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87話 サザーランドさん家の別荘に全員集合

 東都ベガ。この都市にある駅にローグたち一行は降り立った。

 既に日は沈んで夜になっている。


「鉄道はやっぱり便利ね。王都から東都まで八時間で着くんだものね」


 満足気なリザの言葉にアイリスが頷く。


「ギルドに所属していないと乗れなかったですからね。追放されて改めて便利さを痛感しました」


 しかし反対に、ローグとオリヴィエは辟易したような顔をしていた。トップギルドに所属していた、ないし所属している二人には我慢ならないことがあった。


「便利なのは認めるけどよ、一般車両がまさかあんなに窮屈だとは思わなかったよ。椅子は固いし、車内販売の料理は微妙だし。寝転がれる馬車の荷台の方がマシかもしれねえな」


「珍しく意見が合いましたわねローグ。わたくし一人でも高級車両に乗っておけばよかったと後悔していましたわ」


「うっさいのよ金持ち共!私にとってはあれでも十分なの!」


「リ、リザさん、あまり大声出さないでください。他の人たちがこっち見てますよ……!」


 駅の構内を行き交う冒険者や支援者たちの視線が集まり、アイリスが恥ずかしそうにリザの腕を引っ張っていった。


 ローグとオリヴィエもそれに続く。


「ムフフ、ムキになるリザもまた可愛らしいですわね……。リザがノエルをからかう理由がわかってきた気がしますわ」


「その友情歪んでるからな」


「貴方に言われたくありませんわ!」


「お、お待ちください皆様!……あれ?」


 遠ざかっていくローグたちの後を慌てて追いかけようとするノエル。しかし、一人ついて来てない者がいることに気がついて足を止めた。

 イザクの姿が見当たらないのだ。


「イ、イザク様?」


 キョロキョロと辺りを見回すと、列車をまじまじと見つめている彼の姿を見つけた。


「何をしていらっしゃるのですかイザク様!皆様先に行ってしまわれます!」


「ああ、今行くよノエルの嬢ちゃん。便利なものが出来たもんだと、ちょっとばかし感心していた」


「……?」



 アステール王国において、最も移動速度の速い交通手段が鉄道だ。

 路線は現在三つのみ。

 西都から王都を経て、東都まで繋ぐ、横の第一路線。

 北都から王都を経て、南都まで繋ぐ、縦の第二路線。

 東西南北四つの都市をぐるりと繋ぐ、円の第三路線。


 これらは超大手の支援者ギルド【開拓者の竜骨(プロトポロス・キール)】によって昨年開通したばかりであるため、運行する列車の数は各線に二台ずつと未だ少なく、冒険者と支援者、そしてごく一部の大富豪たちしか利用を許されていない。

開拓者の竜骨(プロトポロス・キール)】が急ピッチで列車の製造や線路の増設、新路線の開設作業を進めているものの、鉄道が国民の公共交通機関となるのはまだまだ先の話となるだろう。





「さあ!着きましたわよ!」


 オリヴィエに連れられて駅から東都の街を歩くこと約二十分後、大きな通り沿いにある三階建ての石造りの豪邸が、一行の視界一杯に飛び込んできた。

 鉄柵が周囲を取り囲み、広々とした前庭には芝生がびっしりと植えられている。


「二回ほどお兄様と泊まりに来ただけですので新居同然ですわ。家具も一式揃っていますし、個室の数も八つありますので不便はないでしょう。どうぞお好きに使ってくださいな」


 正門の前でそう告げるオリヴィエだが、一部の者たちは感激のあまりそれどころではなかった。


「うぅ、ボロアパート生活から一転、こんな豪邸に住めるなんて……!あれ?これはもしかして夢なんでしょうか?」


「夢じゃないのよアイリス。今日から私たちもセレブの仲間入りなんだから!」


「セ、レブ……⁉や、やりましたねリザさん!」


「友人たちに喜んでもらえてわたくしとしても嬉しい限りですわ」


「いや、どんな生活してきたんだよ……」


 泣いて喜び合うアイリスとリザに憐みの目を向けるローグ。

 彼はさらに続けて、


「つうか、住まいが豪勢なだけで金持ちになったわけじゃないからな」


「何言ってんのよ?私たちには【異界迷宮(ダンジョン)】を攻略して得たお金がたっぷり残ってるじゃない」


「アレの使い道はオッサンと相談してもう決めてあるんだよ。だからギルドの資金は今ほぼゼロなの」


「「え」」


 それを聞いたアイリスとリザは瞬く間に沈んだ面持ちとなった。


「短い夢でしたねリザさん……」


「そうね。アホ男たちのせいで私たちは小さな幸せすら味わえないのよ……」


「はっはっは。酷い言われようだ」


「どう使うのか聞けば納得するだろ。中で説明するから早く入ろう」


 悲壮感を漂わせる少女たちを放っておいて、ローグたちは館の方へ向かった。

 部屋の一つには灯りがついており、既に誰かがいることがわかる。


「オリヴィエ。キヨメとセラさんはもう中にいるのか?」


「使用人から昨晩、女性を二人屋敷に入れたという報告がありましたわ。おそらく、その方たちのことでしょう」



 オリヴィエの言う通り、一階の広いリビングではキヨメとセラがくつろいでいた。


「む!」


 何やら駒を使ったボードゲームに興じていた二人は、ローグたちがリビングに入ってくるのを確認すると、手を止めて歩み寄ってきた。


「皆様、お久しぶりです!」


「と言っても会っていないのは五日ほどですけどね~」


「はっは。とにかく、無事に全員集合できたな」


「あら?そちらの方々は?」


 セラがオリヴィエとノエルの方を見て言った。

 イザクは彼女たちの紹介、そしてどういう経緯でこの館を手に入れたのかを説明する。


「――じゃあ、ここはオリヴィエちゃんが譲ってくれたお家だったんですね~。ありがとうございます~」


「た、大したことではないですわ……っ」


 オリヴィエが恥ずかしそうに返答する。どうやら、面と向かって礼を言われることに耐性があまりないらしい。

 すると、ギュゴオオオオッ!と獣の唸り声のような音がリビングに響き渡った。思わずノエルが肩を震わせる。

 音の犯人がほんのり顔を赤らめながら、


「も、申し訳ない……。拙者の腹の虫が嘶きました……」


「キヨメの言う通り、確かにお腹空いたわね。先に夕食にしましょうか。オリヴィエ、キッチンはどこ?」


「案内しますわ。食材も補充済みと聞いています」


「優秀ね、サザーランド家」


 そう言いながら、リビングを出て行くリザとオリヴィエ。

 私も手伝います、とアイリスも二人について行った。


「むう……。手伝いたいのは山々なのですが、実は拙者、料理はてんで不得手でして……」


「知ってる」


「ローグ殿……⁉説明した覚えはないのですが⁉」


 見た目で判断したのですか!とショックを受けるキヨメの横で、ノエルがバックパックから何か仰々しい物を取り出していた。


「では、その間に私はこちらを設置させて頂きます」


「魔信機か。そんな重い物運んでたなんて、言ってくれたら俺が運んでやったのに~」


「お、お気遣いなく……」


 変な声を出すローグにノエルは引き気味に返答する。


「ローグ殿、魔信機とは何ですか?」


「うん?ハウンドの本拠地(ホーム)で見たことないか?

 魔動通信機、略して魔信機。受信側と送信側の二つセットで、今ノエルが持っている方が受信側になる。

 まず送信側が文字や画像が描かれた紙を装置に通すと、内部にある魔石がその内容を信号に変換して送信してくれる。今度は受信側が同じく内部にある魔石で信号を解析して、ここに取り付けられたペンが寸分違わぬ文字や画像をロール紙に描き出してくれる。

 だから、俺たちがロール紙とインクの補充を忘れなければ、置いておくだけで役目を果たしてくれるんだよ」


「私が【幸福の(フォーチュン・)羅針盤(ピクシス)】からFランクギルドの方々でも受けられるフリークエストを探し、魔信機を介して依頼書をお送りします。ですのでキヨメ様たちはお待ちして頂くだけで問題ありません」


「通話タイプも欲しいんだが、アレはBランク以上のギルドじゃないと所有を認められねえんだよなぁ」


「ふむふむ、なるほど」


「…………」


 神妙な顔で頷くキヨメだが、これらの説明が理解できていないことはローグにはお見通しだった。


「おや?ではノエルちゃんは、ここで生活するわけではないのですか~?」


 ノエルの説明を聞いたセラが疑問を口にした。


「はい。私の基本的な活動拠点は王都にある【幸福の(フォーチュン・)羅針盤(ピクシス)】の本拠地(ホーム)になります。時折、魔信機の点検などでこちらにお伺いすることもありますので、その時はまたよろしくお願い致します」


「あらあら、それは寂しいですね~……」


「そうだノエル!いっそのことウチに入って――」


「イザク様!魔信機はどちらに設置致しましょうか!」


「えっ?あ、ああ。オリヴィエの嬢ちゃんから、俺の私室となる場所を聞いている。そこにしよう。案内するからついて来てくれ」


「かしこまりました!」


「ノエル⁉」


 ノエルはローグの叫びが聞こえないふりをして、逃げるようにイザクと共にリビングを後にした。


「まったく照れやがって……」


「セラ殿。拙者たちは先の勝負の続きといきましょう」


「そうですね~。キング以外取られた状態でどう戦うのか甚だ疑問ですが」


「諦めない限り、勝負は最後までわかりませんよ」


「持ち時間を決めておくべきでしたね。かれこれ三時間以上長考してますよね?」


「何か打開する妙策が閃きそうな気がするのです!」


「そうですか~……」


 キヨメはどこかうんざりした様子のセラと再び二人きりでボードゲームを始めてしまい、ローグはポツンと残されてしまった。

 仕方なく高級そうなソファに腰を掛ける。

 この部屋には三人も人がいるのだが、キヨメが黙考しているのでしーんとした静寂が訪れる。

 ローグは腕を組んで、天井に吊るされたシャンデリアを見つめながら呟いた。


「……寂しい」





**********

『88話 毒蛇の始動』に続く

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