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50話 ローグVSヒュース

 イザクがどうにか歩ける程度まで回復したことで、一行は【異界迷宮(ダンジョン)】から帰還するための準備を整えていた。


「リザ殿は拙者が運んでいきましょう」


「じゃあ私はイザクさんの荷物を持っていきます」


 キヨメがリザを抱えて、アイリスがイザクのバックパックを手に取った。


「うわっ、凄い重いですね。何が入ってるんですか?」


 見た目に反してずっしりとしたその荷物に、アイリスが眉を上げる。


「宝物庫の宝がいくつか入ってんだよ。オッサン曰く、厳選したものを持ってきたらしいから落とすなよ~」


 ローグが煽るように言うと、


「お宝ですか……!それじゃあ、命に代えても守らなくっちゃ!」


「いや、そこまで張り切らなくてもいいんだけど……」


 宝という単語に興奮し、アイリスの鼻息が荒くなる。ランクの低い冒険者ギルドに所属していた彼女は宝物庫まで辿り着いた経験はないため、財宝を見るのはこれが初めてだった。


 未だ顔色の悪いイザクがローグに向かって、


「おいおい……。女の子ばかりに荷物を持たせて恥ずかしくないのかね?」


「自分の荷物すら持たせてる奴に言われたくねえ!そもそも……」


「そもそも?」


「残念なことに、俺たちよりも女性陣の方がパワフルなんだよ」


 ローグとイザクの視線が、同じところに集まる。

 そこには、リザを抱えても生き生きとしているキヨメと、70キログラムはある荷物を背負っても平気そうなアイリスの二人。


「ほら……」


「ほんとだぁ……」


 情けなさを誤魔化すように、ははははー、と笑う男たち。

 そんな彼らをアイリスとキヨメが不思議そうに見つめ返していた。


「あの二人、仲いいのか悪いのかよくわからないね」


「類は友を呼ぶというものでしょうか」


「う~ん、それは少し違うかも……」


「――む?」


 その時、またしてもキヨメが一早く異変を察知した。


 聞こえたのは風切り音。高速で何かが下から上がってきていると気づいた。

 キヨメが声を出すよりも先に、ソレは地面にポッカリと空いた大穴から飛び出した。

 全身5メートルほどの巨鳥。いとも簡単に人を殺められるであろう鉤爪と嘴を備えた猛禽類だ。


「モンスター⁉」


「いや、違う……!」


 アイリスが驚きの声を上げ、ローグがそれを否定する。彼は目を細めて、そのモンスターの正体を口にした。


「お前なんだろ!ヒュース!」


 ローグたちの正面に降り立った巨鳥は、みるみる人型の姿へと縮んでいき、金髪垂れ目の少年になったところで変化は止まった。

 少年、ヒュース=マクマイトは狂気を伴って口元を歪ませる。


「すんなりと逢えてよかったよ。ローグ()()。アンタを殺しそびれたら、誰で発散しようか悩んでたんだ」


「奇遇だな。俺もお前に用があったんだ」


「あっそ。……ん?あれあれー?」


 奥で転がっているギャロンの亡骸を見つけたヒュース。呆れたような顔をして、


「まったく、使えない人だなぁ。女一人殺せないなんて」


「ありゃ相手が悪かったんだ。お前でもリザには勝てねえよ」


「ハッ、相変わらず口だけは達者だな、アンタは」


 ヒュースから目を逸らさないまま、ローグは後ろの三人に話し掛けた。


「皆は先に帰っててくれ。俺はコイツとケリをつけてから行く」


「え、でも――」


「そういうことなら仕方ない。行こうか、アイリスの嬢ちゃん」


 イザクはアイリスの声を遮りながら、彼女を押してこのエリアから離れていく。


「何やら、ただならぬ因縁があるご様子。野暮な真似は致しません」


 キヨメもそう言い残して、二人の後に続いて立ち去っていった。


 この遺跡エリアに残るのは、ローグとヒュースのみとなる。


「よかったんですかぁ。あの人たちの手を借りなくて」


「バカか?お前への気遣いだよ。負けるところを誰かに見られたくねえだろ。……あ、さっきの『グリーディーウルフ』もお前だよな。じゃあ俺に一度負けてることになるか」


「……減らず口を。不意打ちでいい気になるなよ。――“多重魂魄接合(こんぱくせつごう)”、【怪物混成(タイラント)】!」


『整号』つきの魔法を唱えたヒュース。その姿が、再び変貌していく。しかし、これまでとはまた異質な変化だった。


 顔はヒュースの面影を残したまま獰猛な牙を生やし、上半身は象のような皮膚、両腕はゴリラのように逞しく、そして両脚は虎のように曲折したフォルム。

 他にも所々に別モンスターの特徴が見受けられる。二足歩行の人型を保ったまま、様々な生物が一つになったような姿だった。


「ハハハハハ!これをお前に見せるのは初めてだったな、ローグ!【怪物混成(タイラント)】は幾つものモンスターの魂を一つの器に納め、同時にそれらの能力を使うことができる!これが俺の最大魔法だ!」


「魂を一つに?そんなこと……」


「凡人には無理さ。無数の魂と結びつくと自我を見失うため、魔法を発現したとしてもその使用を禁止されている。……だが、俺は制御できる!俺は凡人とは違う!世界で唯一、この【怪物混成(タイラント)】の使用を認められている俺こそ……天才なんだ!」


「…………」


「だからさぁ……、ただ早熟型だっただけのお前が、天才だのともてはやされてたことが気に喰わなかったんだよ。お前みたいな雑魚がッ、俺の上に立ってたことが許せないんだよッ!」


 そう叫んで、ヒュースが地を蹴った。力強いその踏み込みで、地面が捲れ上がる。


「死ね!ローグッ!」


「“雷轟天征”、【鳴雷(ナルイカヅチ)】!」


 冷静に魔法を唱え、雷撃で迎え撃つローグ。

 雷の槍と怪物の剛拳が正面から激突した。


「ハハハハッ!【怪物混成(タイラント)】状態の俺に勝てるとでもッ!」


 最強の肉体が誇る、最大の筋力に、最速のスピードを乗せた一撃を繰り出したヒュースは、真っ向勝負ならばどんな魔法にも負けないと信じて疑わなかった。

 今まで目にしてきた魔法ならば、必ず捻じ伏せられると絶対の自信があった。


 しかし、


「ぐ……ッ⁉」


 その雷撃は、ヒュースが知るどの魔法よりも強力で、重かった。


(な、なぜ押し負ける――⁉)


「ぐああああッ‼」


 雷撃で拳を弾かれ、ヒュースの体が奥の廃墟へと突っ込んでいった。


「ク、クソ……ッ。何で……⁉」


 瓦礫を押しのけて再び立ち上がるが、ヒュースの顔は疑問と焦燥で塗り潰されていた。

 そんな彼に、ローグは怒りを込めた双眸で睨みつける。


「何をキレてるか知らねえけどよォ、はらわた煮えくり返ってるのはこっちも同じなんだよ……!」


「ッ!」


 バチンッ!と青白い火花が弾け、ヒュースが思わず肩を震わせた。


「覚悟は出来てんだろうなァ!クソガキ!」





**********

『51話 ワカイカヅチ』

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