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75話 ローグVSアドラー

 リザとオリヴィエが本格的に衝突をし始めた頃、ローグとアドラーは、【鳴雷(ナルイカヅチ)】の雷撃と【灰かぶり姫(サンドリヨン)】の炎鳥特攻攻撃による激しい応酬を繰り広げていた。


「ローグ、いい加減そこをどいてくれないかな?大事な妹を傷つけようとするあの赤い髪の子を始末しに行かないといけないのに」


「なら尚更どけねえな。ウチのギルドの大事な仲間なんでね」


 未だ互いに攻撃は届かず、二人のちょうど中間点で魔法がぶつかり相殺される。


 彼らの魔法はどちらも、応用力が並外れて優れた魔法である。見る限りその威力もまた互角。

 魔法のポテンシャルでは、優劣はつけられないだろう。

 そうなると二人の勝敗を分かつのは、術者の戦術の差だ。


(さて、いつ仕掛けてくる……)


 単調になりつつある応酬の中で、ローグが警戒しているのは不意打ちだった。

灰かぶり姫(サンドリヨン)】という希少魔法一つで八豪傑の地位に就いたといっても過言ではないアドラー=サザーランド。彼の最も得意とする戦法が、搦め手からの怒涛の攻めであるということをローグはよく知っている。


 均衡を崩す一撃がどこから来るのかと、ローグは周囲に意識を割く。

 いや、意識を割いてしまったというべきか。


「中央が疎かになっているよ」


 アドラーが呟くと同時、一羽の炎鳥が雷撃を正面から突き破ってきた。

 炎鳥の連続攻撃の中で、その一羽の威力だけを僅かに上げたのだ。


「ッ!」


 アドラーは一定の威力を保ったまま敢えて雷撃と相殺させ続けることで、どの炎鳥の威力も均一であるように錯覚させた。

 そのせいでローグは、迎え撃つ雷撃の威力はこの程度でよいだろうと、無意識に一線を引いてしまっていた。


 ズバァ!と炎を吹き荒らしながら鋭く迫る炎鳥のその様は、さながら一条の紅蓮の矢。


「うおおッ⁉」


 咄嗟に屈んで回避するローグ。炎の矢は射線上にある物すべてを溶解させ、オレンジ色の傷痕を刻んでいく。

 しかし、ホッとしたのも束の間、、既に次なる一手は打たれていた。

 屈んだ先、目下の地面からボコッと顔を出したのは、炎の蜥蜴。


「はい、王手(チェック)


「うッ⁉」


 蜥蜴は陽炎のように揺らぎ、形を失い、ただの猛火へと戻りゆく。


(野郎、いつの間に仕掛けてやがった――⁉)


 ローグはたちまち噴き上げる炎に包まれた。


「息巻いておいてこの程度かい?拍子抜けだよ」


 直撃。そう見て取ったアドラーは、溜め息を零す。

 しかし、


「――いや、まだまだ」


 即座に返答されたことにアドラーは目を瞠った。

 未だ燃え盛る炎の中で、膝をつくローグ。あの熱量の中では喉が焼けてまともに話すことなど不可能なはずだった。

 だが、喉が焼けるどころか、外傷すら見当たらない。


 ローグの身を守ったのは、彼の全身に纏われた雷の膜だった。薄く広がった雷は堅牢な鎧のように、自身の体から炎を隔絶していた。


「その魔法、そんなこともできるのかい」


「アンタの魔法にも引けを取らないくらい便利だろ。俺はこの魔法で、またのし上がっていく」


「やれやれ、すぐ調子に乗る」


 余裕を見せつつも、アドラーは内心で舌を巻いていた。


(たしかにあの魔法は厄介だね。ああガードされては、不意を突く小技が意味を成さない。弾数を減らして、一撃の威力を上げるしかないか)


灰かぶり姫(サンドリヨン)】は、形状・威力・射程・個数を自由自在に調整できる魔法だ。しかし、それらはすべて反比例の関係にある。例えば、威力を上げればその分、形状は単純に、射程は短く、個数は少なくなってしまう。


 その仕組みを、ローグもよく理解していた。炎から抜け出し、雷の膜を解きながら考えを巡らせる。


(全身防御をまだ見せるつもりはなかったのに、早速奥の手を一つ使わされちまった。……だが、楔は撃ち込んだ。これで奴は俺の魔法がこの【鳴雷】しかないと思い込んでるはず。勝負を決めるのは残りの奥の手……、奴がまだ知らない魔法だ)


 両者互いに、必殺の一撃を繰り出す隙を窺う。

 そして、先に仕掛けたのはアドラーだった。

 生み出したのは、四つの火球。それを再び、スピードのある鳥の姿へと形状を変化させていく。威力重視の戦法へと切り替えたのだ。


(威力に寄せて数を絞ったか!)


 警戒するローグ目掛けて、四羽の炎鳥が放たれた。

 それを全力の雷撃で迎え撃つが、いとも容易く打ち破られる。


「チッ!」


 先ほどの一撃とは比べ物にならない威力に、ローグは戦慄を覚えながら横っ飛びで躱した。


「四羽ならその雷を突破できるようだね」


「確かにすげえ威力だが、数が減った分避けやすくなったなァ!弾幕薄いんじゃねえの!」


「かもね。でも、君も今の雷撃、本気だったろう?僕にはわかるよ」


「それはどうだか」


「力押しは性に合わないんだけど、たまには悪くない。じっくりといたぶってあげよう」


 アドラーはそう言って、またしても四つの火球を生み出した。

 ローグが狙っていたのは、そのタイミングだった。


「言ったろ!弾幕が薄いって!」


 彼は両手の指先から、無数の細かな雷撃を繰り出した。アドラーとは対照的に、威力を抑えて弾数を重視したものだ。


「!」

(こんな攻撃法まで……!仕方ない)


 避ける隙もない広範囲攻撃に、アドラーは火球の一つを鳥ではなく、一部の隙もない壁へと変化させた。雷の雨を凌ぐことに成功するが、炎の壁を隔てたことによりローグを視界から外してしまった。


(――ここだ!)


 それこそがローグの真の狙い。勝機と見るや、彼はアドラーが知らない第二の魔法を発動した。


「“紫電一閃”、【裂雷(サクイカヅチ)】!」


 激しい雷光と共に、右手に刃のない刀が握られる。すぐさま、刀身を指でなぞって雷電を迸らせることで、あらゆるものを焼き切る刀剣を完成させる。そして決着をつけるべく一直線に炎の壁へ向かって突進していった。


 遠距離攻撃による勝負では勝ち目がないと踏んでいたローグは、最初からこの展開だけを狙っていた。

 これを逃せば、距離を詰める千載一遇のチャンスはもう二度と作ることができないだろう。

 それがわかっているからこそ、彼はこの攻撃にすべてを託す。


「おおおおォッ!」


 振り下ろしの一撃で、まずは炎の壁を切り裂いた。手の届く距離にアドラーの姿を確認する。

 後は返す刀で斬り伏せて勝負は決する――はずだった。


「それが奥の手かい?ローグ」


「ッ⁉」


 アドラーは残る三つの火球を炎鳥に変えて、今すぐに放てる態勢を整えていた。ローグが距離を詰めるタイミングを計っていたことを読み切っていたのだ。


(不本意だが賞賛を送ろう。相手が僕じゃなく、他の八豪傑なら君が勝っていたかもね)


「クソッ……!」


 悔しさを露わにするローグを見て、アドラーは勝利を確信して口端を吊り上げる。


「これで、詰み(チェックメイト)だ」


 そして三羽の炎鳥が、矢のように放たれた。




**********

『76話 兄として』に続く

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