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prologue4 キヨメ=シンゼンの追放?

 アステール王国は世界で最も栄えている大国である。

 その理由は、アステール王国のみに【異界迷宮(ダンジョン)】へと繋がる【異界門(ゲート)】が発生するからだ。


 国内のどこかに【異界門(ゲート)】は突然現れ、消えることもなくいつまでも残り続ける。そうして増え続け、今ではその数は500を超える。【異界門(ゲート)】から繋がる【異界迷宮(ダンジョン)】はそれぞれ別種のもので、別々の【異界門(ゲート)】から同じ【異界迷宮】に繋がることはない。


 基本的に【異界門(ゲート)】の所有権は王国側にあるが、Bランク以上の冒険者ギルドにもなれば、そのギルドの冒険者のみが足を踏み入れられるように【異界門(ゲート)】の所有権をいくつか国から買い取っており、その【異界迷宮(ダンジョン)】に眠る資源を独占することができるのだ。




 数ある【異界門(ゲート)】の一つ、アステール王国東部のとある草原。第37番【異界門(ゲート)】から一組のパーティが帰還した。

 虚空に浮かぶ黒い霧のような場所から初めに姿を見せた人物は、凛とした雰囲気を持つ東洋顔の若い女性だった。


「うむ!やはりこちらの世界の空気はうまいな!」


 長い黒髪を後ろで結った彼女は嬉しそうに空気を吸う。藍色を基調とした東洋独特の防具を身に纏い、腰には刀を差している。


「おう、戻ったか。キヨメ」


 出迎えたのはキヨメと同じく黒い髪をした東洋顔の若い男性だ。腰に刀を差してはいるが防具は身に着けていない。彼にとっての普段着である。


「トウヤ殿!わざわざ出迎えに来てくださったのですか!」


「当たり前や。何せ『八番隊』の初陣やからな。お前のその様子やとクエストはうまくいったようやな」


 所々汚れてはいるものの、キヨメにこれといって怪我は見当たらない。明るく振る舞う彼女の様子からも、パーティメンバーも無事に帰還したのだろうとトウヤは思った。


「はい!依頼にあったモンスターは討伐できました!それに我ら『八番隊』に死者は出ておりません!」


「そうか。それは何よりやな」


 すると、


「トウヤ様~……」


「ん?」


 虚空に浮かぶ黒い霧、【異界門(ゲート)】から声が聞こえてきた。

 トウヤがそちらを見ると、這いずるように一人、また一人と冒険者たちが【異界門(ゲート)】から姿を見せた。『八番隊』と呼ばれたパーティはキヨメを除いて五人。今出てきた彼らは大きな怪我は負っていなかったものの、尋常ではないほど疲弊しきっていた。


「皆さん遅いですよ!さあさあ、ギルドに戻って成果を報告に参りましょう!」


「お……お前な…………」

「バカ侍……め……」


 無邪気に声を掛けてくるキヨメに憎々しく呟いて、ついに意識を失っていくパーティメンバーたち。

 その惨状を目の当たりにしたトウヤは、彼らに何が起きたのかを即座に理解した。


「あ~……」

(やっぱりか~)


 パーティ半壊の原因であろう女冒険者にチラリと目をやる。

 その視線の先にいる女冒険者キヨメは、なぜか気絶してしまった仲間たちを前にして狼狽していた。


「ど、どうなされた皆さん⁉しっかりしてくだされ!」





 冒険者ギルド【猟犬の秩序(ハウンド・コスモス)】。構成メンバーの半数以上を極東の小国ヒノクニ出身の冒険者が占めており、その団員の総数は42と上位ギルドの中では最小規模のギルドである。

 しかし、ギルドの序列は【豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】に次ぐ№2。まさに少数精鋭。さらに団員同士の結束も固く、一般国民からも人気も高い。


 アステール王国東端の街にある木造一階建ての屋敷、【猟犬の秩序(ハウンド・コスモス)】の本拠地に帰還したキヨメは、ギルドマスターからの呼び出しを受けた。


「キヨメ=シンゼン、只今参りました」


「入りなさい」


 部屋の中から入室の了承を得て、襖を開く。

 畳が敷き詰められた部屋の奥に、三頭身ほどのかなり小柄なお爺さんが座布団の上で胡坐をかいていた。

 失礼します、とキヨメはお辞儀をして、お爺さんの対面に正座する。


「殿。拙者に話とは一体?」


「……うむ、その前に『殿』って呼ぶのやめてくれる?」


「え?しかし、殿はこのギルドの主。殿と呼ばずして一体何とお呼びすれば……」


「普通にマスターって呼んでくれればいいんじゃが」


「むう、師と呼ぶべきお方は他におります故、拙者としてはやはり殿とお呼びした方がよろしいかと」


「…………」

(めんどくさいなぁ……)


 なぜか頑なに意志を曲げようとしないキヨメに、ギルドマスターの方が先に折れた。


「……じゃあ殿でいいや」


「はっ!して殿、一体私に何用でしょう?」


「うむ。まずは初クエストご苦労。皆が生還できたことは何よりじゃ」


 ギルドマスターは咳払いをして緩みかけた気を引き締め直した。キヨメの独特のペースに呑み込まれないように注意しながら話を続ける。


「しかしな、キヨメ。『八番隊』のメンバーからお前に対しての苦情があった」


「苦情……ですか?」


「彼らの話によれば、お前は明らかなトラップに引っ掛かったり、一人迷子になったり、挙句の果てに、依頼に関係のない上級モンスターに挑んだりと愚昧な立ち振る舞いをしていたとか」


 ギルドマスターの脳裏に、数時間前に見た団員たちのやつれきった姿が甦る。このギルドの長として放っておいていい問題ではない。


「お恥ずかしながら、拙者の実力では【異界迷宮(ダンジョン)】攻略はまだまだ難しかったようです」


 顔を赤らめてそんなことを言うキヨメにギルドマスターは大きな溜息をついた。


「キヨメよ。正直、お前の実力は既に第一線で活躍できるレベル。じゃが、入団から三年もお前に【異界迷宮(ダンジョン)】への出入りを禁じていたのには理由がある」


「……?拙者の力が及ばないということでは?」


 首を傾げる彼女にギルドマスターは残念なものを見る目で、


「不足なのはお前の頭じゃ」


「……は?」


 キヨメはポカンとしてさらに首を横に倒した。


「阿呆であること。これは冒険者にとって最悪の欠点。【異界迷宮(ダンジョン)】内でまともな立ち回りができなければ、自分だけでなく仲間も危険に晒すことになる。今回、死者こそ出なかったものの、次もそうであるとは限らん。もちろんクエストに危険は付き物じゃが、お前の行動はパーティの生存率を大幅に下げてしまう。……それは理解できるな?」


「は、はい……」


「そこで儂が考えたのは、お前のギルドからの仮追放じゃ。他のギルドで経験を積み、欠点を克服するまでこのギルドの敷居を跨ぐことを禁ずる」


 キヨメは真面目で心優しい人間だ。努力家でもある彼女を嫌う人間はいない。ギルドマスターも彼女のことを気に入っているからこそ、敢えて厳しく突き放す。

 いわば愛のムチというやつだ。

 ――と、いうのは自分に言い聞かせた言い訳であり、本音を言えばキヨメの弱点克服訓練を他所のギルドに丸投げしようという魂胆である。

 キヨメの訓練の過程で被るギルドの損害を考えれば当然の判断かもしれないが。


 ギルドマスターはキヨメの目をまっすぐと見て、


「立派に成長して戻ってきなさい」

(……主に頭の方を)


 移籍先でキヨメが活躍してそのギルドに恩を売れればラッキー、損害を与えられれば尚更ラッキー。

 そんなギルドマスターの思惑など露知らず、彼女は感極まって目尻に涙を溜める。


「殿……ッ!なんと慈悲深きお言葉……!このキヨメ、誠心誠意お勤めして参ります!」


「お、おう、頑張ってね……」


「はっ!」


 引きつった笑みを浮かべるギルドマスターに、キヨメは深々と頭を垂れた。




**********

キヨメ=シンゼン

追放(仮)理由:バカ

**********



本作をお読みいただき、ありがとうございました。



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