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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第一幕 リリとの出会い
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許さねえ

 ふたりと一匹で道を進み続ける。変わったものは特になくて、夜の闇は深く濃く強く。

 リリは立ち止まり、箒に跨る。

「ふふ、私たちの関係に邪魔を投じる人たちもいなかったみたいだし……飛ぼうか」

 待っていた。楽な移動手段の解放を幹人はずっと待っていた。リリに倣って幹人も箒に跨りふたり乗り。

「リリ姉さんにしっかりつかまっておくれ。ほうら、女の子に気兼ねなく触れられるタイミングだよ」

「リリ姉わざと言ってるよね絶対」

 顔は茹で上がり、身体が熱い。言われてしまえば否が応にも意識してしまう。ないはずの気兼ねを作り上げているのは明らかにリリだった。

 やがて浮かび上がった箒は空へと舞い始める。箒に乗る者すべてを美しい星空へと案内して、村へと突き進む。

 盗賊団に支配された村。村人はみな王都へと逃れたのだという。そうして支配されること三か月くらい、村は大量の穴で破壊の彩りを加えられて家は壁が毟られてボロボロといったみすぼらしい有り様。そんな破壊で作り上げられた村の姿に心を痛めながら宙に浮いていた足を地に着ける。

「到着」

 リリの言葉が村に降り、リリと幹人は箒から降りる。

「さてさて、ここでなら少しばかり本気を出しても」

 リリは腕に植物を絡め飾っていた。

「咎める者は咎められるべき者だけってところさ」

 リリは腕を突き出した。歩き歩んで歩を進め、徒にて相手を探りゆく。

 幹人はナイフを構えていた。ここは敵の巣だ、いつ現れるか分からない相手の気配を探り、警戒しながら慎重に足を進める。

「幹人、戦いの準備はできているかい」

 リリの問い、それに対する答えなど当に決まり切っていた。

「モチロン」

「互いに生きて帰ろう、返り討ちにあわないようにね」

「当然だよ、リリ姉」

 盗賊を追い払う作戦、というより作業。戦略など考える頭も持ち合わせていない身としてはこのくらい大胆なほうが動きやすく進めやすい。

 予想外の方向からの奇襲がなかったことでふたりは別々の方向へと進み始める。

 それぞれの進む方向に待ち構える盗賊を魔法で軽く叩いて気絶させる、それだけの簡単な戦い方。

 リリは家の壁に花弁を撒きながら跳ねるように進み、盗賊を見つけるとともに薄桃色の花びらから同じ色を持った九鬼が生えて薄桃色一色の異形の花を咲かせる。花はその頭で盗賊を殴り花粉を被せて気絶させた。

「少しばかり昏睡して目覚めと共に水を求めて彷徨い川に転落するような毒、恐ろしいものだね」

 自身は絶対に受けたくない、心の底からそう思っていた。

 幹人がいるはずの方向を眺め、なにも動きがないことに首を傾げる。

「もしかして、私たちの麗しいやりとりを見ていたかな」

 途端、後ろから迫り来る殺気を知って花の怪物で受け止めた。

「見つけたぞ、リリ」

「父さんね、やり方が盗賊らしくなっちゃって」

 リリの目は冷たくて色を失っていた。親を見る目つきとは思えなかった。


 一方で幹人はリリが見えなくなってから一歩動くことも叶わず奇襲を受けていた。

 振り返りながら振るったナイフが受け止めたものは同じナイフ。目の前に立つ者は初めて街を訪れた時目にした孤独な少女。

「よお、幸せ者」

 幹人は疑問を口に出さざるを得なかった。

「あの時の……盗賊だったの?」

 少女は憎しみを最大限に込めた瞳で睨みつける。

「そうさ、私は監視役だ」

 そこから互いに一歩飛び退いて、会話は続けられる。

「私は死にかけてた身で盗賊に拾われどうにか生きて来た」

 固くて棘だらけの声に込められた想いをぶつけ続ける。

「なのにお前はいいよな、魔女に拾われて幸せに生きて」

 不公平だ、そう吐き捨てる少女に対して哀れみの視線を向けてしまう。

「そういうのが一番イラつくんだ! 幸せ者は幸せ者らしく」

 少女は走り出し、ナイフとナイフは交えられる。

「見下して笑ってろ」


 リリと父の方でも戦いは始まっていた。

「待て、リリ。目的が達せられたらみんな幸せになれるから」

 父の言葉にリリは言葉を放り投げる。

「いらない! どうせ時渡りの石の事でしょ」

 父のナイフとリリの腕に絡みついた異様に固い蔓はぶつかり合う。

「そんなことしたってあなたの行いは消えはしないの、この人殺し!」


 幹人の元で少女は口を開く。

「クソみたいな幸せ者め」


 父の元でリリは言葉を吐き捨てる。

「この世界も大事な人も殺す悪人め」


 ふたりが選ぶ言葉、それが選んだ意志、それは同じものだった。


「絶対に許さないわ」


「絶対許さねえ」

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