第6話-なんでもない日のパーティー開催-
湖のほとりに設けられたパーティー会場。
時刻はまもなく14時。
「いやぁ、ユイもすごいこと考えたニャ~」
えらいえらいと、チェシャはユイの頭を撫でまわす。
「チェシャ。もうアフェリも来てるんだから、行儀よくおしよ」
「はぁい」
マッドに注意されたチェシャは、大人しく言う事を聞く。
なんでもない日のパーティーに参加した者は総勢12名。
ユイ、マッド、チェシャ、ダムとディー。
アフェリ、彼の側近であるタイム。
そして兵隊の5人。
「けっこう少ないね」
「ああ、国王側から参加者は常識ある者と信頼できる者のみとすると言われてね。招待状にいくら強制力があっても、逆らえば彼の機嫌を損ねてしまうから仕方なく」
肩をすくめながらユイの質問に答えたマッド。
「さて、お時間のようですよ」
ウサギの耳と尾を持ったタイムが、こちらへと目を向ける。
「ええ。では始めましょう……なんでもない日のパーティーを!」
その一声でパーティーは開催された。
「じゃ、兵隊は頼んだよ。ディー、ダム」
「はいよ」
ディーとダムは5人の兵隊たちの元へ向かう。
「さ、警備の薄くなった今がアフェリと接触できるチャンスだ。行こう」
双子が兵隊たちの気を引いている為、アフェリの側にはタイムのみ。
近づけるチャンスだとマッドとチェシャはユイを連れて行く。
「アフェリ。少し良いかい?」
「何だい? ん? ……アリス?」
ユイの姿を見たアフェリは、目を見開いた。
どうやらユイをアリスだと思い込んでいるようだ。
「アリスと2人で話がしたい」
アフェリの申し出に、マッドとチェシャの心臓は早鐘を打つ。
「どうしたんだ? 恋人と二人きりになってはいけない?」
「い、いや……そう言う訳じゃ」
二人きりにすると、ユイがアリスではないとバレた時。
すぐに助けられない。
それだけは避けないといけない。
考えを巡らすマッドとチェシャの指に触れたユイ。
彼女に目を向けると、静かに頷く。
大丈夫だと言うように。
「分かった」
「変なことするニャよ」
「するわけない。アリス、おいで」
先導するアフェリの後を、ユイは静かについていく。
「ここなら誰にも邪魔はされないね」
立ち止まったアフェリはユイへと体の向きを変える。
着いた場所は湖のすぐ側。
会場から少し離れた場所。
「会いたかったよ、アリス」
「ええ、私も。ずっとあなたに会いたかった……アフェリ」
ユイはマッドたちから教えられていたアリスの口調を真似ながら、慎重にアフェリと話す。
「……嘘はもう良い。君はアリスじゃないんだから」
その一言で、アリスの心拍数は上がっていく。
なぜ、どうして正体がバレた?
しかもこんなに早く。
「やっぱり姿を似せても無駄か。全く胸は高鳴らないや」
アフェリは冷たい声で言い放つと、ユイの隣まで足を進める。
「僕を騙そうとした愚かな奴らの首は、刎ねてあげないとね」
そう囁いた彼は、会場へと戻って行く。
恐怖で頭が上手く回らないユイ。
「待って……!」
しかし何とか恐怖を振り払い、アフェリを追いかける。
「マッド! みんな!!」
会場に着いた時には、すでに手遅れだった。
アフェリに指示を受けた兵隊たちが、マッドたちを捕えようとしていたのだ。
「ユイ! 良かった! 無事だったんだ!」
兵に追われながらマッドたちは、ユイの無事に安堵している。
「彼女の無事が分かれば……」
バチバチと緑の光が、マッドの右腕に集まる。
「吹き飛べ」
生まれた衝撃波によって兵隊たちは、木々に体を強く打ち付ける。
「ぐぁっ!」
「何をしている! 早く捕えろ!」
アフェリの怒号が飛んで、兵たちは士気を高めていく。
だが一向にマッドたちを捕えることは出来ない。
「使えない……もう、良い」
手間取る兵たちに業を煮やしたアフェリは、立ち上がり右手を彼らに向けてかざす。
「お、おやめください国王様っ!!」
兵たちは恐怖で青ざめていく。
アフェリの足元から紫色の魔法陣が浮かび上がってくる。
「まさかあれは……! やめろ!!」
何かに気づいたディーが声を上げる。
「首を切断!」
詠唱したと同時に右手を下ろしたアフェリ。
そこから紫の斬撃が生じ、兵たちの首を斬り落とした。
「う、そ……」
「マジでやりやがった……」
絶句するユイとディー。
「使えない奴はいらない」
ハイライトのない目で、兵たちの亡骸を見下ろすアフェリ。
ユイは漂う鉄の香りに、口を押えた。
そしてアフェリの残忍性に恐怖し、同時に幼さを感じた。
自分の思い通りにならないとすぐに癇癪を起こす……まるで小さな子供のようだ。
「タイム、あとは任せる」
「かしこまりました。……3分、お時間を与えましょう。我が主の機嫌が損なうまでの時間、楽しませてくださいね」
ユイが唖然とアフェリを見つめていると、側近であるタイムが拳銃を取りだした。
妖しく笑うと、引き金をひいた。
銃弾は真っ直ぐにマッドへと向かう。
「くっ」
ギリギリのところで避けたマッドだったが、弾は軌道を変えて執拗にマッドを狙った。
「あぁ、言い忘れておりましたがワタシの使っている銃には魔力が込められておりまして。対象に当たるまで永遠に追い続ける代物でございます」
タイムが説明している間も、マッドは弾から逃げている。
彼は咄嗟に近くにあったトレイを盾に、防ごうとする。
しかし。
「あ゛あ゛っ!」
「マッド!」
弾はトレイを貫通して、彼の腕を貫いた。
「残りは3人」
3発の銃声が響く。
それぞれがディーとダム、チェシャを執拗に追いかける。
「クソっ……厄介な銃だな」
「はぁ、はぁ……うわっ!」
「ダム! がはっ」(しまっ、た……!)
ディーはダムに気を取られて、腹部を。
ダムは肩を撃ち抜かれてしまう。
「残るは1人」
「追いつけるもんなら来い!!」
そう叫んだチェシャの体が消えた。
そして一瞬で別の場所に現れたのだ。
「ほう、瞬間移動ですか」
タイムは感心した声を上げる。
チェシャを追いかけていた弾は木の幹へとぶつかる。
「どうニャ?」
自信満々に笑ったチェシャは再度、姿を消した。
「追いつけてしまいましたね」
しかしチェシャが姿を現した場所には、タイムが待ち構えていたのだ。
「な、何故……!」
「ワタシの魔法は時よ止まれ。その名の通り、時間を止めることが可能でして」
「ニャるほど……オレっちの瞬間移動が裏目に出たか」
「そのようですね」
ニッコリ笑みを浮かべたタイムは、銃口をチェシャのこめかみに当てる。
(ここまでか……)
死を覚悟したチェシャは、目を閉じた。
「もう、やめて!!!」
その時、ユイの悲痛な叫びが響く。
「おや?」
タイムは銃口を、チェシャから彼女に向ける。
「おい! 何してる! 狙いはオレ……がはっ!」
「お静かに願います」
抵抗しようとチェシャの体を組み伏せ、背中を思い切り踏みつけたタイム。
「チェシャ……!」
「ユイ……ぐっ」
「お静かにと、言ったはずですが」
背中にかかる負荷が重くなり、ギリっとチェシャは奥歯を噛んだ。