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46話 【異界迷宮】完全攻略

「宝物庫の扉も開き、【異界迷宮(ダンジョン)】の主も消えた。向こうで暴れている竜種(ドラゴン)もしばらくは放っておいて問題ないだろう。これでようやく、完全攻略達成だな」


「「……」」


 イザクが振り返ると、ローグとキヨメは心ここにあらずといった顔で立ち尽くしていた。

 自分たちがあれだけ苦戦した神種(ゴッド)が、あっという間に倒されたのだから無理もないかもしれないが。


「おい、どうした?二人揃って阿呆な顔して」


「え?ああ、ちょっとびっくりして。アンタ、こんなに強かったんだな……」


「拙者も驚きました……」


「ハッハッハ。何よりの反応だ。お前たちに力を見せつけるつもりで戦ったからな」


「……だからこそわからねえ。何でそれだけの実力がありながら、アンタは今まで名を上げずにいたんだ?」


 この世の中、持って生まれた才能や培った実力を生かしてこそである。ましてや、神種(ゴッド)を単独で倒せる者ならば、その名は国中に知れ渡っていてもおかしくはない。

豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】で野心を持った者たちを見続けてきたローグにとって、イザクという存在はあまりにも異質だった。


「Aランクギルドに入れば、億万長者にだってなれるってのに。欲がねえのか?」


 その問いに、イザクは少しの間を置いて答えた。


「……俺だって人だ。もちろん欲望はある。昔は金稼ぎや地位の向上に躍起になったもんさ。そのために腕を磨きに磨きまくったしな。だが今は、ある目的を達成する以外はあまり興味ないなぁ」


「目的?」


「それはまだ秘密だ。いつか教えてやろう」


 そしてイザクは人差し指で真上の穴を差して、


「そんなことより、そろそろあそこから遺跡のエリアまで戻るか。仲間が待っているんだろう?それに時間が経てば、また『サンライトストーン』が再生してあの穴を塞いじまう。ありゃ内側からなら簡単に壊せるが、外側は異常に固いから壊すのに一苦労するぞ」


 その言葉を聞いてキヨメが天井を見ると、徐々にではあるが、穴の周囲から鉱石の外殻が形作られようとしていた。


「本当ですね。少しずつ再生が始まっています」


 胡乱気な目をイザクに向けていたローグだったが、仕方ないといった様子で鼻を鳴らす。


「……そうだな。でもアンタにはまだ聞きたいことは山ほどある。道中じっくり聞かせろよ」


「答えられる範囲なら」


「イザク殿。宝物庫の宝は持ち出さなくてもいいのですか?」


「うん?どの道三人だけじゃ、全部運び出せないからなー。高値が付きそうなものを厳選して、俺のバックパックに詰めてある。残りは日を改めて取りに行けばいい。もう強いモンスターもいないから楽だろう」


「なるほど」


「そんじゃ、そろそろ行くか」


 そう言って、イザクは魔法を発動しようとする。しかし、


「――あ、ちょっと待った!」


 ふと何かを思い出したローグが声を上げた。


「ん?忘れ物でもしたか?」


「ああ!そんなところ!放っておくのもなんだから、アイツも連れてくる!」


 言いながらローグは急いで走っていった。


「アイツ……?キヨメの嬢ちゃん、まだここに誰かいるのか?」


「おそらく、このエリアで戦った別のギルドの冒険者のことでしょう。モンスターに化ける希少魔法の使い手でしたが、ローグ殿の攻撃によって向こうで気を失っているはずです」


「へえ……希少魔法をねえ」

(……俺がこの【異界迷宮(ダンジョン)】の情報を流したミニなんとかっていうギルドの冒険者か?弱小ギルドと聞いてたもんだから、こんな深いエリアまで来れやしないと思っていたが……)


 イザクがそんなことを考えてから一分としない内に、ローグは一人で戻ってきた。


「む、お一人ですか?ローグ殿」


「それが、あの狼冒険者、もうどこにもいなかったんだよ。神種(ゴッド)竜種(ドラゴン)の姿を見てとっくに逃げたのかもな」


「なかなかの実力者でしたから、並のモンスターにはまずやられはしないでしょう」


「なら、もう出発してもいいか?」


 手をプラプラさせながらイザクが言う。


「ああ……」


 頷いたローグだったが、消えた冒険者のことが少しばかり気掛かりではあった。


(何でだろうな。ここにいるはずがねえのに、()の顔が妙に頭にチラつく……)


 小さなモヤモヤを払拭するかのように、隣の男が能天気な声を出す。


「よーし。お前ら、空を飛ぶ準備はいいか?」


「はい!いよいよ拙者も空を飛べる瞬間が……!」

 

 ワクワクと口元を綻ばせるキヨメに対し、ローグは眉根を寄せて、


「……あれ?オッサンの魔法は重力を操る魔法ばかりだろ?それなら、空を飛ぶんじゃなくて、ひょっとして……」


 急に嫌な予感がしてきたローグ。能天気な男はニッと笑って魔法を唱えた。


「――乱廻新星、【反転する星(リパルサー)】」


反転する星(リパルサー)】。物体にかかる重力の向きを変える魔法である。


 三人に下向きにかかっていた重力が、徐々に小さくなっていく。やがて重力がゼロに至り、その向きが完全に反転する。

 上向きにかかる重力。大地という支えを失った三人の体は当然、()()()()()()()()()


「あああああああッ‼やっぱりぃぃ‼」


「うぅ……、拙者が想像していたものと違う……」


「ハハハハハ!傍から見れば、空を飛んでるように見えると思うぞー!多分」


 三者三様の反応をしながら、ローグたちは天上の穴に吸い込まれるようにこの最終エリアを後にした。




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『47話 大きな怒りと小さな救い』に続く

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