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 時田(ときた)()(こと)は、太った、イケてない美容師で、気の毒なのは彼女自身そのことを痛いほどよく分かっていることだった。


 中学時代「白ブタ」とあだ名をつけられたこともあるその体は、齢と共に太り続け、三十七歳の今、体重は七十キロ近くになっていた。その膨れた腹を隠すため年中ゆったりとした服に身を包み、カットの技術にも今ひとつ自信のない彼女。そんな真琴は、施術時にせめて客にひと時の楽しい思いとくつろぎを味わってもらえるよう、唯一のとりえである明るさとコミュニケーション能力でもって客の話を執拗なまでの相づちを打って聴き、大して面白くも無い話をアッハハハ、アッハハハとおおげさに笑って、ばか笑いを美容室中に響かせているのだった。


 真琴は栃木県南部に位置する田舎町、那生(なき)(ちょう)にある小さな美容室で雇われて働いている。


 元々は専門学校を出た後小山市にある大手美容室に父のコネで入店したのだが、残業の多さとノルマの厳しさにうんざりして、入社を後押ししてくれた父が肺がんで亡くなった直後、勤続五年余りで退職した。女性のスタイリストとしては珍しく理容師免許も取得していた彼女は、その後同市内のいわゆる格安理容室に転職した。


 こうして指名のノルマと細かい技術の追求からは解放された真琴だったが、今度は男性ばかりの職場の居心地の悪さと、ひたすら客の回転数を上げて利益を上げようとする店の忙しさに追い詰められ、結局ここも長続きせず辞めた。


 よせばいいのに彼女はもう一度同じような格安理容室に再就職し、その店も前店とほとんど変わらない理由で退職した。心身をすり減らし、さすがに転職活動に慎重になった彼女は、「給料は安くてもとにかくノルマが厳しくなく忙しすぎない店を」という目線で新しい職場を探しだした。そうしたら新卒で働いた美容室の先輩美容師のツテで、この那生町「ヘアーサロンK」への就職が決まったのだった。


 こうして栃木県二番目の人口を誇る地方都市・小山市から、田舎の那生町へ都落ちして早六年。指名客の少なさを店長から時々嫌みったらしく指摘されながらも、真琴は真琴なりに必死に働いてきた。転職を繰り返し、もう若くなく、ルックスは並以下で、スタイリストとしての技術も高くない彼女にとって、「ヘアーサロンK」でのささやかな職務は最後の寄る辺であった。それを守ろうとする必死さの表れとして、真琴は来る日も来る日も「アッハハハ! アッハハハ!」と客の話にお追従の笑い声をあげて働いていたのである。


 ――こんな真琴が恋をした。相手は「ヘアーサロンK」の客で、真琴より三十歳以上齢が上だった。

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