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67話 アイリスの挑戦

 スピカの町を発ってから約二日。

 ローグとリザは、ギルド設立の申請と本拠地(ホーム)となる物件を探して、王都セプテントリオンへとやってきた。


「はぁ~……」


「……何だよ、そのデカい溜め息は」


 到着するなり露骨にテンションを下げるリザに、ローグが眉をピクつかせながら尋ねる。


「これから三日間もアンタと二人きりだと思うと気が重くて……。私適当に宿取って休んどくから後お願いしていいかしら?」


「こ、このヤロウ……」


 ローグは別にリザを嫌っているわけではない。むしろ、独自の戦闘スタイルを編み出した彼女を尊敬しているほどだ。

 一方的に嫌われてしまっては、誰であろうとその人に苦手意識を持つことだろう。まさにローグがその状態だった。

 イザクからも言われた通り、ローグとしてはどうにかリザとの仲を改善しなければならないと思っているのだ。

 そこで彼には、王都に来るまでの道中、考えていた作戦があった。


「――あーあ!なら仕方ねえな!合流日までの間、一人で最高級ホテルに泊まってくるかなー!せっかくお前の分の部屋代も出してやろうと思ってたのになー!」


「――!」


 声のボリュームを少々大きめにして言った。

 リザの耳がピクリと動く。


 ローグの考えた作戦とは至極単純、物で釣る、だ。

 思い返せば【異界迷宮(ダンジョン)】内でも、宝に過剰な反応を示していた。

 そのことから、物欲は人一倍強いだろうという見解に至ったわけだ。


「王都のアステロイドホテルといえば、国内一のリゾートホテルとして有名なんだよな~!」


 チラリとリザに目を向けて、最後の一発。


「さっさと用事を済ませたら、一人で豪遊してく――」


「さあ!張り切って私たちの仕事を片付けますかァ!」


「…………」


 余りにもあっさりと釣れてしまったことに、ローグは思わず言葉を失ってしまった。


(現金な奴め……)


「何やってんの!早く行くわよ!」


「ああ。その前に、この宝を換金して紙幣に変えよう。こんな重い物背負うより幾らかマシになる」


 ローグは背負っているバックパックを親指で差し、ダルそうに言った。


「なっさけないわね。キヨメは軽々と運んでたってのに」


「何だって?」


「いえいえ、何でもございません」


 機嫌を損ねると宿泊代を出して貰えないと思ったリザは、ニッコリとしてかぶりを振った。


「……大体あんな身体能力オバケと比べられたら、誰でも霞むだろ」


 と言ったものの、目の前の少女ならキヨメにも引けを取らないかと思うローグ。


「まあ確かに宝のまま持ち歩くのも落ち着かないわね。アンタの言う通り先に換金しに行きましょうか。

 ――ところでホントに宿泊代出してくれるの?」


「ああ。ホントホント」


「マジで……?」


「マジマジ」


「――っしゃあ!一度あそこに泊まってみたかったのよね~!」


 小躍りするリザを見たローグは、実はキヨメよりもコイツの方が扱いやすいのではないかなどと思い始める。


 ひとまず宝を換金するために二人は換金所に向かって歩き出した。


「ていうか、アンタそんなに金あるの?」


「そりゃお前、俺はトップギルドで最高位の冒険者だったんだ。――金なら腐るほどあるに決まってるだろう?」


「なにそれ、クソムカつくわ~」


 ドヤ顔で言うローグにリザは不快感を露わにした表情を浮かべるが、


「何だって?」


「いえいえ、何でもございません」


 すぐさま、笑顔へ切り替える。

 所謂、営業スマイル。これもリザ=キッドマンが客商売で身につけた技術の一つである。




 時を少し遡ること一日前。

 アイリスとイザクは、既に攻略済みである、スピカの町付近の山中にある【異界迷宮(ダンジョン)】に再度潜行していた。

 場所は、開いたままの宝物庫がある最終エリア。


「さて、アイリス。お前のお望み通りここまで連れてきてやったわけだが、後は一人でやれるな?」


 イザクのその問いに、アイリスは緊張した面持ちで頷いた。


「はい……、きっと大丈夫です……!()()()()は、皆の力になりたいという思いで発現したものですから!」


 彼女が緊張を隠せないでいることには理由がある。

 この最終エリアに残したままにしていたあるモンスターが、目の前で鋭い眼光を光らせているからだ。


『グルゥアアアアアアアッ‼』


 耳をつんざくような咆哮を轟かすのは、竜種(ドラゴン)サラマンドラ。

 アイリスが自らこの【異界迷宮(ダンジョン)】に召喚したモンスターである。


「必ずサラマンドラをコントロールして、皆と肩を並べられるような冒険者になってみせます!」


 アイリスはサラマンドラの威嚇にも怯むことなく、真っ直ぐとその怪物を見据える。

 恐怖よりも、仲間の力になりたいという思いが勝っているのだ。


「いけ……!」


 イザクの声に背中を押されるように、アイリスは新たな魔法を唱えた。


「――“魂魄同調(こんぱくどうちょう)”、【人竜共鳴(レゾナンス)】!」





**********

『68話 竜種との対話』に続く

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