1話 追放者はどこのギルドにも入れない
王都セプテントリオンにある支援者ギルド【幸福への羅針盤】。ギルドへの入団を希望する冒険者・支援者たちに見合ったギルドを紹介する、所謂、ギルド斡旋系ギルドである。
今日もギルドへの入団を求める多くの人たちで、【幸福への羅針盤】は溢れ返っていた。
そんな中、受付へと続く行列に、ひときわ異彩を放つ人物が一人。
黒地に金の装飾があしらわれたコートを身に纏った黒髪紅眼の男。【豪傑達の砦】を追放された冒険者ローグ=ウォースパイトの姿がそこにあった。
(はあ、まさか俺がこんなギルドの世話になるとはな……)
ある程度の予想はしていたものの、AランクギルドはおろかBランクギルドへの入団試験すらすべて不合格……というより試験すら受けさせてはもらえなかった。異名持ちであるとはいえ、魔法の一つもないまま試験を受けにくる馬鹿など聞いたことがないのだから当然なのかもしれない。
「はあッ⁉何で駄目なのよ⁉」
突然、行列の先頭から聞こえてきたのは女の子が声。
何事かとローグが列から身を乗り出して確認してみると、真っ赤な長髪の小柄な少女が受付で揉めているようだった。
「EランクでもFランクでもどこでもいいって言ってんの!戦闘系の《才能》がなかったら入団試験も受けちゃいけないって言うの⁉」
「いえ……決してそのようなわけではないのですが……」
「法で定められてるわけでもないんだからいいじゃない!」
ものすごい剣幕で迫る赤髪の少女に、獣人族の受付の少女は耳をしおらせて委縮していた。
「で、ですから……、どこの冒険者ギルドも、募集要項の最低条件が戦闘系《才能》を有していることでして……」
「……ッ、もういい!」
踵を返し、ギルドの出口へと向かっていく赤髪の少女。
(厄介な客はどこにでもいるなー。ああはなりたくねえな)
ローグは彼女の後姿をチラリと見ながら、やれやれと嘆息した。
それから20分後、
「何で駄目なんだよッ⁉」
ローグは受付で揉めていた。
「Eランクどころか、Fランクすら受けられないってどういうことだよ⁉どこのギルドの募集条件も満たしてるはずだろ!」
またも厄介な客を相手にすることになった獣人族の少女は、涙目でローグの応対をする。
「うぅ……、確かにお客様のステータスなら入団試験を受ける資格はございます。ただ……、ローグ=ウォースパイト様に限り、とある方より特例措置を申し付かっておりまして……」
「……はあ?特例措置?」
「先日、【豪傑達の砦】のギルドマスターであるハインリヒ=ファウスト様から全ギルドに向けて一斉通達がありました。そ、その内容が、ローグ=ウォースパイトという人物のギルド入団を認めた場合、【豪傑達の砦】からの引き抜き行為とみなし、そのギルドと敵対関係をとる、というものです……」
「な……ッ⁉」
その言葉に、ローグは大きく目を剥いた。
やられた。考え得る最悪の一手を打たれたと直感する。
№1冒険者ギルド【豪傑達の砦】とまともに争えるギルドなど数えるほどしかない。実力がある上位ギルドも、わざわざ魔法が使えない冒険者を引き入れてまで【豪傑達の砦】と敵対しようなどとは考えないだろう。
(チクショウ!最低限の労力で俺の活路をすべて断ち切りやがった……!)
愕然とするローグに、獣人族の少女は恐る恐る声を掛ける。
「あのう……お客様?」
「……あ、ああ。悪い。もう帰るわ」
「あ、はい!またのご利用をお待ちしております!」
律儀にお辞儀をして見送る受付嬢には気づかず、ローグはフラフラとした足取りで【幸福への羅針盤】を後にした。
ドンッ‼と【幸福への羅針盤】の正門付近の外壁にローグの拳が叩きつけられる。
(たった一人のために全ギルドに根回しするだと……⁉あンのクソジジイ……!)
しかしこのままギルドに入ることもできなければ、見返すどころではない。
どうしたものかと唸っていると、
「ん?」
ギルドの敷地周りの沿道に、ローグよりも先に受付嬢と揉めていた赤髪の少女の姿を見つけた。
彼女はギルドを囲う外壁に貼り付けられた紙の一枚をしばらく見つめた後、何かを決意したかのようにどこかに走り去っていった。
何となく気になったローグは、その外壁の前へと向かう。
そこに貼られていたのはギルドメンバー募集の貼り紙だった。
(聞いたこともないギルドばっかりだな。【幸福への羅針盤】に紹介料すら払えない、底辺ギルドか……)
この際、ここに貼り紙を出しているギルドにでも試験を受けにいってみるかーなどと考えていると、一つの貼り紙がローグの目に留まった。
「『新規冒険者ギルド設立につき、創設メンバー募集』……」
その内容を読み上げた彼は、ハインリヒの謀略を掻い潜る唯一の抜け道を見出した。
「――これだ!」
まだ正式にギルドとして認可されていなければ、ハインリヒの息もまだかかっていないはず。
つまり、新しくギルドを立ち上げる。
ゼロからのスタートになるが、これ以外に最早残された道はないだろう。
そうと決まれば、善は急げだ。
ローグはその貼り紙に記載された人物に会いに行くことにした。
(せいぜいほくそ笑んでやがれジジイ!俺はまだ終わってねえ……!)
本作をお読みいただき、ありがとうございました。
少しでもおもしろいと思ってくださった方は、ブックマークやページ下側の「☆☆☆☆☆」をタップして頂けると励みになります!