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89話 フィクションの中のギルド

 夜の十時。オリヴィエは三階のとある部屋の扉をノックした。


「リザ、入ってもよろしいですか?」


「どうぞご自由にー」


 返事を確認してゆっくり扉を開けると、机で二丁の拳銃を手入れしているリザの姿があった。


「あら?こんな時間にそんなことをしていらしたの?」


「マスターの話を聞いたらうずうずしてきちゃってね。こうでもしないと落ち着かないのよ。で、何か用?」


「いえ、用というほどのことではありませんが、ホテルで戦った時から気になっていたことが一つありましたの。貴女のその銃、メイベルシリーズですわね。……もしかしてリザは、シャーリー=メイベルのファンなのですの?」


「う~ん、ファンというか憧れってとこかな?」


 それを聞いたオリヴィエは爛々と目を輝かせた。


「まあ!まあまあ!やっぱりそうでしたのね!実はわたくしもシャーリーのファンですのよ!」


「珍しいわね、名前も知らないって人がほとんどなのに」


「シャーリー=メイベルと親交が深かったというお爺様から、話をよく聞かされて育ちましたもの。サザーランド家の本邸にはメイベルシリーズの銃が数多く飾られておりますのよ。も、もしよろしければ、今度遊びにいらしても構いませんわ……!」


「へえ!それは是非とも行ってみたいな!」


「で、では落ち着いた時にまた伺いますから、忘れるんじゃありませんわよ!」


「ん、わかった!」


(やりましたわ……ッ!)


 遊ぶ約束を交わすという本当の目的を達成したオリヴィエは、思わずニヤケそうになるものの、必死にそれを抑え込む。

 彼女は咳払いして感情を整えて、


「それにしてもその銃、随分古いモデルですわね。本邸にある物のどれよりも古いかもしれませんわ。お爺様にお見せしたら高値で買い取ってくださるかも」


「あー駄目駄目。お金は欲しいけど、これは大事な物だから売る気ないの」


「あらそうですか。でもどうやってそれほどの骨董品を手に入れたのか、気になるところですわね」


「これは祖母の形見なのよ。それに祖母が最初に作ったものらしいから、古いのも当然ね」


「……え?作った?」


「そ。私の祖母が、そのシャーリー=メイベルだったりする」


「な……ッ!ほ、本当ですの⁉」


 リザが明かした事実に、オリヴィエは驚きを隠せなかった。


「あははっ、大抵はそう明かしてもキョトンとされるから、アンタみたいな反応は新鮮だわー」


 ふむ、とオリヴィエは神妙な顔で自分の口元に手を添えて、


「……リザ。親族ということが事実なら、シャーリーが執筆したとある本のことをご存知かしら?世に数冊しか出回っていないという超激レアな小説。タイトルは――」


「『獅子の探険』、でしょ?家にあったから知ってるわ。私はそれを読んで冒険者に憧れるようになったから。でも、その本がそんなに貴重なものだってことは知らなかったなー」


「読了済みならば話は早いですわ。物語を簡単にまとめると、冒険者ギルドに所属している主人公、シャーリー=メイベルが仲間と共にとある【異界迷宮(ダンジョン)】攻略を目指すという冒険譚でしたわね」


「そうね」


「……実は最近になって、その本が発行前に国王の勅令によって回収・処分されたということがわかりましたの」


 話の流れが急に変わり、リザの顔から困惑の色が窺える。


「え、国王?……何の話?」


「『獅子の探険』には、王族たちが知られたくないある情報が記されていますのよ。リザ、物語の中でシャーリーが挑んだ【異界迷宮(ダンジョン)】の名前を覚えておいでかしら?」


 話の内容がよく分からないまま、リザは不思議そうな表情で即答した。



「――アイオーンでしょ?よく覚えてるわ」



「……やはり。まあ、当然ですわよね……」


 オリヴィエは額に手を当てて、深刻な様子で呟いた。


「それが何なの?」


「いいこと、リザ。その名前を絶対に外で口に出してはいけませんわ。その【異界迷宮(ダンジョン)】こそが、王族が知られたくない情報なのですから」


「……!じゃあ、本当に存在する【異界迷宮(ダンジョン)】なの?」


「ええ。わたくしは、遠征パーティのメンバーに任命されてそれが実在するということを知りましたわ。アイオーンはごく一部の冒険者しか知らない機密情報。もし、リザがこの情報を知っていることがバレれば、貴女だけでなく、アイリスたち仲間にまで危険が及ぶかもしれません。

 だから約束なさい。今の話を胸の内にしまっておくと」


 真剣な眼差しで言うオリヴィエに、リザは戸惑いながらも頷いた。


「わ、わかった……」


 不安を隠し切れないようで、オリヴィエは大きく息を吐く。

 明らかにただ事ではないと思い、リザもそれ以上追求するようなことはしなかった。

 だが、少し考えて彼女は、ポツリと別の質問を投げかけた。


「……ねえオリヴィエ。『獅子の探険』に出て来た【異界迷宮(ダンジョン)】が実在するのなら、名称がある他のものも実在するのかな」


「そこまではわかりませんわ……。しかし、他の名称物といいますと何がありましたか……」


「そうね……。例えば、本のタイトルにもなった冒険者ギルド、【獅子の探険(レオ・スペランク)】のギルドマスター――『アイザック=ノヴァ』、とか」




**********

『90話 攻略すべき四つの【異界迷宮】』に続く

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