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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第二幕 時渡りの石
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明日

 まず初めに集会所へ向かう。この休憩のためにつぶされる日には食事による回復もただ単に食事を楽しむことに変わりそうだった。

 入って即座に迎えた男、村長は変わり果てたふたりの服装を眺めた。

「そうか、できたんだな」

 ええ完成したわ。そう答えるとともに男は続きを紡ぐ。

「じゃあ、施設の貸し出し費用とガイド費でそれぞれ銅貨30枚」

「金取るのかよ」

 幹人の言葉は村長のどこか致命的なところにでも刺さったのだろうか、男は声を荒らげる。

「当たり前だ! 俺たちは休みのシーズンなのに、道具も休ませてたってのにお前らはお構いなしに使ったのだからな」

 男は請求の続きを行う。

「他にも俺たちが管理してる繭から糸を採ったから銅貨20枚、村の文化を取り扱ったから銅貨30枚、総計銅貨110枚、銀貨1枚と銅貨10枚だ」

 請求した代金は恐らく村の復興に使われるのだろう。素直に払うことが人々の救いに繋がるという単純な図。分かってはいても幹人は言葉で返さずにはいられなかった。

「その請求、不当ではありませんか? 管理ってただ糸を採りに行くことを管理っていうのですか」

「当然だ」

 村長は知っていた。相手に意見させることさえ封じてしまえばどのようなことも通るのだということを。

「じゃあ復興手伝った分は差し引きするのが当然ですよね」

「あれはボランティアだから無償が当たり前なのだ」

 これは会話ではない、すべてを無理やりねじ伏せてただ己の好き勝手を通すだけの言葉の暴力だった。

「さあ払え」

 このやり取りが行われている間ずっと黙り込んでいたリリだったが、ついに耐えることができずに、感情を押し殺した低い声で述べた。

「分かりました、その代わりこのことは街の人々に噂として流しましょう」

「はっ、街ってあそこだろ? あんな馬鹿しかいない街の住民ごときになにができるというのだ。勇者様が授けた歌も忘れるような出来損ないに」

 リリの表情はこの世の何よりも恐ろしいものとなっていた。鋭い目つきに刺されてしまっては幹人ならひとたまりもないかも知れない。

「ある人物にそのような請求があった、そう言って請求額が書かれたものと苦難を綴った紙を手渡すとしましょう。ある日旅行人が来るとしよう。勇者が残した技術で造り上げられた街だということで訪れたとします」

 村長は口を開かない、まだ何も理解などしていないのだから。リリの言葉は続けられる。

「その請求書を見た時、理解するはず。金の数字くらいしか読むことができない村人には分からないそれはよそ者が書いたものだって。そうして不当な請求の話は瞬く間に旅行人の祖国へと伝わり信用を失ったこの村のものなど買うこともなくなってしまう」

 瞬間、男の顔は真っ青になった。

「どうかしら、この風聞は」

 縮こまり身体に見合わない小さな姿勢で震えていた。お土産に関してこの村だけが何も買われることなく富で潤わない、目先の欲を取るか将来のことを考えるか。

「分かった、なら施設費用だけ、それだけで」

 男の言葉の端から隅まできっちりと聞き取ってリリはため息をついた。

「そう、それでもお代はいただくものかな。まあいいか」

 そのようなかたちで交渉の角は削がれて丸い枠に収まった。

 少々不満を露わにした貌で代金を支払う魔女を見届けて数十秒を過去にして、村を歩き回ってなにかを探し始めた。

「果たして犬を飼っている野蛮人の躾はできるか否か」

 急激に冷えた表情は寒気すら感じてしまうほどのもの。幹人は涼しい環境の中で身を震わせていて、頭に乗っているリズの重心も少しばかり後ろへと下がっているように思えた。人の感性と獣の勘は確実に目の前のよどんだ空気感を読んでいた。

 それを悟ったのだろうか、それともただやってのけただけだろうか。リリは愛しの幹人にわざとらしいほどに明るい笑顔を見せつけていた。

――逆に怖いよ

 そう、打ち震えていた。あまりにも大きな恐怖をひた隠しにしてリリに優しい言葉をかける。

「まあいいじゃん、最初と比べてすごく安くなったと思うよ」

 続きに魅力的な言葉を添えて明るくてあどけない笑顔とともに贈りつけた。

「あれもこれも全部リリ姉のおかげだよ」

 その言葉はリリの心の中で反響して何度も何度も跳ね返り繰り返される。

「おかげ、私のおかげ」

 上を向いて心地よさそうに繰り返して目の前に広がる景色よりも輝く喜びをかみしめていた。

――すごく喜んでいらっしゃる!?

 それはあまりにも単純に見える反応、いつもと異なる上機嫌を目の当たりにして幹人はまたしてもリリのことが分からなくなってしまっていた。



  ☆



 気を取り直して進み始める村探索、見るところは細かくてとてもではないが観光気分になることなどできないよそ者がふたり。敵がどこに潜んでいるのか、どのように生活に溶け込んでいるのか、想像も付かない。

 住民の女の話によれば「誰も犬なんて飼う余裕なんて残していないさ」とのこと。疑わしかった。

「どうしてこうなったんだろうか、分かりやしないなあ」

 リリがこぼした言葉はまさにその通りだった。なぜ犬を飼っているどこの誰とも分からない人物に襲われなければならないのか、見当もつかないまま、手がかりも見えないまま時間だけが流れて逃げていなくなって。無駄に終わったとしか思えない一日だった。

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