反撃
駆ける駆ける駆ける。追いついてくる盗賊を風で追い返して、逃げて逃げて。
騎士はほとんど追いついて来ない、来るのは盗賊の方ばかり。
「鎧が重いのかな、全部脱げばいいのに」
笑いながらそう言ってのける魔女、明らかにふざけていた。愉快な逃亡の先、花屋を見つけた。
「ようし、これで私も戦える」
そう言って銅貨を指ではじいて花を一本受け取って。
「さあて、騎士も盗賊もみんなみんな無力化といこうか」
リリの魔力によって姿を変えられし一輪の白い花。百合は立派に育ち、種類をも変化させられていた。
伸びた茎は追いついてきた盗賊たちを結んで捕らえて締め上げて。幹人は思わず口を開いていた。
「凄い、縁がみんなを結んで離さず動けないってね」
ふふっ、そんな笑みをこぼしながら妖しい笑みを覗かせて言った。
「コインを使って放つ技、無駄にはできないね」
再び動き始めて商店通りを駆け進む。通り抜ける景色、全てが一般市民のもので、戦いの余波で壊してしまうことを恐れて震えていた。そんなリリが端目になにかの店を捉えて立ち止まる。
「王都を抜けるとしよう」
再び指ではじかれるコイン、それの行き着く先は箒の店、手に取った箒に跨ってリリは飛ぶ。
「さあ、行こう」
箒に運ばれしリリと同乗者たちはすぐさま王都を抜け出すことが叶えられた。
「敵はまばら、武器は自然、返り討ちは容易いものさ」
ここからリリの魔法が発揮されるというわけだ。
「魔法を扱うのに魔力と財力のふたつを使わされては面倒ね、魅力割りは適用外なのかしら」
地に落ちていた木の枝を拾い上げて、弄び振り回し、それを立派な鎌へと変えて。
「さあ、反撃を始めようか」
走り始めた。盗賊を柄で突いて、振り回して斬らぬように叩き払い、周囲に男どもの身体をばら撒く。
「群衆全てが敵だなんて……ファンのひとりやふたりや三人四人、寄ってらっしゃい来てらっしゃい見てってらっしゃいいらっしゃい」
歌うように言の葉を放ちながら敵を払い散らす。傷ひとつ付けぬように意識を奪い去る。力加減と勢いの容赦のなさ。リリの表情はいつになく強張っていた。
あまりの苦労が見えていて、気が付けば幹人の手は動いていた。強い風が吹き荒れて、盗賊たちを薙ぎ払い太くて背の高い木に叩きつける。そうして意識まで吹き飛ばしてしまったのだろうか、盗賊たちは地に身体を寝かせて動かなくなっていた。
「さすが愛しの幹人私の癒し」
「ひと言余計だよ」
身軽な盗賊たちの襲撃から遅れて襲い来る鉄の塊の数々、そのすべてに人が入っているのだろうか。
「生を感じさせない相手の登場だね、今の風ではやれないかもなあ」
リリの分析の通り、重い甲冑を身に着けた王の護衛たちは風をものともしないだろう。
「花は……っと、都合がいい」
ここは森の中、花を見つけることは難しくも不可能ではなかった。一輪の花は小さくて心もとなくて、とてもではないが力になりそうもなかった。
ゆっくりとしかししっかりと近づいてくる騎士たち。時間などそう残されていなかった。
「そうだ、リズ」
幹人の声にリリは微笑んだ。
幹人の言葉にリズは力んでいた。
「元気いっぱいやる気いっぱい! いい調子だよ頑張ってリズ」
幹人のカバンに貯め込まれたクルミのようなものをかじり頬張って、リリの手に咲くようにつままれた花へと向かって長い耳を激しく振った。
「どれだけ魔力を貯食していることやら」
呆れ交じり、ため息と声を織り交ぜて吐き出していた。一方で幹人は唖然としていた。カバンの中にいつのまにやらそのようなものが大量に入っていたのだ。重さは感じていたものの、最近は警戒と忙しさから開ける機会をことごとく失っていたのだった。
耳を振った先にある花の姿は一気に変貌した。立派になった花弁は着飾ったドレスのよう、小さな乙女は大きなお姫さまへと育って行った。そう思わせるような見事な成長だった。そこから始まるリリの魔法、リズの助けのおかげか余裕を残した魔法となった。
「さあ眠れ」
元々の品種を無視した花粉の効果、その言葉と共にまき散らされた花粉は騎士の方へと向かいゆく。
ただ見ているだけ、それだけでは気が済まなくて、幹人は魔力を練って風を放った。宙を漂う花粉をかき混ぜ大勢の騎士たちにお届けする。提供された騎士たちはふらつきながら重力に身を任せて勢いを増して地面に叩きつけられるように雑に倒れた。きっと騎士たちは花粉のむずがゆさと息の詰まる感覚と共に意識を闇に沈めて気持ちの悪い眠りについていることだろう。
「安眠がいいね、幹人」
そう語る魔女、その人物が隣りにいるというだけで安眠を得られないことが多々あった幹人はわざとらしい大きな頷きを示した。そう、大人のオンナと寝るという行ない自体が幹人の落ち着きを完全に奪い去っていたのだ。
「同意見、気が合うね」
安眠を妨げる原因にそう言われつつ盗賊や騎士たちの倒れる道の向こうからあの王が現れるのを目にした。
少しずつ歩みを進める王の姿、余裕をもった振る舞い、立ち姿は恐ろしいまでに堂々としていた。
「これが最後の戦いかな」
王都の件の全てを片付けるべく、ふたりは戦いの構えを取った。




