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78話 リザとオリヴィエ 後編

「のぼせ上がるのも大概になさいローグ!」


 いきなり大声を上げたオリヴィエに、三人の視線が集まる。


「何だよ、急に」


「そんな横暴がまかり通るわけないでしょう!お兄様もお兄様です!こんな男に、何をいいように利用されているのですか!」


「……ごめんよ。情けない兄を許しておくれ」


「そんな言葉が聞きたいのではありませんわ!まさか、ローグに何か弱みでも握られているのですか⁉それとも、小汚い罠に嵌められたのですか⁉」


「――兄貴の顔に泥を塗る気かよ」


「ッ……!」


 たった一言でオリヴィエの勢いを失わせたローグはさらに続ける。


「本当なら、俺はリザに加勢してニ対一でお前を倒すところだが、アドラーはそれを避けるために頭を下げたんだ。つまり、全部お前のためを思っての行動なんだよ。そんな兄貴の気持ちを少しは察してやれよ」


「わたくしの……ため?」


 愕然とした様子で呟く金髪の少女。そんな彼女にアドラーは優しく声を掛ける。


「オリヴィエのためなら、僕は何だってしてあげるよ。兄として当然だとも」


 しかし、


「……わかっていませんわ」


「?」


「お兄様は何もわかっていませんわ……!ではこのまま戦いを続けていれば、わたくしが負けると確信していたのですか⁉勝手に決めつけないでください!」


「オ、オリヴィエ……?」


「お兄様はいつだってそうです!遠征に連れて行ってくださった時も、少しでも危険があると何もさせてくださらない!そんなにも信用なりませんか⁉どうしてわたくしの力を信じて使ってくださらないのですか⁉」


 初めて自分に対して感情的になる妹を見たアドラーはひどく狼狽した。

 そんな兄に向けて、オリヴィエは目に涙を浮かべながら叫ぶ。


「これでもお兄様の妹として恥じないように努力を続けてきました!力をつけたと自負もあります!なのに何もさせてもらえず終わりだなんて、……そんなのあんまりではありませんか!」


「……!」


 今にも泣きだしてしまいそうな声を聞き、リザの眉がピクリと動く。


(何もさせてもらえず、か)


 その言葉に思うところがあり、彼女は目を細めた。


「これで終わりなんて納得できませんわ!一対二でも私は勝ってみせます!」


「し、しかし……」


「お兄様は黙って見ていてください!」


「お前なァ、いい加減にしろって」


「いい加減にするのはアンタよ赤目!」


 兄妹に割って入ろうとしたローグをリザが一喝した。


「……え、リザ?」


「黙って聞いていれば、そっちの都合で好き勝手言ってくれるじゃない。アンタたちこそ、この高飛車女の顔に泥を塗るつもりなの?」


 そう言って、リザはオリヴィエに寄り添うように立ち位置を変えた。


「子犬……?」


「な、何でお前が怒ってんだよ?」


「私に加勢するですって?それってつまり、私とコイツの真剣勝負をハナっから邪魔するつもりだったってことよね⁉そんな卑怯なこと私が望むとでも思ってんの⁉」


「え⁉いや、それは、その……」

(ほ、本気で怒ってらっしゃる……!)


 リザの鋭い眼光に圧倒され、ローグは思うように返答できない。


「さっき高等回復薬(ハイポーション)を飲まなかったのも、勝負がフェアじゃなくなると思ったからよ!二度と真剣勝負の邪魔をするような真似しないで!」


「はい……」


 一方オリヴィエは、茫然とその様子を眺めていた。


「…………」


 真剣勝負。

 リザの口から出た言葉が、延々と頭の中で反芻する。


「それからそっちのバカ兄貴!」


「な、なんだい……っ!」


 少女に睨み据えられ、アドラーは思わず体に力が入った。


「アンタ、兄貴失格」


「えぇッ⁉」


「優しさの押しつけは逆効果よ!アンタは妹の背中を押しているつもりでも、その実、邪魔をしているだけなのよ!」


「なん……だって……⁉」


 思い切りショックを受けたアドラーは、ローグの肩に回していた腕がスルリと外れて膝から崩れ落ちた。

 赤髪の少女は腕を組んで、愚かな男共を見渡す。


「悪気がないのはわかってるわ。けどアンタたちは無意識のうちに女を甘く見てるのよ。だからこれだけは心に刻んでおきなさい」


 そして、力強く言い放つ。


「私たちを、安く見るなァッ‼」


「「す、すみませんでした……」」


 圧倒され、すっかり意気消沈したローグとアドラー。

 フンと鼻を鳴らすリザに、オリヴィエは震える唇で尋ねる。


「子犬……、どうしてそこまで……」


「……自分の努力が見向きもされない悔しさを知ってるから」


 真っ赤な髪をかき上げながら言う。

 その横顔はどこか切なさを感じさせた。


「……子犬、感謝しますわ」


「感謝されるほどのことはいてないんだけどね。それと、いい加減その呼び方やめてくれない?私の名前はリザ=キッドマン。今回はバカ兄貴の顔を立てるけど、いつか、邪魔のいない二人きりの時に真剣勝負の続きをしよう」


 そう言うと、リザはオリヴィエに右手を差し出した。


「な、何ですのこの手は?」


「握手よ握手。魂をぶつけ合うような戦いをすればその人の本質がわかる。ただ純粋に強くなりたいって奴は嫌いじゃない。……だからヘラクレスの冒険者でも、アンタのことは気に入った」


「そ、そそそっ、それはつまり、わたくしと、お、お友達になる……ということですの?」


「まあ、そう受け取ってもらって構わないわ。てか何でそこまで動揺してんの?あ、もしかして友達いないとか?なんて――」


「――――ッ」


 途端に顔を真っ赤にするオリヴィエを見て、リザはいろいろと察する。


「あー……。コホンッ。とりあえずよろしく頼むわ、オリヴィエ」


「え、ええ……!こちらこそよろしくお願いしますわ、リ……リザ」


 戸惑いながらも握手に応じる。

 名前を呼ぶという簡単なことが、どうしてこれほど緊張してしまったのかオリヴィエは不思議でしょうがなかった。


「あ、そうだ。おい赤目」


「は、はいッ!」


 いきなり声を掛けられ、ローグはビクッと肩を震わせた。


「アンタが提示した四つ目の条件ってやつ、まだ聞いてなかったんだけど」


「あ、えっと……、代金をアドラー持ちで、このホテルに宿泊させてもらうことであります……」


 その内容を聞いたリザは、にんまりと笑みを浮かべ、


「それを早く言えっての」





**********

『79話 真面目な話をしよう』に続く

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