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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第一幕 リリとの出会い
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手遅れになる前に

 ナイフを突き出してくる少女、ナイフで受け止める幹人。互いの殺意の鋭さは武器の扱い方に出ていて幹人の行動に少女はますます苛立ちを強めるばかり。

「おいなめてんじゃねえ! 男だってんなら受け止めろ!!」

 声の激流、あまりにも悲痛な傷だらけの裸の心は聞いているだけでも幹人の心を抉りにかかる。

「戦いなんて」

 幹人には理由も恨みもなく、ただ一方的に作り上げられた闘いの中で幹人には踏み込む覚悟を持つことができないでいた。棘となる毒がなにひとつない、平和ボケしたまっさらな心では目の前に立っている『人間』を相手になどできなかった。

「なら死ね! 私と変われよ!」

 そう言って少女の意志から出て来た一突き、それを再び防いで飛び退く。

「不幸ひとつ知らないで生きて来たんだろ」

 これまで戦ってきた存在、イノシシに魔物、人といえども見えなかった者。軽かった。今回の相手に比べてあまりにも軽い戦いだった。

 今目の前にいるのは不幸を嘆きながら、自身の恵まれない人生への苦しみを叫びながら戦う少女、幹人とあまり変わらない年齢で己の生き方を選ぶことすらできなかった人物。あまりにも重すぎた。

 幹人はその憎悪から目を逸らして仲間の魔女のことを思い出していた。

――リリ姉はどうしてるのか……待った!

 リリは母を殺されていて、殺した人物は恐らく父親で。


 次にリリはひとりでなにを行うつもりだろうか。


 嫌な想像が頭の中を駆け巡る。

――まさか、ダメだ

 父を憎む娘はきっとその手で処理を行うつもりだろう。目の前の少女が幹人に向けているような憎悪を向けながら。

「こっち見ろよ考え事かよ!」

 ナイフとナイフは再び打ち合って、幹人は飛び退き少女から目を離さないまま弧を描くように走って距離を取る。

 ナイフで髪をひと房切り取ってリズに咥えさせて言い聞かせるように指示を出した。

「いいかいリズ。リリ姉は父さんを殺そうとしてる。それだけはダメだから」

「なに話してんだ余裕だな」

 素早く突撃してナイフを振るう。それは幹人の頬を掠めて赤い液体を地に散らした。

 リズを走らせて、ナイフによる攻撃を躱しつつリズを目で追いつつ言葉をリズに向けた。

「リリ姉を止めるんだ」

 ナイフを振るいナイフを受け止める。

 少女と幹人の顔は近付き、凶暴な表情が幹人に噛みつくように捕えて放さない。

「分かんねえだろうなあ、考え事をする余裕も仲間の温かさも知らない生き方してきた私の気持ちなんてよお」

 もはや逃げることなど許されてはいなかった。

「分かんないよ、だけど」

 元の世界、平和な世の中で生まれたような想いは通じるものなのか。分からなくても語るしかない。

「だけど、こんなこと……間違ってる」

「幸せ者はなにも知らねえからそんなことが言えるんだ」

 決して分かり合うことのできない闘いの中、傷つけず傷つかず、それを意識しながら攻撃を捌いてゆく。このような行い、それがまた収まらない腹の虫を鳴らす原因となってナイフを振るう腕はますます激しくなる。

「なめてんじゃねーぞ! やっぱり私みたいなのがどれだけ訴えたところで聞く耳すらもたねえってんだな!!」

 この少女を止める手段などすでに消失しているのだろうか、どう向き合えども悲惨な結末しか見当たらない。

――時間を稼いで逃げるしかない

 リリが助かったことを確認できれば即逃走、これに賭ける他なかった。

――頼むよリズ……手遅れになる前にリリを止めて

 それまでは生きてやり過ごす、固い意志で闘いを行っているのかいないのか、中途半端な行動と憎しみの衝動は激突を続けていた。

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