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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第二幕 時渡りの石
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帰り

 時渡りの石によって過去を覗き込んで事実を知ったリリと別のものを見て懐かしさを得ていた幹人は王都へと向かう。

「幹人も見ただろう? あれが王の剣の真実さ」

――違うものが見えてたんですけど

 素直が一番、それを口にしようとした。しかし、幹人の言葉を許すまでもない時間差でリリによる言葉が続けられた。

「王の企みは頭の中で留まり続けて出てきてくれはしない。手詰まり足踏み妄想王だね」

 頭? 手? 足? 幹人の理解はリリの言葉を一瞬の遅れで追いかけた。

「ふふ、可愛そうな王様だこと」

 一体何を見ての発言なのか、幹人には見当もつかないでいた。

「思わないかい? まさか武器に頼ろうとしていた自身の態度が本人の努力不足を証明してしまうなんて」

 本を読め、そう呟くリリの目は本気そのものだった。公で管理している図書館を活用しない王に辟易しているのだろう。

「まったく、なぜに手元にあるはずの資料を読まないことやら。迷惑だし何より恐ろしいね、持ち物を放置しているような愚かさが」

 そこから放たれる次のひと言に全ての感情が込められていた。

「イヤになるね、ウンザリ」

 明るくならない内に王都を目指そうとして進め始めた足を止める。なにがあったのだろう、幹人が訊ねようとしたものの、答えはすぐにリリの口から出てきた。

「果たしてすぐに帰ってそれで普通の宿が手に入るだろうか」

 もっともな疑問、分かりやすい答えが待ち構えていた。

「多分ない思う」

 そう、あの王が無償で寝床を貸すはずもなかった。あってもきっとあの牢のようなところだろう。それでも急ぐのだろうか、必要なのだろうか、一瞬の躊躇を吹き飛ばす少年がいた。

「早くしないと裁きかもね」

 考えると自分勝手にも程がある。王は権力を得るとともに大切な何かを落としてしまったのだろうか。とにかくムダな戦いを避けるためにも、迅速に王都へと足を進め始めた。速足急ぎ足、景色ひとつ見ることも許してくれない闇の中で確実に進む。リリの瞳は何を捉えているのだろう。一度たりとも壁や木にぶつかることなく迷いのフリすらなく王都にたどり着いた。

 入り口をふさぐ騎士たちは壁にかけられた松明に照らされて銀色の身体を輝きに照らして身の存在を主張していた。

「許可証……通ってよし」

 事務的な発言、相変わらず生というものを感じさせないその姿に不気味さを覚えていて寒気に襲われていた。王都の中へ、景色も見せない固い意志を持つ闇の中でふたりは王の城を目指していた。

「あんまりだよね、王様」

 こそりとこぼした言葉を魔女は拾い上げるか。

「今更だね、あれはもう人として大切なものを捨てた存在……人を統べる者としてはあってはならない者さ」

 城に着いて、騎士の護りを解除して入って。出迎えた王はイヤらしいニヤけを浮かべていた。

「ご苦労、今日はもう遅いのだ。牢の方でゆっくりとするがいいさ」

 旅行者をこき使った上に宿も粗末なものしか用意しない。あまりにも人の心を理解しない男の態度に幹人は憤りを覚えつつも牢へと向かう。

 一方でリリはさぞかし愉快そうに、自身の身体を抱き締めながら腹がよじれそうな程の笑いを堪えていた。時たまこらえきれずにこぼしていた。

 牢の中へ、騎士に案内されて中へと誘導された。閉じられた牢の格子の向こう、廊下を挟んだ向こうに更に格子、もうひとつ向こうに見える男の姿にふたりは目を見開いた。元教師のあの男が座っていた。所々が破れた粗末な服、ポケットすらついていないそれを纏って魂が抜けたような表情でただそこに座っていた。

 間違いない、見間違えようもない。あれこそが受刑者の姿なのだろう。まさにこの世の終わりのような表情を浮かべていて、目にも入れたくないそれが正面に映るような場所に入れた騎士を恨みつつ、この上なく居心地の悪い夜を眠りでごまかして明かした。



  ☆



 訪れた朝は実に心地の悪いものだった。それぞれに囚人番号を呼ばれて大きな返事をしていた。そう、規律に叩き起こされたのである。監獄、この世の生き地獄が展開されている中、ふたりはただ反応に困り切っていた。一体なにをすれば王からの仕事の最中に囚人と同じ扱いを受けるものなのだろう、不思議で仕方がなかった。

「仕事も雇い主の監獄に入れられるようなものかな」

 息をするように出てくるリリの冗談に思わず吹き出してしまっていた。

――いまの言葉すごく元の世界の人たちに聞かせたい

 想いは心の中で爆発を続けていた。

 通りかかる看守騎士にリリはわざとらしく大きな声を向けた。

「はいはい君ら、私たち労働者にご飯のひとつもないのかい? 昨日だって朝食抜きのほか全部自分で調達だったんだけど」

 旅行者に無賃労働を強いる王には完全に嫌悪の気持ちしか湧かなかった。あの男は労働をさせておきながら食事のひとつも提供しないのだから。

「私たち旅行に来ただけなのになに故に仕事を与えられて牢屋に閉じ込められてるんだか」

 リリの言葉は止められない止まらない。

「モーニングタイムの時間に自由をくれないのなら食事を食べさせろ、貴方たちが用意を手配しな!」

 突然言葉がおかしくなったのはわざとだろうか。幹人もリリの言葉を止めるつもりはなかった。同じ不満を持っていたのだから。

 騎士たちが話し合い、最終的に返ってきたのは「王様からの命令には朝食を用意しろとはありませんから」の言葉。


 ただ耐えるほかないふたりだった。

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