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prologue3 リザ=キッドマンの追放

 現在、アステール王国に正式に認可されているギルドの数は80。その内七割を冒険者ギルドが占めている一方、残りの三割にあたるのは支援者ギルドと呼ばれるものだ。

 支援者ギルドとは、【剣士】・【銃士】・【魔術師】などの戦闘系の《才能(ギフト)》を持たない者たち、支援者によって組織された、冒険者ギルドをサポートする役割のギルドである。

 【鍛冶師】・【調剤師】・【料理人】などの生産系の《才能(ギフト)》を持つ者ならば、誰でも入団を認められるため、冒険者から支援者へと転職する者も少なくない。

 また、冒険者ギルドの上位陣が固定化されつつある近年、低ランクの冒険者ギルドが支援者ギルドへとギルドごと業態を変える事例も増えている。

 支援者ギルドのバリエーションは冒険者ギルドに比べて豊富で、レストランや鍛冶屋、宿屋に薬屋など在り方は実に幅広い。




 支援者ギルドの一つ、【山猫の台所(リンクス・キッチン)】。アステール王国の王都セプテントリオンに店を構える人気の酒場である。

 この【山猫の台所(リンクス・キッチン)】、従業員をすべて女性にするというギルドマスター(男)の商業戦略により、ギルド設立からわずか一年で食系の支援者ギルド№1の座に就いてみせた。


 女性従業員目当ての男性客はもちろん、同性の方が安心するという理由から女性客も多く、今日も【異界迷宮(ダンジョン)】帰りの冒険者や労働終わりの支援者たちで店内は賑わっていた。


 しかし、客が増えるということは、それだけ厄介な客、所謂クレーマーも増えてしまう……。


「おいおいどうなってんだこの店はァ⁉」

「ギルマス出せやコラァ‼」


 店内で二人組の男性客が、人目もはばからずに怒鳴り散らしていた。武器や防具を身につけていることから冒険者であることは間違いない。

 ウエイトレスたちは怯えて声も出せず、他の客も見て見ぬフリをするばかりで店内は嫌な空気に包まれつつあった。


「あの~……私が当ギルドのマスターでございます。如何致しましたか……?」


 カタカタと震えながら、ギルドマスターの男が声を掛けた。彼の体格は荒事とは無縁の細身で冒険者たちとは雲泥の差である。喧嘩になったら勝ち目がないことは明白であるため、震えてしまうのも無理はない。


「このギルドは客に髪の毛が入った飯を出すのかよ⁉」

「全部食っちまったじゃねえかよ‼どうしてくれんだ‼」


 見ると、それぞれの空き皿の上に短い髪の毛が一本ずつ確認できた。

 異物混入のクレームは厄介で、客側の責任を証明し辛く店側が泣き寝入りするパターンが多い。


「も、申し訳ありませんっ。代金は無料で結構ですので」


 揉め事を長引かせまいとギルドマスターは即座に譲歩するものの、


「はァ⁉こんなもん入れておいてそれだけか⁉料理も交換するのが常識じゃねえのか⁉」


 今回のクレーマーは一層タチが悪かった。


「承知致しました……。すぐにご用意致します」


 渋々といった様子でギルドマスターが了承する陰で、二人のクレーマーはほくそ笑んでいた。

 ギルドマスターは厨房で調理を続けている小柄な女性従業員に呼びかける。


「リザちゃん、こちらのお客様に同じ料理をお出しして!」


「イヤ」


「えぇっ⁉」


 即答の否定だった。


「あんな奴らのために料理するなんて死んでもイヤ」


「何言ってんの⁉」


 店内は静寂に包まれていたため、彼女の声はクレーマーたちの耳にも届いていた。


「嬢ちゃん。そりゃどういうことだ?客に飯を提供するのがてめえの仕事だろうが!」


 リザは調理の手を止め、腰まで伸びた真っ赤な髪を揺らしながらゆっくりと顔を上げた。


「あァ?」


 ドスの効いた声と共に、紫紺の瞳にひと睨みされたクレーマーたちは思わずたじろいだ。

 リザは舌打ちをしながら厨房を出て、クレーマーたちの元へと近づいていく。

 彼女の服装は他の従業員と同じ紺のジャンパースカートの上から白いエプロンを着た格好に加え、腰に巻いたベルトに二丁の拳銃を携えた異質な風貌をしていた。


「私の仕事は料理を作って代金を貰うところまでが仕事なの。金を払う気もないクズ共に出す料理なんてないわ」


「ギルド側の不手際なら、てめえらが責任を負うのは当然のことだろ⁉」


「不手際?」


 リザはピクリと眉を動かし、空いた皿に付いた髪の毛を一瞥する。


「こんな短い髪の従業員はウチにはいないんだけど」


 ギクリとするクレーマーたち。周りを見ると、自分たちのような短髪の女性従業員などいやしない。


「ぎ、ギルマスの――」


「マスターは黒髪、アンタ達のは金とオレンジ。はい、これでウチに非はなし」


「ぐっ……。てめえ、それが客に対する態度かよ⁉」


「大体なんだその格好は⁉支援者風情が、そんなに俺たち冒険者に憧れてんのか⁉」



「――今なんて言った?」



 まずい。

 ギルドマスターや従業員だけでなく、彼女をよく知る常連客たち全員がそう思った。


「アンタら如きに憧れるわけないでしょ。殺すぞ?」


「な……⁉」


 高圧的に言い放つリザにギルドマスターの顔面は蒼白になっていた。彼は小声で、


「(ままま、まずいよリザちゃん。この人たちの紋章、【豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】のものだよ!)」


 クレーマーたちの肩には、服の上から勇ましい巨人が描かれた紋章が貼り付けられていた。紛れもなく、【豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】の一員であることを示すものだ。


「ヘラクレス?こいつらが?ハッ、どうせ末端もいいとこよ。すぐに追放されるに決まってるわ」


 リザのその言葉に、クレーマーたちは椅子を蹴り飛ばしながら立ち上がった。


「このガキィ!ぶっ殺してやる‼」


「女だからって容赦しねえぞ‼」


「上等だっての!」


 リザはまず殴り掛かってきた金髪の男をの腕を取り、足を払ってテーブルに思い切り投げ倒した。


「がはッ⁉」


 石造りの床にテーブルもろとも叩きつけられた金髪の男は、何が起こったのかわかっていないようで、目を白黒させながら悶絶する。そんな彼の顔の上に足を上げたリザは、そのまま容赦なく振り下ろした。


「な……な……⁉」


 あっという間にノックダウンさせられた金髪の仲間を見て、オレンジ髪の男は戦慄する。

 鼻の骨を砕いた感触を足の裏に残しながら、リザはゆっくりとオレンジ髪の男へと目を向ける。


「ひっ⁉」


「……アンタ達の言った通り、私は強い冒険者に憧れてんのよ。生まれつき戦闘系の《才能(ギフト)》は持ってなかった。それでも私は自分を鍛えた。《才能(ギフト)》がなくても努力次第で強くなれるから」


 紫紺の瞳を冷ややかにギラつかせながら、ゆっくりと歩を進める。


「でもどこの冒険者ギルドも《才能(ギフト)》がないってだけで入団試験すら受けさせてくれない。ふざけやがって!アンタ達みたいなクズ共が冒険者を名乗ってるのを見ると、この上なく腹が立つのよ‼」


 リザはそう叫び、握りしめた拳で思い切りオレンジ髪の男を殴り飛ばした。

 ギルド外まで放り出された彼は白目を剥いて、泡を吹きながら気絶していた。


「ふん……雑魚め」


 リザが鼻を鳴らすと、ギルド内は拍手喝采に包まれた。


「いいぞー!嬢ちゃん!」

「リザさん、カッコいい!」


 称賛の嵐に少々頬を赤く染めながら、踵を返す彼女をギルドマスターが呼び止める。


「リザちゃん!」


「マスター。礼はいいから、早く仕事に戻りなよ」


「その必要はないよ。……僕がさっきまずいって言ったのは、【豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】に目をつけられることを恐れたからだ。こんなことをされちゃ、このギルドはたまったもんじゃない……!」


「マ、マスター?」


「悪いけど。君にこのギルドを出て行ってもらう!」


「…………え?」



 後日、リザに叩きのめされた【豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】の下っ端二人は、入団から三日という最速記録で追放を命じられた。




**********

リザ=キッドマン

追放理由:顧客半殺し

**********



本作をお読みいただき、ありがとうございました。



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