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異世界風聞録  作者: 焼魚圭
第四幕 異種族の人さらい
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説明

 歩く紘大と隣り合うミーナ。その中で、大勢の人々に伝えるような勢いで紘大は語り始めた。


「知ってるか? 人が成長する時に反抗期ってやつが来るんだってさ」


 因みに俺の住んでた国では常識なこれ。その言葉に通りかかる人々から荷物を運ぶ働きヒトまでありとあらゆる人物の耳を奪う。


「成長してさ、独立するんだ。親のためじゃなくて自分のために生きる世の中だ。発展した国がたどり着く地点のひとつ」


 狂人なのか凶人なのか、この国での無知というものによって抑え込まれ保たれていた均衡を打ち払う新しい考えを風聞という形で振りかざし振り回し振り下ろし、示して見せていた。


「周りだって薄々は気づいてるはずだぜ? 言いなりだけで無理やり生活まで縛って嫁ぐためだけに寿命を削るような食生活してさ。おかしいだろう?」


 紘大の言葉はあまりにも素早く広がって行った。そう、この国での様々なしがらみに対して疑いを持って反抗心を抱いても全ては闇に葬り去って平穏を顔に書いて生き続ける。昔からその過程を通り過ぎてきた人は多く、同意しかできない。否定、反抗。それは信じたくない人、都合の悪い者、意地を張る者によって行われる。


 そのような人々のことなど紘大は一切考えていなかった。


 流した言葉はその瞬間にも風聞となり流れ、年頃の少年少女の耳に、心に届いていた。そんな中、紘大がひとり放っていた言葉と言えば。


「別に俺はむっちりした子もぽっちゃりしたくらいの子も好きだけどな」


――女の子って存在そのものがかわいいから

 そんな言葉はきっとミーナくらいにしか届いていないだろう。

 うわさ話をまき散らす紘大の元に異なるうわさ話が流れ込む。それは商人と船に品を積み込む作業を仕事とする男の軽い会話だった。


「竜の国とか聖なる国とかある島が隣にあるだろ」

「ああ、あるな」

「さらにその隣の独立王国の島」

「ん? ああ、そこがどうした」

「王都周辺の村が盗賊団に占領されたらしいぜ」

「なんだと、じゃあそことの交易は控えた方がいいな」


 巻き添えは御免だ。この話題はそう締めくくられた。もし海にも盗賊がいたら、船を乗っ取られたら。当然の選択ではあった。紘大も無言で頷き、ミーナは右から左へ目にも止まらぬ速さで通り抜ける言葉に首を振り回されていた。

 そこからはまた異なる話題へと移って行った。


「例のあれ、働いてるか?」


 商人の問いに対して首を横に振る。


「そうか。獣人は力持ちだから報酬さえ与えれば役に立つかと思ったんだが……残念だ」


――獣人?

 その疑問には輝きが含まれていた。


「だめだ、猫の耳した子よりオオカミの耳のが良かった。しかも女だぞ。絶対怠け者用意しただろ獣人どもめ」


――そこはナマケモノ用意しようぜ?

 ズレたツッコミを心の内で入れつつも、紘大の中では今、最高潮の高波による大荒れ模様が暴れ狂っていた。

――ケモ……ケモ

 それはきっと彼にとっての異世界冒険における醍醐味のひとつだろう。ついつい言葉となって溢れてしまうほどのものなのだから。


「ケモ耳美少女だ! ハーレムにご加入候補筆頭だぞ」


 ミーナは首を傾げていた。当然のように飛んでくる疑問が紘大との心の距離を大きく開いている深い裂け目を露わにした。


「そのハーレムとやらはそんなにいいものなの? ワカラナイんだけど」


 思想の差は思考で埋めるしかないのだろうか、紘大の言葉は考えと異なるものを口から走らせていた。


「じゃあそうだな、ミーナはたくさんの女の子とおっぱ……いっぱい仲良くなりたいって思わないか」

「今変なこと言おうとしてなかった?」

「下心、いや気のせいだ」


 そうした返答からつなげられた会話、ミーナはゆっくりと首を横に振っていた。


「別に? コウダイくんだけで充分、他の子に邪魔されたくない」

「そいつは純愛かあ。ピュアッピュアラブリーシュート! 堪んないな」


 言ってる意味がわかんないよ、ミーナが大きくもない声で返す言葉はもっともなものだった。紘大はミーナの肩に手を置き抱き寄せて、ミーナを平常心から突き落として優しい表情を向ける。


「安心しろ、俺だってミーナが一番だ」


――そう言って本当は

 返すつもりのものも喉元かまだまだ心の奥か、そこで詰まって出て来ることもない。飽きたら見捨てられる、そう思いつつも紘大から目を逸らすことがミーナには出来ないでいた。

 紘大の目に映る未来の像が全くもってつかめなかった。つながる末端どころか切れ端に触れることすらできる気がしなかった。触れられる嬉しさ、熱くて苦しい感情に対する甘い表情の裏に潜む感情を読まれたのだろうか、紘大の口からある提案が飛び出て来た。


「じゃあさ、おんなじ模様の指輪を身に着けようぜ、愛のカタチとして」


 それがひとつの愛の証とでも言うのだろう。ミーナは麗しい提案に瞳を輝かせていた。


「そうだね、貝の首飾りがいいかな。一緒に一生の約束をしよう」


 ここは海も近い、そう伝えることでどこへ向かうのかはっきりと示されたミーナによる誘導が行なわれていた。乾いて褪せた空と世界に吹き込む風は爽やかな貌をして見守り続けていた。

 そんな空に向かって微笑んで、紘大の誓いはより一層強く心に刻まれた。

――待ってろよ、美少女ハーレム。ミーナを正妻に迎えつつ持て余すくらいの女友だちを可愛がる理想郷を創ってやるぜ

 清々しい空に負けず劣らずの純粋な色をした下心に支配されたまま、ミーナの柔らかな手に心を清められる。不浄な正常、不定の清浄。矛盾するふたつを持ち合わせた不思議な今はとても心地が良かった。

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