4話 追放者たちは前途多難
一方、ローグたちが同行する隊商から北西へ50キロメートルほどの距離では、もう一つの隊商が南へと移動していた。
干し草が山のように積まれた荷台の上、天然のベッドともいうべき場所で、寝っ転がって夕焼け空を眺めている少女の姿があった。
その空に引けを取らないほど、真っ赤な髪をした少女の名はリザ=キッドマン。
実は彼女もまた、【幸福の羅針盤】で新規ギルド設立の貼り紙を見て、スピカへと向かう最中だった。
「嬢ちゃん、運が良かったな」
「何が?」
御者を務める中年の男がふとリザに話し掛けてきた。しかし、彼の声色はどこか暗い。
「王都から南部へ向かう隊商は、ウチの他にもう一つあってな。本当なら共に出発するはずだったんだが、ウチの隊商が準備に手間取ったせいで置いていかれちまったんだ」
「そっちの方が早くスピカに到着できたってこと?何でそれが、運が良かったってことになるのよ?」
不可解な御者の男の言葉に、リザは体を起こして聞き返した。
「実はな。不幸中の幸いってやつで俺たちは出発前にある情報を入手した。それは、本来のコース上に冒険者崩れの盗賊がうろついてるってものだ。だから俺たちはわざわざ迂回しながら移動しているんだよ」
「それじゃあ、あっちの隊商は……」
リザは皆まで言わなかったが、御者の男は沈んだ面持ちで頷いた。
「ああ。襲われる可能性が高い。情報通りだと、もうすぐその盗賊が出るっていうポイントに差し掛かるところだろうな……」
「向こうに知り合いはいるの?」
「仕事仲間が何人か、な。だけど俺にはどうしようもない。……せめて俺たちにも、通信用の【異界道具】があればこんな事態を回避できたかもしれんのになぁ」
「【異界道具】はギルドに所属している者じゃないと使えないものね……。
――無事だといいわね」
「……そうだな」
「…………」
できることなら何とかしてやりたいが、身体能力の高いリザでもこの距離はどうにもならない。複雑な気持ちを抱えたまま彼女は再び横になった。
(向こうにも私みたいな変わり者がいればいいんだけど……)
「盗賊だあああああああ‼」
悲鳴に近いにその声に、ローグとアイリスは互いに顔を見合わせた。
直後に馬車が急停止したため、慌てて荷台から飛び降りる。
見ると、隊商の先頭の方では火の手が上がっていた。
「おっちゃん!今、盗賊って言ったか⁉」
「ああ‼どうやらそうらしい‼チクショウ!ツイてねえ‼」
ローグの問いに、御者の男は御者台から飛び降りながら答えた。
「できるだけ商品を持って逃げねえと‼悪いがあんちゃんたちも手伝ってくれ‼」
「は、はい‼」
御者の男に着いて行くアイリス。しかし、ローグはその場から動こうとはしなかった。
「何してるんですかローグさん!早く逃げないと!」
アイリスの呼びかけに対し、ローグは首を横に振る。
「アイリスは隊商の皆を避難させてくれ。俺は盗賊を追い払ってくる」
そう言い残し、彼はその場から一目散に走りだした。
「えぇっ⁉ちょっと!ローグさぁん‼」
後ろでアイリスが叫んでいたが、今のローグには意識の埒外だった。
(おのれェ!盗賊にまで俺の邪魔をされてたまるかあああ!)
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