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5.

「貴様! なにをわざとらしく悲壮感を見せているんだ! お嬢さまは貴様の弟の命令で被害に遭ったんだぞ! 私がいなかったら今頃、下種な騎士どもに無理強いを強いられていたところだったんだ! お嬢さまに対してお詫びするのだというのなら、貴様自身か馬鹿兄弟の首を差し出したらどうなんだ!?」


王族相手に対して容赦ないことを言うジェシカ。しかもその口調は決して王族相手にしていいものではないし、少し話を大袈裟にしている。


「ちょっとジェシカ! そこまで言わなくても! っていうか、話を盛りすぎだから!」


怒りを露にするジェシカを諫めるリリィだったが、すでにトライセラの心は折れてしまっていた。


「そうですよね……。我が兄と弟は取り返しのつかない過ちを犯してしまいましたね……。それを止められなかったのは紛れもなくこの私です、父上と母上の不在をいいことにあんなことをするなんて。……ふふふ、確かにお詫びとして出すなら首でも差し出すのが妥当でしょう。しかし、兄は行方不明で弟はまだ幼すぎる……。兄は救いようはないが弟はあります。私はあの子の兄として代わりになる義務がある。つまり……」


虚ろな目でブツブツとつぶやくトライセラは、自らの腰に掛けてあった短剣に手を伸ばした。


「私が、死ねばいいという訳ですね」


「え?」


そして、短剣を手にとって己の首に向けるトライセラ王子。流石の展開に王太子を婚約破棄した公爵令嬢リリィもただならぬ雰囲気を感じる。


「あ、あの~、殿下~? 冗談ですよね?」


リリィはひきつった笑顔で止めようとするが、トライセラは死んだ魚のような目のままで笑顔を返した。


「いいえ、死んでお詫びしま、」


「殿下ぁぁぁぁぁ! 早まってはなりませんぞぉぉぉぉぉ!」


トライセラが短剣で首を切り裂く寸前のところで、執事服を着た男が止めに入った。


「離してくれないかい? これから死んで詫びるんだ」


「なりません! なりませんぞ! 殿下が死んだらまともな王族は一人もいなくなりまする! 能天気な国王夫妻に無能な第一王子と読み書きができるようになったばかりの幼い第三王子だけが残ったら、国は破滅! 殿下だけが我が国の希望なのですぞ!」


「でも、もう楽になりたいよ。邪魔しないでくれ」


「そんなわけにはいきません! 早まらないでくださいませ!」


リリィとジェシカの目の前で王子と執事が暴れだす。正確には王子の短剣を執事が奪おうとして、王子は執事の手から逃れて自害しようとしているだけだが、二人とも結構広範囲で暴れている。


その暴挙は、一人の女騎士を苛立たせるには十分だった。ジェシカは鞘を抜かぬまま剣を構えた。


「ちっ、狼藉者どもめ。お嬢様、お下がりください。狼藉者二人を沈めます」


「本当の狼藉者じゃないから、ほどほどにね」


「かしこまりました。喰らうがいい、必殺チャーミングレイブン!!」


それは、とてつもない速さで剣の切っ先で突いて突いて突きまくる技だった。あまりの速さで剣を突く光景は、無数のカラスが襲いかかってきているような錯覚を思わせる。しかも的確に相手の痛い場所を突いてくる。


「「わあああああ!!」」


王子と執事は突然の攻撃になすすべもなく突かれまくった。そして、そのまま動きを止められた。王子の持っていた短剣も弾き飛ばされたため、王子の自害は上手く防ぐこともできた。

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