3話 追放者たちは自信がない
「ほ、本当に見せなきゃダメなんですか……?」
「この期に及んでまだそんなこと言ってんのか。俺も曝け出すんだから、お互い様だろう?」
「でも……」
「いつかは誰かに見せるんだ。今のうちに少しでも慣れておいた方がいいって」
「私、あまり経験ないので……その……恥ずかしいですっ」
「俺も追放されてからは初めてだから安心しろ。……あ、やばい、なんか緊張してきた」
「あは、ローグさんもあまり慣れていないんですね」
「バババ、バカ野郎ッ。現役の頃は経験ありまくりだっての!笑ってんじゃないよ!」
「すいませんっ。でも私のを見ても、ガッカリしないでくださいね」
「アイリスこそ。じゃあ、せーので見せ合うぞ」
「はいっ!」
「いくぞ?」
「「せーのっ!」」
バン!と荷台の床に二枚の紙が叩きつけられた。
それは互いのステータスが記載された紙だ。
隊商に同行して南の街スピカへと向かう旅は二日目へと突入し、日が暮れ始めた夕方。
同じ追放された者同士ということで意気投合したローグとアイリスは、旅の暇つぶしに互いのステータスを見せ合うことにした。
「おおッ!」
ローグはアイリスのステータスを見て、思わず感嘆の声を漏らす。
**********
アイリス=グッドホープ
《種族》
人間
《魔法》
【怪物契約】
【怪物召喚】
【怪物退去】
【 】
《才能》
【ドラゴンサモナー】
【裁縫師】
**********
「【ドラゴンサモナー】⁉《希少才能》じゃねーか‼……あ、でも【テイマー】の《才能》がないんじゃ宝の持ち腐れだな」
サモナー系の《才能》によって発現する魔法は、【異界迷宮】から別の【異界迷宮】へと契約したモンスターを強制転移させることだけだ。契約したモンスターを意のままに操るなら、サモナー系の《才能》の他に【テイマー】の《才能》が必要になる。
「そうなんです……。期待されて【小心者の子馬】に入団したは良かったものの、結局期待外れだとみんなに馬鹿にされて荷物持ちに……」
「あー……、重い荷物に慣れてるってそういうことね」
(こいつも結構苦労してるなぁ)
項垂れるアイリスにローグは同情した。
「でも俺のステータスも酷いものだろ?」
**********
ローグ=ウォースパイト
《種族》
半人半エルフ
《魔法》
【 】
【 】
【 】
【 】
【 】
【 】
【 】
【 】
《才能》
【魔術師】
【剣士】
【調剤師】
【教師】
【呪われ人】
「魔法スロットが八つもある‼何で⁉それに生産系の《才能》だって私の【裁縫師】よりよっぽど役に立つものばかりじゃないですか!支援者ギルドならすぐ入団できますよこれ。嫌味ですか!」
「ちげえよバカ!よく見ろ!魔法が一つもないってことに!」
ふて腐れ気味に言うアイリスに、ローグはすかさず返答した。
「あれ⁉本当だ!そんなことあるんですか⁉」
「《才能》に【呪われ人】ってのがあるだろう?そいつが、イザナミノミコトっていう特級モンスターを倒したときに受けた呪いでな。八つ発現した魔法も全部なくなっちまった」
「呪い……。聞いたことがあります。もし、呪いを受けてしまうとその人は本来の魔法を失ってしまい、新たな魔法が発現するとか。でもその場合、多くの人は魔法を発現できずに冒険者を引退してしまうんですよね」
「ああ。魔法が発現する方法は、『心の成長』がきっかけだってことは知ってるよな?本来、十代の多感な時期に様々な経験を通して心を成長させて、魔法スロットの分だけ魔法を発現させていく。もし二十代を過ぎてから呪いを受けちまったら、よっぽどのことがない限り再び魔法を発現させることができない。
俺はまだ十八だから可能性はあるはずなんだ。もう一度【異界迷宮】に入って、なんか大きな経験をすればまた魔法を発現できる!……多分……!きっと……」
立ち上がって自分に言い聞かせるローグだったが、やはり先の見えない漠然とした不安は隠し切れない。
最終的に二人揃ってテンションが下がってしまったローグとアイリスは、黙々とステータスの紙を丸めて懐に戻すのだった。
本作をお読みいただき、ありがとうございました。
少しでもおもしろいと思ってくださった方は、ブックマークやページ下側の「☆☆☆☆☆」をタップして頂けると励みになります!