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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第二幕 時渡りの石
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 太陽がぬくもりを注ぎ、風が涼しさを運んでくれる王都の地を歩くふたり。この街並みは密閉された空間の中で疲れきったふたりにとっては程よく心地がよい。

 リリたちが取り調べを受けている間に男もまた、別室で取り調べを受けていたそうだが王都の安全な地を追い出されそうになって職の見込みもなく金だけを頼りにしているあの男は王都の地面に無断で穴を開けて暮らしていたということをふたりは騎士から伝えられた。しっかりと違法、しかも昨日から昼頃までにかけて掘り起こされた地下室には様々な薬品が流れて混ざって溜まっていたそうで言い逃れは一切できなかったそうだ。

 それでもなお、男はリリと幹人を責め立て続けていたそうだが、ふたりの仲間であるリスのような動物、そう言った途端、底ギリギリだった信用が底まで着地した。当然の話だった。真実だったとしても捕まってから取り調べが終わるまで、リズの姿は一切見受けられなかったのだから。

「リズどこに行ったのかな」

 幹人がこぼした不安。仲間が行方知れずとなってしまっては当然の心情だった。

「あの子は幹人のことが大好きだから見つけたらすぐにでも飛びついてくると思うのだけど……さて、どこへ行ったことやら」

 幹人よりも一緒にいた時間が少しばかり長い程度、そんなリリにも分かるはずはなかった。

 のんきに歩く二人の元、突如何かが遠くから向かってくる。目を凝らすと分かったその姿、銀色の塊が素早く迫る。

 即座にリリは幹人の前に立ち、魔法を撃つ構えを取った。

「いいかい、絶対に離れないこと」

「大丈夫」

 迫る塊、それは鉄のよう。

「ん?」

 よく見て看破したその正体、それは鎧、つまり王都の護衛騎士だった。

 勢いよく走り続けた鎧、リリたちの目の前まで来た途端、嘘のように動きを止めた。そうして顔も体型も隠し通された無機質の塊から言葉が出始めた。

「おふたり方があの元教師の男を捕えることに役立った者ですね」

 頷く幹人。それを外からは見えない目で確認したのだろう。騎士は右手を出して言葉を続ける。

「実は王様がぜひともお二方にお会いしたいと仰っておりまして」

 それはつまり、自由と呼ばれる愛しい気まぐれ女神さまから遠ざかったのだということ。

 幹人からすれば厄介極まりない話だった。リズすら見つけ切れていない、あの子の安否が心配で仕方がなかった。

「王がお待ちになられております」

「剣を磨きながら、じゃあないだろうね」

 リリの疑いのまなざし、昨日この都の実情を眺めて思うこと、あのような政策を取るような王のことなど信用に値しない。民のことすら考えない王に対して向ける想いなど明るくはならない。当然の流れだった。

 騎士はただ笑ってリリの言葉を否定して見せた。そこから紡ぎ出される案内、もはや断るという選択肢など残してはもらえていなかった。

「仕方ないね、行こう、魔女様」

 名を呼ばないように用心を重ねてそう呼ぶ幹人の頭を撫でながらリリは騎士に導かれるままに歩いて行った。

 景色は一日だけでも見慣れてしまったようで街に並んだ店で働く人々、休日故に素早く買い物を済ませる人々、船へと駆けて海の先を目指す旅人。全てが生きていた。

 大きくて立派な城、その姿に圧倒されつて幹人の開いた口が塞がらない、かといって言葉のひとつも出てくるわけでもなく。

「着いた、この中だ」

 扉すらなくて、ふたりの騎士によって守られながらずっと口を開け放している城の中へと歩みを進める。初めに出迎えたものは中を華やかに彩る赤くて長い絨毯。端は大いに汚れていて、そこから黒ずみは途切れ途切れのまだら模様を描いて奥の方は赤が目立っていた。

 無理やり受けさせられた招待、その主は奥の部屋にて艶がかかった大きな机にて肘をついて待っていた。

「よお、お前らがあのクソ迷惑野郎を差し出してくれた旅行者だな」

 幹人は目を見開いていた。そう訊ねる若い男、彼こそがこの都の頂点に立つ者なのだろうか。

――若い、てっきりもっと年老いてるかと思ってた

 そう、民の声を聞き届けることのできないような高みに立つ存在、それを勝手に耳が聞こえにくくなったような老人の姿で思い浮かべていた。

「その顔、年齢に驚いているな。まあ無理はないか」

 王の言葉は新たなる事実を伝えていた。

「おおよそ30年で生涯を閉じる中、王の家系は50年は生きてるのだ。次の代へと受け継がれて半年くらい、長寿の王は見られなかったわけだ」

 幹人には王の長寿の秘訣が分かっていた。良いものをよく食べてしっかりと眠ること。王の家系の風聞の正体は贅沢者、ただそれだけのことだった。

 王は立ち上がり、ちょっと待てのひと言だけを残して裏へと立ち去って行った。

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