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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第一幕 リリとの出会い
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待ち構える魔モノ

 歩いても進んでも景色はあまり変わり映えしない。山の外周を沿って周ってどれだけの距離を足で稼いだだろう。正直にいうとくたびれかけていた、今にも弱音が吐き出そうだった。

「リリ姉あとどれくらいかな」

 疲れをリリの愛しの明るい表情を摂ることで隠しながら訊ねた。曰く、着いた時まで。つまり分からないということだろう。とにかく歩いて太陽を追いかけてゆく。立派に空の中で輝く陽はあまりにも眩しくて。

「秋なのにあんまり涼しくない」

「日本は表情をころころ変える気まぐれ天気屋さんだものね」

 そう、日本には四季があって空気そのものに情緒があって。リリはそれが堪らなく好きなのだそうだ。

 幹人にとっては当たり前すぎて気が付かなかったことをリリと過ごすことでいくつか教えてもらっていた。

 太陽が真上を向いている今になってようやく山へと足を踏み入れた。

「そこの看板が目印なの」

 そこにはいくつかの線が引かれた看板、古びた木の板が立てられていた。引かれた線を眺めるも、その線の意味する言葉など思いつかない。

「なんて書いてあるの?」

 リリは目を伏せ首を横に振る。

「文字じゃなくてただの線、文字を読める人なんてここには私と幹人しかいないんだ」

 つまり誰にでも理解できるように複雑な線の集まりの文字ではなく簡単で単純な線で表したということだろう。

「王都はマトモに教育のひとつも講じないくせに己の都合で金を使わせるし、魔女の教育なんてしようと思ったところで周りは生きることで必死」

 周りから置いていかれたように文明の進まない街、鍛冶と多少教わった農業だけで精いっぱいで他に手が回らないのが現状なのだという。

「今では数字を読むのが彼らの頭脳労働、王都も勝手すぎるものね」

 自由気まま、周囲の意見も聞かずに事を進める人物は幹人も嫌いだった。クラスにひとりはいる人気者、そんな人物と同じ印象の都。

「ホント、イヤになっちゃうね、リリ姉」

 空は木々の腕のような枝に遮られて葉は複雑な影を作る。鋭い眩しさは薄れてゆく。

 目の前に見い出した穴、そこを細い指で指示してリリは幹人に目を傾ける。

「着いた」

 幹人は返事のひとつも返さない。疲れが脚に来ていて更に頭までもがおぼつかず、世界が曖昧に想えていた。

「ここがそう、鉄の材料の鉱石が採れるところ」

 リリの言葉に耳を傾けることで精いっぱいだった。リリを先頭に進みゆく。穴の中へ、暗闇の中へと吸い込まれるように。

 リリは指を鳴らした。明かりも音もなく果てがないように思える虚空の中で音は壁や天井にぶつかり跳ね返りさざ波のように細切れに弱々しく響いて進んだ。音の波が通り過ぎると共に壁に小さな火が灯る。頼りないそれはしかし暗闇に閉ざされたそこではあまりにも心強くてたくましい。赤は闇を自分色に染めて辺りを照らし出す。疲れた幹人には単純に美しいと思えた。

 そうして微かな明かりが立ち並ぶことで満たされた空間、その奥に立つ存在に人々は目を奪われる。

 鉄のような固い棘が背中に生えた身体はハリネズミを連想させる。頭は溶けた過程が目に取れる白銀の固いものと同化していた。

 リリは驚きのあまり口が開き、幹人は恐怖のあまり口を震わせる。人々はそれぞれに心が穏やかでなく、異なる頭で似たことを感じていた。

「まさか……魔獣」

 あまりにも硬質な外見の魔獣は鉄をこすり合わせるような不快な声で唸っていた。

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