復興
リリと幹人が加わって進められた作業は早く確実、やはり箒で飛んで確認することと魔法による手直しの効果は目に見えてよりよい結果を生んでいた。
そのような日々が過ぎ去ること一週間半、元々人口の少ないこの村に必要な家は全て建った。
村人たちと喜びを分かち合う幹人。ようやく家が完成して気でも抜けていたのだろうか。突然ふらつき地に身体を沈めるように倒れ込んだ。
☆
目を開いたそこに広がる景色は独特な凹凸のある灰色のような茶色一色。そこがどこだか理解できなくて。
「幹人、元気になったかな」
妖しい笑顔でお出迎えの魔女といつも通り長い耳を揺らしたリズがいた。
「リリ姉」
「リリ姉さんですよー」
白くて美しい手に引かれて立ち上がる。少しだけふらついた身体に全快はまだ少し遠いのだと教え込まれる。少しだけ気怠い身体、口から入れる水は潤いを与えてくれて、幹人に生というものを実感させてくれていた。
「少しばかり疲れがたまっていたそうね。ふふ、カワイイ寝顔だったわ」
影の混ざった笑みは美しくあれどもどこか悲し気なものであった。きっとあの時のことに引きずり回されているのだろう、そう思い言葉をかけた。
「リリ姉も疲れてるでしょ。あんな大変なことの後だから……心がもたないよ」
リリは目を見開いて立ち尽くす。ただじっとしているだけの七秒半、なにを思い巡らせていたのだろう。優しい言葉に甘えるように、心からの弱音を口を震わせながら音にした。
「ううん、あのことはもう大丈夫なの、本当に。でも……幹人までいなくなるなんて考えてたらね」
本音は途切れ、言葉が出なくて。
リリの目に浮かぶ涙を見つめてあの言葉をかけようとして。
――泣かないで
思い留まって言葉は抑えられて、代わりに別の言葉が選ばれた。
「ツラかったよね、ごめんね……今はずっと側に、すぐ隣りにいるから。いなくなったりなんかしないから」
小さくて細い身体でリリを抱き留めて支える。今のリリはあまりにも弱々しくてすぐにでも折れてしまいそうなガラスのよう。
崩した表情は見つめることなく周りに見せることなく包まれたままいつまでも隠されて。
「ありがとう、もう少し……甘えるね」
木の家にふたりきり、リズすらいないそこには果たして何者であれば割り込むことができるだろう。
誰にも触れさせないふたりだけのお話。
☆
しばらく抱き合っていたふたりはようやく落ち着いた。随分と時間がかかってしまって夕日に包まれた空間の中、幹人は質問を放り込んだ。
「そういえばここはどこ? リズはどこ?」
リリはいつもの見透かすことのできない霧のような顔を浮かべて幹人の瞳を覗き込む。
「ここはどこか、私の心の中とでも言っておこうかしら」
「ええ!?」
戸惑いのあまり上がってしまった素っ頓狂な声に対してイタズラな笑みを見せていた。
「冗談、村の家の中よ。あと心配しなくてもリズは家の上の藁に寝そべって耳を揺らしてると思うわ」
家の上でくつろぎながらゆったりと耳を揺らすリズを想像してニヤつきが止まらなくなっていた。リリもその表情に賛同するように頷いていた。
「分かる、凄くカワイイものね」
その次の言葉、それに対して幹人の表情は凍り付いた。
「私とどっちがカワイイかしら」
あまりにも苦しい質問、どちらとも、では納得してはもらえないだろう。
「どっち? どうかしら」
顔を近付ける。距離は埋まり次第に幹人の瞳に映る顔は大きくなってゆく。あまりにも答えにくい質問にあまりにも甘い空間。くらりと頭を揺らすものは空気か感情か、幹人には分からない。
目と鼻の先、動けば触れてしまいそうなところに甘い幻のように、しかし癖のある髪は幹人をくすぐって甘い現実として確かにいるのだ。
甘さに心打たれている姿はどう映ったのだろう、目の前の大人の女性は声を弾ませて言った。
「冗談、質問がイジワルすぎて流石にかわいそうね」
幹人から顔を離して両肩に手を置いて、見つめた後、視線を空に移して瞳に闇を映す。
「晩ごはんといきましょう、仲間と食べるってだけで嬉しいものさ」
その言葉に幹人まで嬉しくなってしまう。外に出てリズを頭に乗せてみんなで晩ごはんの支度を始める。
闇の中、ふたりと一匹はどこまでも明るかった。




