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63話 【毒蛇のひと噛み】

 宴を終えて、ログハウスへと帰宅した一行。

 ここ数日、過酷なスケジュールをこなしたローグ、アイリス、リザ、キヨメは泥のように眠りについた。

 そして夜が明け、時刻は午前十時。

 すっかり体力・気力を回復させた四人は、イザクとセラからリビングに来るよう召集を受けた。


「お早う若人たちよ。よく眠れたかな」


「はい!ここ数年で一番ぐっすり眠れました!」


 元気よくそう言ったのはアイリスだ。酔いは完全に醒めて素に戻っている。

 そんな彼女に、ローグがムスッとした顔で言う。


「随分とご機嫌だなぁ、アイリスよぉ」


「え……、何でイライラしてるんですか?」

 どうやらアイリスは昨晩のことを覚えていないようで、ローグがなぜ絡んでくるのかわからずに戸惑った。


「もしかして、ローグさんはぐっすり眠れなかったとか?」


「おかげさまで快眠だよ!」


「それならいいんですけど……」


 皮肉のつもりだったのだが、アイリスはそれに気づかない。


「フン、良い子ちゃんぶるのはよせ。そのメッキはとうに剥がれている」


「ちょっと何言ってるかわからないです」


「雑談はそのくらいにして、本題に入りますよ~」


 セラの一言で四人の視線が再びイザクに集まった。

 コホン、と咳ばらいをしたイザクは、空気を引き締めるような声色で話し始める。


「さて、今日から俺たちは同じギルドの仲間だ。と言っても、まだ正式には成り立っちゃいないがな。そこで本格的に活動を始めるため、今後の動きを説明していく。やることが多いから分担してこなしていくぞ。耳の穴かっぽじってよく聞けよ。

 まず、俺とアイリスはこの間の【異界迷宮(ダンジョン)】にもう一度潜る。いずれ他の冒険者共に見つかる可能性があるから、残りの宝をさっさと回収しとかないといけない」


「わかりました……!」


 イザクは本格的なギルド結成に伴い、嬢ちゃんと呼ぶのをやめていた。彼にとってはギルドの仲間というのは、家族同然の扱いなのだ。

 唯一、呼び方の変化に気づいたのはローグだけだが、指摘するほどではないと思い、口には出さなかった。


「次。キヨメは一度【猟犬の秩序(ハウンド・コスモス)】に戻って挨拶回りをしてこい。尚、ローグからキヨメが方向音痴という情報を受けて、一人で向かわせるのは心許ないからセラも同行させることにした」


「むう、お手数お掛けします、セラ殿」


「いえいえ~。小旅行みたいで楽しみです」


 ローグ、アイリス、リザがこの二人で大丈夫かと不安を感じている中、イザクは最後のペアに視線を向ける。

 未だ名前を呼ばれていない二人であるローグとリザが同時にハッとした。


「そして最後。これが一番重要な仕事だ。ローグ、リザ。お前たちは王都に向かって、新規ギルド設立の申請。その後、現在所持している宝を換金し、本拠地となる良い物件を探してきてくれ」


「オッサン!チェンジだ!チェンジを希望する!」


「私もコイツ以外なら誰でもいいわ!」


「ダメ。お前らはこれを機に親睦を深めておけ」


「「えーーー!」」


「…………」


 ローグとリザは互いにチラリと目を合わせ、すぐに逸らす。それを見たアイリスは、キヨメとセラのペアよりもこの二人のペアの方が心配になるのだった。


「五日後の正午に、王都の『サンセット』っていう喫茶店に集合だ。今後の動きについてはこれで以上だ。何か質問はあるかー?」


「あ、私から一つ」


 軽く挙手して声を上げたのはリザだ。


「文句なら受け付けんぞ」


「そうじゃなくて、このギルドの名前ってなんなの?申請の時に必要だと思うんだけど」


「おお、そうだった!まだ言ってなかったな!」


「へー、てっきりギルド名はまだ決まってないのかと思ってた」


 ローグが少し意外そうに言った。


「おいおいローグ、この俺がそんな初歩的なことを忘れてるとでも?」


「昨晩徹夜で考えたんですよね~」


「あ、セラ!バラすんじゃない!」


「はいはい、わかりきってたよ。……で、その名前ってのは?」


 胡乱気な目でローグが尋ねたところで、リザとアイリスは期待の眼差しをイザクに向ける。


「綺麗で華やかな名前が良いなー」


「そうですねー」


「はっはっは。お前たちにピッタリな名前を考えてきたぞー。

 毒蛇のひと噛みと書いて、その名も――【毒蛇のひと噛み(ヒドラ・リベリオン)】!」


 自信満々に口にしたイザクだったが、それを聞いた瞬間にアイリスとリザの瞳から光が消えた。


「毒蛇……」


「物騒ですね……」


 露骨にガッカリする彼女たちを尻目に、キヨメが声を掛ける。


「してイザク殿。その名前の意味というのは?」


「ああ、ちゃんと理由があるから聞け。

 新規ギルドは設立後、自動的にFランクへと組されるわけだが、信頼と実績重視の冒険者業界において、無名の冒険者・無名のギルドに依頼する奴なんざ極稀だ。仕事の少なさから、ほぼ100%の確率で新規ギルドは解散するか、延々と鳴かず飛ばずの毎日を送る羽目になる」


 ローグ、アイリス、リザ、キヨメの四人が揃って頷いて続きを促す。


「Fランクという地の底を這いずる様はまさに蛇。……だが俺たちは違う。蛇は蛇でも毒蛇だ」


「どういう意味?」


 疑問の声を上げたのはリザだったが、イザクは別の人物の目を見て答えた。


「アイリス。Dランクギルドに所属していたお前なら知ってると思うが、たまにレベルが違い過ぎるクエストが依頼されることはなかったか?」


「あ、はい!確かにありました!結局、自分たちの手には負えないので他のギルドに流していましたが」


「それは本来、上位ギルドのクエストだ。しかし、そのギルドがクエスト失敗した場合に、ダメもとでランクの低いギルドにまで白羽の矢が立つことがある。そんな高難度のクエストは当然、どこのギルドも成功できない。底辺のFランクなんかはもってのほかだ。

 そんな中、同じ底辺の俺たちがいとも簡単にそのクエストを成功させたらどうなると思う?」


「……一気に注目の的になる」


 リザがポツリと呟いた。


「そうだ。俺たちは、どんなにか細いチャンスでも必ずモノにしてのし上がる。いわば、ひと噛みでどんな強大な獲物をも屠る毒蛇。故に、【毒蛇のひと噛み(ヒドラ・リベリオン)】。

 ちなみに言うとローグ、これはお前のために考えた名でもあるんだ」


「あ?」


 キョトンとするローグに、イザクは得意気な顔で言う。


「こんな御伽噺(おとぎばなし)がある。その昔、ヘラクレスという名のもの凄く強い戦士がいた。あらゆる戦士や怪物が彼に挑んだが、誰一人として敵う者はいなかった。

 そんな無敵の実力を誇るヘラクレスだったが、その最期は蛇の毒で呆気なく死んでしまったという」


「…………」


「王国最強を謳う【豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】様は、足元なんざ気にも留めずに頂点の座でふんぞり返ってやがるだろうなぁ。俺たちがひっそりと、奴らの首元に牙を突き立てているとも知らずに。

 ――調子に乗った豪傑共から、その座を奪い取ってやろうぜ、お前ら」


 その言葉を聞いた赤い目をした少年は、邪悪に口元を歪める。


「いいねその名前、気に入った……!」


 ローグの賛同を皮切りに、他の三人も頷きを返す。


「その危険な感じ、なんだかワクワクしてきました」


「ヘラクレスの天敵か……。アリね」


「下克上を掲げる名……!これは心が滾りますね」


 全員の顔を確認し、彼らの長となる男は厳かに口を開く。


「異論はないようだがら、決まりだな。俺たちはもう、【毒蛇のひと噛み(ヒドラ・リベリオン)】という共通の名を背負う家族だ。何時如何なる時も互いを思い、互いの為に行動する。その在り方を心に刻んでおけ」



 斯くして、ここに、やがて国中にその名を轟かすギルドが結成された。

 この日この瞬間より、彼らにとって新たな物語が幕を開ける。




**********

『64話 八豪傑 ライラ=ベル』に続く

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