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 並木のハナミズキの葉もあらかた散り終え、冬が近づいていた。


 その日、昼過ぎに来店した神山さんのカットを担当したのは、真琴ではなく池上ちゃんだった。


 その時自分の客が無かった真琴は、店の奥の狭いバックヤードで、駅前のセブンイレブンで買ったミートソースパスタを食べていた。添付されていた粉チーズをパスタにかけてソースと麺をぐちゃぐちゃに和え、ソースで真っ赤になった麺をいざ食べはじめたところで、表の物音で神山さんの来店を知った。


 池上ちゃんがハイテンションで神山さんを迎え、店内に案内し、カットをはじめた。施術中の神山さんと池上ちゃんの会話ははじめこそぎごちなかったが、そのうち油が馴染んだ機械のように滑らかに回転しはじめ、意外にも盛り上がりをみせていった。


 真琴は我慢できずにバックヤードを出て、本来必要の無い店内の掃除をしだして、盛り上がる二人をちらちら眺めていた。彼女にとってその光景は言うまでも無く残酷なものだった。


 何か神山さんが池上ちゃんに笑い話をし、それに池上ちゃんが「マジっすかそれ」と答え、あはは、と軽やかに笑った時、真琴の忍耐力が限界を迎えた。真琴は掃除に使っていた雑巾を手にバックヤードに入り、なぜか食べかけのミートソースパスタの容器を両手に持って戻ってきた。そして、池上ちゃんのそばに近寄った。すぐそれに気づいた池上ちゃんが、彼女の右側に立った真琴の方を振り向いた。


「時田さん? どうしたんすか? え、ていうかなんでパスタ……? あの、今カット中なので用なら後で――」


 そう言いかけた池上ちゃんの言葉を真琴はさえぎり、


「今日はブラウス、白なんだね」


と言った。この日池上ちゃんは、白のブラウスを膝丈のタイトなスカートにタックインさせていた。


「はい?」


 池上ちゃんは要領を得ずに、マスクの上に出ているその大きな瞳を光らせて返事をした。その前で椅子に座っていた神山さんが右に振り向き、不審げに真琴を見た。真琴は低い声で続けた。


「でも神山さんはあなたには赤のブラウスが似合うって以前おっしゃっていたから――」


 そう言いながら、まだ微かに湯気をあげているパスタの入った容器を、両手から片手に持ちかえ、そのまま肩の上まで持ち上げた。


「私が赤に染めてあげる」


 池上ちゃんのブラウスの胸元へ、パスタを容器ごと勢いよく投げつけた。

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