第5話-イタズラ好きな双子-
紅茶を飲み終わった2人は、アフェリに会う方法を探るべく街へと向かった。
「ほら、着いたよ。ここはルスクオーレ。この国に存在する唯一の街」
入口に着いた2人を出迎えたのは、賑やかな音楽と人々の活気だった。
「すごい……!」
楽しそうな光景に目を輝かせるユイ。
-パチン
そんな彼女の耳に、指を鳴らす音が届く。
すると瞬く間に街は荒廃した姿へと変わっていった。
「え、どうして?」
「あぁ……もう……」
目を丸くしているユイと、顔に手を当てるマッド。
「驚いた?」
その声と共に同じ顔をした2人の少年が現れた。
「これは僕とダムの魔法。過去を映せ」
過去を映すことが出来る幻影魔法だと2人は話す。
「イタズラが過ぎるよ……」
呆れたようにマッドは2人に声をかける。
「でも面白かったでしょ? ていうか、アリス!? 帰ってきてたの!?」
2人はユイの姿を見るや否や、満面の笑みを浮かべる。
「残念だけど……彼女はユイ。アリスじゃないよ」
諭すように話したマッド。
「なぁんだ……がっかり」
肩を落としてしまった2人。
「じゃあ自己紹介だね。僕がディー」
「オレがダム」
「人からは双子のトゥイードル兄弟と呼ばれている」
声を揃えて挨拶するトゥイードル兄弟。
ユイは紫のメッシュが入っているのがディー。
青のメッシュが入っているのがダムだと記憶する。
「初めまして、私は有栖川ユイ。さっきの景色って……」
「あれは5年前のルスクオーレ。すごく活気に溢れてたでしょ?」
「でも国王がアリスを失ってからは、今の荒廃した姿に変わっちゃったんだ」
双子の話を聞いて、アフェリの暴君ぶりを目の当たりにしたユイ。
「また戻ってくれないかな……魔法じゃなくて現実に」
ダムがポツリと本心を口にする。
「大丈夫。私が何とかするから」
「え……?」
マッドとユイは双子に国王の圧政を辞めさせ、彼女を元の世界に帰す計画を話した。
「……良い案だと思うけど、危険すぎない?」
双子は顔を見合わせると、眉根を下げた。
「もしユイが、アリスじゃないってバレたらどうするの?」
考えないようにしていたところをディーに突かれて、ユイを悪寒が襲う。
「今のアフェリは、気に食わないことがあればすぐに相手の首を刎ねる。誰であっても」
青ざめた表情でマッドに迫るダム。
「ずっと彼女の側にいられるわけじゃないだろ? 誰が守るの?」
「確かに……その通りだ」
彼らの最もな意見を聞いて、納得するマッド。
「じゃあ聞くけど。安全な方法でユイを国王に会わせられる方法、あるの?」
「それは……」
「ユイ、何かアイデアはある?」
お互いの顔を見合わせて考え込んでいた双子は、ユイに目を向けた。
「わ、私っ!? えっと……」
まさか自分に振られると思っていなかったユイ。
必死に頭を回転させて、考える。
そしてふとマッドと目が合う。
するとユイの脳裏に『不思議の国のアリス』でイカレ帽子屋が開いていた“なんでもない日のパーティー”がよぎる。
もし彼が原作と同じならば、ここでもパーティーを開いているはず。
少しの可能性にかけたユイは口を開く。
「なんでもない日のパーティーを開いて、そこに国王を招待したらどうかな?」
「それだ!!」
双子は名案だと声を合わせた。
「こら……人を指さすんじゃない。失礼だろう」
バシッと双子の頭をはたいたシン。
「うぅ……」
双子はしゃがみ込んで、頭を押さえる。
「だ、大丈夫?」
心配になったユイは2人に駆け寄った。
「えへへ、騙された?」
「そんなに痛くないよ?」
双子は楽しそうに笑いながら、立ち上がる。
「嘘だったの!?」
「ユイ……2人に構っていたら一向に話が進まないよ」
ポンと彼女の肩に手を置いたマッド。
「本題に戻るけど、ユイのアイデアには賛成だ。ボクは定期的になんでもない日のパーティーを開いている。身分を問わず、誕生日や何も記念日ではない人なら誰でも参加可能なパーティーをね」
ユイの予想は見事、的中していた。
「そのパーティーならボクも側にいられる。何かあってもすぐに対応出来るだろう」
「もう準備に取り掛かる? オレたちも手伝うけど?」
「ああ、お願いするよ」
ユイの案を採用したマッドは、双子たちの手も借りて準備に取り掛かった。
マッドは国王に向けて招待状を送り、お菓子作りを。
双子は会場の設営。
ユイはマッドと一緒に、お菓子作りをしながら当日を待った。
「明日のパーティーにアフェリさん、来てくれるかな」
ケーキに飾りつけしていたユイが、不安そうな声を上げる。
「キミが心配することは何もない。アフェリは必ず来る」
やけに自信を持って発言するマッド。
「何かしたの?」
「気になるかい?」
「うん」
ユイの返事を聞いたマッドは、作業する手を止めずに話す。
「ボクの招待状を受け取った者は、いかなる理由があってもパーティーに出席しなければならなくなる。それがボクの魔法、ぜひご出席を」
強制力を持った催眠魔法だとマッドはユイに教える。
「そうだったんだ……少し怖い魔法だね」
「そう? ボクは気に入ってるけど。あ……アフェリにキミの正体がバレたら厄介だし、ケーキに毒でも仕込んでおく?」
サラっと恐ろしいことを言い放ったマッド。
「え? いや……ダメ! 絶対ダメ! 死んじゃうって!」
何とか阻止しようと焦るユイ。
「冗談だよ」
涼しい顔のまま、最後のトッピングを終えたマッド。
嘘だと分かり安堵するユイ。
何を考えているのか掴みにくいなとユイは思った。
「いくら変わってしまったとは言え、アフェリはボクの数少ない……友人だからね」
声のトーンが下がったマッドに目を向けるユイ。
「さぁ、パーティーは明日の14時から。残りのお菓子を作ってしまおう」
そう言って背中を向けたマッド。
彼にとってアフェリは、とても大切な人なのだろうとユイは考えていた。