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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第二幕 時渡りの石
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再対面

 不満しかなかった朝の時間を過ごしてからのこと。ふたりして騎士に連れられて、人への対応があまりにも酷な王の元へと案内された。あの騎士たちもまた、他の職に就く人々、大切な労働者のことを人として扱っていなかった。証拠はリリたちに取った態度の数々。

「待たせたね、お忙しくて旅行者まで労働者に任命するお偉い王様」

 嫌味があまりにも酷くて容赦がない。明らかな怒り、鮮明な不満を感じていた。

「お偉いだなんて当たり前のことだろう。俺は王なんだ」

 この反応こそが彼の人柄を物語っていた。浮かれた王様、信用は既に地の底にまで失墜してしまった存在、民は既に反抗に出る気力さえ失って、それでも民からただ搾取を続ける偉い人物。王という肩書きを誇示して民に寄生する愚か者で怠け者、それが彼の正体だった。

「そう……それはさぞかしお偉いことでしょうね。で、この辺で最もお偉いアナタ様ならそこらの施設は何でも思いのままでしょう」

「そうだが、だったらなんだ」

 リリは冷たい笑みを向けていた。

「だったらどうしたのだという!!」

 分かりやすい嘲笑に、王の怒りはまんまと引き出されてしまっていた。そこから行われるのは熱い怒りと冷たい嘲りのぶつかり合いだった。リリの口が開かれて、現れる言葉は彼女の余裕そのものだった。

「どうして図書館で時渡りの石の在り処を調べなかったのかしら」

「どうしてもこうしてもあるか! そんな雑用仕事、下級の民のやることだ」

 怒りに身を任せる王、完全に機嫌を損ねてしまって本音が容易く出てきていた。

「そう、ならいいのよ。貴方の考え方なんて王の器に相応しくもないその程度のものだってことだから」

 挑発を続けるリリに幹人はただ危機感を覚えながら黙っているだけだった。

「話を戻しましょう。王の剣についてだけれどあれ、このままで完全よ?」

 冷静、そのようなものは遥か遠くへと飛び去ってしまって帰ってきそうにもなくて。

「そんなわけあるか! だとしたら王の剣の力はどうした。俺の先祖が王になれたのはその力のおかげだぞ」

 否定、拒絶、廃絶。旅行者の魔女の言葉などなにひとつ聞き入れはしないこの人物。受け入れない、受け付けない。まさに独りよがりな政策をずっと打ち出してきた人物を映す鏡のよう。

「あぁ、正直者の言葉までも撥ね退けてしまうなんて、もう少し人を信じること、覚えてみてはいかが?」

 どれだけ叫べどもリリの口は噤まれるどころか言葉が紡がれ続ける。

「法まで覚えられるお偉い頭ならなんでも詰め込むこと、できるでしょう」

 もはや救いようもなければ救われようすら失われたこの王に、リリは石を投げつけた。緩い放物線を描きながら飛んで向かって迫り来て、見事に王の手元に収まった。

「ほうら、アナタ様が喉から手が出るほどに欲しがっていた時渡りの石」

 容易く手渡されたその石、そう、リリと幹人にはもう無用の長物でしかなかったのだった。

「よかったわね、魔女様が魔力を動かして差し上げたからすぐに過去、真実が見えるわ」

 石からあふれ出る薄緑の光、それに流されるように伸びる影、光はやがて一室全てを飲み込んで覆いつくして一色に塗りつぶす。王はその光の中に未だに希望を見ていた。リリはその光の向こうに希望を見ていた。

 幹人ただひとりが置いてけぼりを食らっていた。光が次第に強くなってゆく。獣の感じが強く残る袖で顔を覆って眩しさから身を、目を守り続けていた。


 しばらくののち、全てを飲み込んでいた光が収まって、袖をのけて目を開く幹人。目に映るものはまたしても懐かしいものだった。


 ミキ君は他のクラスの女の子と関わってるかな?


 そう訊ねられて咄嗟に首を左右に振って否定を示す。同級生の少女は顔に似合わない微笑みを浮かべながら会話を繋ぎ続ける。


 そっか、じゃあ近いうち紹介しようかな、私のカワイイ友達を


 幹人の中では想像が掻き立てられ続けていた。可愛い生徒、その響きだけでも会うことが楽しみになっていた。浮かれた気持ち、ふわふわと漂う想いは足元をふらつかせる。


 ただ、ミキ君とどちらがカワイイか……ワカラナイや


 ちょっ、からかうのやめてよ


 顔は熱を帯びていた。失礼な言葉に対する怒りなど不思議なことに一切湧いてこない。恥ずかしさと何とも言えない温かな気持ち、ふたつの感情に抑え込まれて揺れて気持ちがよくて。


 あとミキ君は相手によって発言が変わってくるみたいね。オンナノコには弱いかな


 茹で上がってしまいそうな恥ずかしさは泡を吹いて倒れるようにのしかかる。身体は揺れてバランスを崩していた。


 ちょっと落ち着いてほらほら、照れ屋さん


 灰色の髪の少女は幹人の手を取り引いて近づいて。幹人の恥ずかしさは恐ろしい程に大きくなっていた。顔同士が触れ合いそうなほどにまでの距離、愛おしいものを見つめるような輝きを持つ少女の紫色の瞳、揺れて微かに触れる髪のくすぐったさに惑わされていた。

 微睡むような心地よさの中で、少女の言葉を聞いていた。


 笑顔の魔法使い、覚えといて


 驚きと恥ずかしさと嬉しさによって織りなされたこの情動の中で向けられた言葉、忘れられるはずがなかった。


 想い出の上映は終幕して現在に戻って未だに落ち着かない様子で辺りを見回す幹人。あまりにも熱すぎたあの光景を思い出して、晩秋らしからぬ暑さを感じていた。激しい鼓動が周りに聞こえていないだろうか、うっかり声を上げて聞かれてしまっていないだろうか。心配はなにもかもが杞憂に終わったようでほっと息をついてその場に立ち尽くす。

 目の前で時が止まったように眉ひとつ動かさずに立ち尽くすふたりの姿を目の当たりにして、先に動けるようになったにも関わらず時間に、この景色に置いてけぼりを食らっているように感じていた。

 幹人はこのひとりだけの空間の中でリリが追いついてくることを、遅れている魔女が先へと迎えに来てくれることを待ち望みながら、ただただその場にて新鮮な空気を吸う。

 入ってくる空気は秋らしい爽やかさを持っていて、心を冷やしてくれる。そうして気持ちを落ち着かせて鼓動の激動を抑え込むだけだった。


 目の前の愛しい魔女が帰ってくる時を待ちながら。

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