様信用ないな、政治家と一緒かな」

 それから幹人はずっとリリの傍に居座り続けた。いつ目が覚めるのか、待ち続け暮らし続けて三日が過ぎ去った。それでも一向に目を覚ます気配がなくて、心配は膨らみ弾けてしまいそうだった。時は更に二日過ぎ去って、幹人が目覚めるまでに二日間、そこから待つこと五日間が経ったのだという。

 一週間もの間眠り続けていたリリの意識はようやく帰ってきて身体を起こした。

「オンナノコの寝顔ずっと見てたでしょう、エッチだね」

 起きてからのひと言がこれだったのだから幹人としては笑うほかなかった。

「リリ姉起きたねよかった」

 リリの目覚めを本気で喜んで、幹人は起きたばかりの魔女のやつれた身体をしっかりと抱き締めた。

「んん、嬉しいね」

 瞳は半開き、気怠さは抜けていないようでリリはその身体で幹人を抱きながら起き上がる。

「さあて、ごはんごはん」

 軽い気持ちで足取りで、リリはごはんにありついた。

 話によれば秘術を使うと魂そのものが出現して縛りひとつない全力が発揮できるものの、現実に浸食される、つまり身体を削ぎ取られるようなものだそうだ。使う度に魂を削られて一週間近く眠って長い回復に入るのだという。

 リリの調子が戻るまでの間、ずっと寄り添っていることにした幹人、ふたりして外の空気を吸いつくすつもりで家を出るものの、十五分程度の散歩でリリは額に手を当てて幹人に寄りかかろうとしてあの男の家へと戻るのだった。

 家に入った途端真っ先に出迎えた男は幹人に支えられて歩く姿を見て豪快な笑い声を上げるのだった。

「リリ嬢が誰かに頼るなんてな……あのリリ嬢が」

「なにか言ったかしら」

 そんな言葉を返すリリだったが、どう見ても疲れに表情を奪われていた。

「こんな時まで言い返さなくていいからリリ姉休みな、永遠に眠るのはイヤだろ?」

「もう、大袈裟なのだから」

 微笑みながら幹人の頬に優しく手を添えた。

「流石私を惚れさせた子、言い回しまで私好み」

 異界人は赤面して、そこから言葉のひとつも出せないでいた。



  次幕予告



 王都での一件の後、船に乗って竜の少女を信仰する港町という都へと足を踏み入れた幹人とリリ。


 果たしてふたりを待ち受ける神話とは!?


 幹人を元の世界へと帰す方法は見つかるのだろうか。


 幹人がこの旅で抱いた意志とは ——



  第三幕、書き終わり次第投稿開始!!

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