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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第二幕 時渡りの石
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手段

 今いるこの場、無償の宿泊と化した地下室にて、ふたりは見渡していた。他の人々の内の一部もここに泊まるのだそうだ。

「数人が消えるって噂の真相はここにあったみたいだね」

 陽が昇っている内は普通に働いて、労働の時が過ぎ去ってしまえばまるで初めからいなかったかのように姿を消す。その真相はここに寝泊まる人々だったのだという。もちろん王都の法が変わってしまったところで構うこともない、見つかれば捕まること間違いなしだった。この状況の中、リリは幹人と話し合っていた。

「さて、どのようにして忍び込もうか」

 王都立図書館、村の伝承を知って時渡りの石を手にするという重たい任務の途中の話。

「どうしよう、窓でも割る?」

 するとどうだろう、リリの表情は見る見るうちにイヤらしいニヤけを浮かび上がらせていった。

「それくらいしかないみたいだね、そうしよう」

 夜も見回りは厳重なのだろうか。人が寄り付かない時間故に事実は分からなかったが警戒するに越したことはないであろう。

「じゃあ早く行こうよ、こんな何をしようにも窮屈な都市は滅んじゃえ」

「こらこら、よくないね、その考えは」

 焦りのせいだろうか、少しばかり苛立っているように映る幹人を宥めていた。

「じゃあリリ姉はどう思ってんだよ、こんなに法律厳しい都市でいいのかな」

 少しの間をおいて、口は開かれ災いのような言葉が露呈した。

「同感、正直王にはお役御免していただきたいね」

 結局誰もが苦しむ政策は庶民に不満しか植え付けられない。異世界から来たからこそ身に沁みて感じていた。

「じゃあ今夜にでも忍び込もう」

 そう、あくまでも寝泊りだけが目的。余った時間を睡眠に回すだけのことだった。幹人はリリに目を向けて、意思を示す。リリは当然のように賛同していた。

 そこから続く安らぎのない時間、落ち着かずに震える幹人の雰囲気を感じてかリズも頭の上で落ち着きなく手足をばたつかせていた。

 リリは埃っぽい部屋の中で本を眺め、荷物の重さを感じていた。

「はて、荷物の整理が必要かな」

 幹人にひとつの指示を出す。

「持ち物は最低限に絞ろう。でなけりゃいざと言う時相手に勝つことも撒くこともできやしないから」

 幹人の納得はリリの指示に従う形を取り、ナイフ以外の持ち物は全て床に置かれた。頭の上のリズを降ろして丁寧に優しく言って聞かせた。

「荷物番よろしくね、俺たちは行ってくるよ」

 リズはしばらく顔を震わせて不満を露わにして幹人にしがみつこうとしたものの、無駄だと知っていたのだろう、すぐに荷物の上で丸くなって周囲を見渡し始めた。

「ずいぶん懐かれてるみたいだね、連れて行けばいいのに」

 幹人はこの地下室の主のことを信用できないと言った。リリはただ目を閉じ頷き「同感」と返すだけだった。

 地下より地上へ、上がる身は埃っぽさから解放された。空気は新鮮で、籠り切った空間の窮屈さは嘘のように消えていて、これが同じ世界なのか。幹人は全人で疑っていた。

「その調子だとあんまり地下室住みは向いていないみたいだね」

 リリから向けられた言葉は淡々とした声でありながらも暖かみのある想いだけは伝わってきた。

 先ほどのわざとらしい声と比べて身が震えるほどに実感していた。


 この態度こそがホントウのリリなのだ。


 冷たい声のように、淡々とした雰囲気を出しておきながら優しさを忘れない、触れてみるほどに不思議が増してゆく、実に計り知れない女だった。

 幹人はそこまで見えたところで、「本性は?」そう訊ねたくなっていた。

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