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ナイトメア・イン・ワンダーランド  作者: Licht-リヒト-
7/9

第7話-真実-

 ユイは震える手を思い切り握りしめる。

 このままでは、みんなが死んでしまう。

 おそらく自分も死んでしまうだろう。

 あの銃弾から逃げられるはずもない。

 だったら……死ぬ前に言いたいことを言ってしまおう。

 今までずっと自分の意見を言えずに、父や友達の顔色を窺いながら生きてきた。

 でも、そんな自分がこの世界を平和に出来るなら。

 少しでも良い方向に変わって欲しい。

 魔法なんかに頼らず、自分の意志で!

 その一心で、ユイは口を開いた。

「どうして……平気な顔が出来るんですか。確かに、騙した私が悪いです。でもそれなら……兵隊を殺さなくても良かったんじゃないですか!? 彼らだってあなたに応えようと精一杯頑張っていたのに!! 人の命を簡単に奪って……心が痛みませんか!? それに、なんで、楽しませてくれってゲームみたいな言い方が出来るんですか!! 自分の思い通りにならないと駄々をこねる……そんなのまるで子供じゃないですか!!!!」

 殺された彼らにも家族がいたかもしれないのに。

 どうしてそんな簡単に、人の命を奪うことが出来るのか。

 ユイはタイムとアフェリに向けて、全てをぶつけた。

「言いたいことは、それだけですか? もう3分です」

 淡々と言葉を紡いだタイムは、ゆっくりと引き金に指をかける。

「やめろっ!」

 マッドとチェシャが叫ぶも、タイムが止まることはない。

(言いたいことは言った……悔いはない)

 死を覚悟して目を強く瞑るユイ。

 その時、緊迫した状況に間の抜けた鳴き声が響いた。

「え……?」

 自分の足元から聞こえてきた声に、ユイが目を向けるとハリネズミが甘えるように擦り寄って来ていた。

 それを見たユイは緊張の糸がほどき、へたり込んでしまった。

 ハリネズミはゴロゴロと鳴きながらユイの膝によじ登る。

 それを見ていたタイムは、ゆっくりと銃を下ろしてチェシャからも足をどけた。

「キュウが懐くとは……。貴女はもしや、あの方が言っていた……」

 ブツブツと何かを呟き始めるタイム。

 彼の気が逸れた今がチャンスだと、チェシャはユイの元へ急ぐ。

「ユイ!」

 チェシャは彼女を力強く抱き締めた。

「もう……すっごい無茶するニャ」

「うぅっ……チェシャっ」

 彼から伝わる温もりに、安心したのかユイは涙を流す。

「キュウ。こちらへ」

 タイムがしゃがみ込んで、ハリネズミ──キュウを呼ぶ。

 キュウはトコトコ歩きながらタイムの肩に乗った。

「一体、何が起こったんだ……」

 マッドは痛む腕を押さえて、立ち上がる。

「ディー! ディーってば!」

 ダムの悲痛な声が、会場に響く。

 ディーは腹部を撃ち抜かれている。

 もう息をしていない……。

「タイム! なぜ攻撃しない!? そのハリネズミは何だ!! 早く始末しないか!」

 今にも攻撃しそうな勢いで、アフェリは激昂している。

「お遊びは終わりにしましょう。巻き戻しリワインド・ザ・テンポ

 タイムが地面に手を当てて詠唱すると巨大な時計盤が浮かび上がった。

 そして針が反時計回りに進んでいく。

「ん……ダム?」

「え……? ディー? う、うぅっ、良かった……。心配かけないでよっ」

 ディーを筆頭に、負傷した彼らの傷が癒えていく。

「何だ……?」

「この魔法は時間を3分前に巻き戻すことが出来るんです。それ以降は残念ですが……」

 苦い表情で兵たちに目を向けるタイム。

「どうして、いきなり……」

「ユイと呼ばれていましたね? 貴女にキュウが懐いた。理由はそれだけです」

「え、それだけ?」

 立ち上がったタイムはサラっと答える。

 簡潔な理由にポカンとしてしまうユイ。

「お気に召しませんか? では、そうですね……。死を覚悟した状態の貴女に、あそこまで痛いところを突かれたら逆に気持ちが良くて」

 その理由を聞いてもピンと来ていないユイ。

「おい……タイム、どういうつもりだ」

 怒気を孕んだ声で、アフェリは問う。

「先程、申し上げた通り……お遊びはここまでに。クヴィスリング様」

 聞きなれない名前にユイは首をかしげる。

 それはマッドやチェシャたちも同様だった。

「いつから、気づいていた?」

「5年前、貴方が暴君へと変わってしまった時からでございます」

「そうか……」

 タイムが口にした5年前を聞いて、ユイはアリスの存在を思い出した。

「あの……一体5年前に、何があったんですか?」

 ユイの言葉に、タイムは5年前の真実を語り始めた。

 アフェリにはクヴィスリングという双子の弟がいたこと。

 彼らの両親は王位継承権のある第一王子であるアフェリだけを必要としたこと。

 しかしクヴィスリングを殺さず、アフェリの影武者として使うために人知れず育てたこと。

 彼の存在を知っていたのは両親とアフェリのみ。

 それ以外の者とは接触を禁じられていたこと。

「ですから、ワタシを上手く騙せていたと思っていたのでしょう?」

「ああ……」

 タイムの話を聞いたクヴィスリングは自嘲気味に笑うと、諦めたようにイスへ腰かける。

「……オレはいつも独りだった。いつも優しい兄への劣等感ばかり募っていった」

 クヴィスリングは今まで自分がどんな思いで生きてきたかを語る。

「自分は生まれてきて良かったのか。何のために生きているのか、存在意義なんてあるのか。疑問ばかりの日々を送っていた。両親が死んだあと、アフェリは国王の業務に忙殺されてオレのとこに来てくれなくなったんだ。でも……」

 クヴィスリングの脳裏に、幸せそうに笑うアフェリとアリスの姿がよぎった。

「久しぶりに会ったアイツの隣にはアリスがいた。オレは、彼女を見た瞬間に惚れたんだ。初めて人を好きになった、初めて……欲しいと願った。でも手に入らなかった、彼女は兄を愛した」

 どうして、生まれた順番が違うだけで……こんな目に遭わなきゃいけないのか。

 その疑問の答え。

 考えた末に出た答え。

 それは“兄がいるから”だと。

 兄さえいなければ自分は、親にも、アリスにも愛されたんだと。

 だから兄を殺して、自分を愛してくれなかったアリスにも手をかけたと。

 しかしアフェリとアリスが死んだ事実を世間に知られたら、厄介なことになる。

 そう考えたクヴィスリングは自分とアフェリが双子だと思い出した。

 成りすましても簡単にはバレないと。

 アリスのことも元の世界に帰ったと言えば、国民は信じるだろうと。

「だからオレはアイツに成りすまして、この国を支配してたんだ。……お前らには分からねぇだろうな。ずっと閉じ込められてたオレの気持ちなんて……自由になりたかったなんてっ」

 一途な想いと征服欲が彼の心を支配してしまった。

 それはあまりにも自分勝手で傲慢な考えだと、話を聞き終えたマッドたちは思った。

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