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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第一幕 リリとの出会い
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食器

 質素な晩ごはんをまたしても手でつかんで食べて食後に手を洗う。慣れない文化に慣れない感触に慣れない行動。一体いくつの『慣れないもの』に出会っただろう。汚れた手を見つめ、洗いながら幹人は大きなため息をついた。

――箸かスプーンが欲しい

 この世界の『日ノ出ル東ノ国』としての日本ではどうなのか分からないが、幹人の住まう日本ではひとり一本は当たり前のもの。その常識をリリに話したところ、笑って答えた。

「お箸……あれね使いにくい事この上ない二本の棒だね。あれを好き好んで使うあの国の住人は子どもから大人までみんなして曲芸師かしら」

 リリは顎に手を当てながら天を仰ぎ、言葉を続けた。

「スプーンは……あれば便利かもね。帰ってきて日が浅くて色々あったから抜け落ちてたんだ。天然は嫌いかな?」

 いいえ、たまに出るのは大好きです。その言葉を抑え込んで代わりに別の言葉を選んだ。

「スプーン、作ろう!」

 闇に塗りつぶされた空の下、ふたりは意識を闇に溶かして静かに眠る。闇色はやがて薄れて薄い月が顔を明るい笑顔になりゆくあの空に身を溶かして朝が来た。森ではそれといってニワトリが鳴くこともなければ鬱陶しい公民館のチャイムが響くこともなくて、幹人にとってはそれだけで安心を与えてくれていた。きっと街では農民たちがざわめきながら農具を持って歩いていることだろう。

「そうそう、うるさいから森の家で寝てるの」

 リリは完全に幹人の意見に同意していた。

 日頃から一切街に寄らない日がそれなりにあるほどに騒がしいのだという。しかし、今日という日は目的あって足を踏み入れなければならない。鍛冶と軽い耕作、それがウリの街に新たな名物を作り上げて風聞を広めて少しでも街を豊かにしたい。

 という建て前で動き始めたふたり。街に踏み込み歩いてゆく。地面のひび割れから雑草が覗き込むように顔を出している様とツタの張った家、あまりにも古びた街は老化が進んだ存在なのだろうか。

 リリは街のシンボルである錆びついた鐘を鳴らそうと力を入れるもなかなか鐘は重い身を動かそうとはしてくれない。力を入れて、幹人とふたりで、魔力を吸った耳の長いリスのような魔獣のリズも加わって、ようやく重い腰を上げるように動き出し、鐘はいつ以来なのか数えることすらできないほどに長い沈黙を破ってひび割れた音を響かせた。

 人々はなにごとかと驚き慌てて集い、リリは人々の沈黙を確認することでようやく言葉を現し始めた。

「今からみんなで鉄鉱石の採集に行こう。いいかい? 集めて料理を食べるための食器を作るのさ。そして、町おこしと行こうってとこ」

 そう言われ頷く人々。特に逆らう意思を感じない、というよりは誰一人として知恵を以って行う反論ができない。そのようなものであろう。

 そうして人々はつるはしを掲げてひとりの魔女と側にいる少年に続いて歩き出した。

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