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10.

「公爵令嬢を婚約破棄してまで得ようとした娘なら責任を取れ、か。あの国王陛下にしてはいい言葉だとは思わないかしら?」


「私はそれでも甘いと思います。ティレックス伯爵もあの女も犯罪に手を貸したのだから死刑でなくとも貴族のままにしておくべきではないと思います。トライセラ殿下も貴族の立場はマズいと言っていたではありませんか」


ジェシカの言うことはもっともだ。たとえ王子でも公爵令嬢を勝手に婚約破棄しようとしたり、王宮を抜けて行方不明になったり、挙句には他国に逃亡しようとしたのだから、貴族の立場に置いたままにするのは寛大すぎる処置だとトライセラをはじめ誰もが思った。もちろん、プラチナム公爵もジェシカもだ。


「まあ、元凶のメアナイト男爵は懲役50年ということになったけど、巻き込まれた子供たちは救いようがあるとか国王陛下は思ったんじゃない? 自分の息子があれだけ泣きわめいたらね。トライセラ殿下は嫌そうに見てたけど」


「あれは酷いと思います。あれだけ人に迷惑かけておいて反省するだの謝罪するだの、おまけにお嬢様に劣等感を抱いたから婚約破棄しようとしただなんて……」


マグーマが婚約破棄を願った理由も分かった。それはリリィに対する劣等感だった。美しくて文武両道で多くの人に恵まれるリリィは、何のとりえもないうえに我儘で自己中なマグーマにとっては嫉妬の対象だったのだ。その弱みに付け込まれてアノマに夢中になりだしたらしい。なんとも情けない話だ。


「しかもメアナイト男爵が犯罪者だと知ったら、お嬢様に『俺が間違っていた。アノマに騙されたんだ』だの『もう一度俺とやり直そう』だのと馬鹿げたことを言いだして、肝心の男爵令嬢が隣にいたというのに……ああもう! あの時切り捨ててやればよかったのです!」


裁判でのマグーマのことを思い返すジェシカは忌々し気に吐き捨てる。マグーマの恋人になったアノマは父親のロカリスが犯罪を犯していたことなど知らなかったらしい。裁判の時に父親の罪を知って顔を青くしたのに、マグーマにも「騙された!」と言われた時の顔は絶望に満ちていた。「どうして、どうして」とうわごとのように呟いて咲き崩れたアノマの姿はとても痛ましいものだった。


「あの時に馬鹿男を切り捨てたところで誰も救われないわ。もっとも、アノマ嬢に関してはしでかしたことは問題だけど父親が犯罪者だったことと恋人が下種だったことは気の毒に思えるわね」


「あの女の自業自得ではないですか? お嬢様を陥れようとしたのですよ!」


「だからこそ、彼らには時間をかけて償って心を入れ替えてほしいの。それが私の願いよ」


「! お嬢様……」


露骨に怒りを示すジェシカを少し困った笑顔でリリィは微笑みかける。


「ジェシカ。もう済んだことです。気にしないで」


「お嬢様がそう言われるならば気にしません」


「ふふふ、貴方のその切り替えの早さは好きよ」


「光栄です!」


ジェシカは怒りを無くしてリリィと同じように笑顔になった。


「それに裁判の後でトライセラ殿下は二人に会って、変わってほしいとお願いしたと言っていたわ。ティレックス伯爵も弟が頭を下げて心を入れ替えるように頼んだんですもの。二人は変われるんじゃないかしら?」


「そうでしたか。はぁ、あの二人よりもトライセラ殿下が心労で倒れないか心配になりそうですね。苦労人ですし」


「ふふふ、冗談に聞こえないでしょ」


二人が楽しそうに会話していると、喫茶店の外で少し騒がしくなった。


「? あれは?」


「ストリートミュージシャンというやつですね。あれは確かストリートミュージシャンのジミー・タカーナみたいですね」


「最近有名になったミュージシャンね。どんな歌かしら?」


喫茶店の近くでストリートミュージシャン・ジミーが歌を披露していたので、二人は受付にお金を払って喫茶店の外に出た。


「中々見事な歌ね」


「はい。ノリのある激しさが刺激されますね」


「貴族のパーティーでは決して聴けない曲を奏でる人は最近増えたと聞くけど、ここまで刺激されるのは初めてだわ。新鮮で聞いているだけで気持ちいいわね」


「ギターという楽器もすごいですね。バイオリンではこんな音色は出ません」


「ふふふ、これは楽しみが増えたわね。ここに来る理由が増えたわ」


せっかくなので、二人は大人しく歌を聞いて楽しんでいた。しばらくはこの喫茶店がお気に入りになりそうである。







この一か月後、新たな王太子行方不明事件が起こるのだが、その事件にも彼女たちが関わることになるのは別の話になる。




終わり


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