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23話 【異界迷宮】デビュー 前編

 現在、確認されている【異界迷宮(ダンジョン)】の数は516。

 つまり、スピカの町外れの洞窟に新たに出現した【異界迷宮(ダンジョン)】の存在が公に知れれば、第517【異界迷宮(ダンジョン)】として呼称されることになる。



 そんな新たな異界に突入したローグたち四人の視界に、昼間のような明かりに照らされた大自然が広がっていた。

 青々と生い茂るジャングル。湖もしくは巨大な池だろうか、区別がつけられないほど大規模な水溜まりも確認できる。

 視線を上げれば、明るさの原因である強く発光する鉱石が空色の天井に埋め込まれており、その付近を奇怪なモンスターたちが飛行している。

 天井まで繋がった岩壁にぐるりと囲われているこの空間は、まるで途轍もなく巨大な部屋のようだった。


異界門(ゲート)】をくぐって、最初に四人が出た場所からはこのエリアの全貌を一望することができた。


「これが【異界迷宮(ダンジョン)】……!すごい……!すごい‼」


 子どものように目を輝かせてはしゃぐリザ。

 初めて目にする幻想的で未知なる光景に、テンションを上げるなという方が難しいだろう。


「リザ殿!こちらに見たことのない果実が成ってますよ!」


「マジ⁉どれどれ⁉」


「変なもん食うなよー」


 好き勝手に行動するリザとキヨメに釘を刺しておいたところで、ローグはバックパックから伸縮式の望遠鏡を取り出した。


「スタート地点にしては良い場所だな。ここからなら動き回らなくても次のエリアに繋がる道を探せそうだ」


 そう言いながら望遠鏡を覗き込むローグ。

 彼の隣では、既にアイリスが双眼鏡で崖下のジャングルを調べていた。さすがに何度も【異界迷宮(ダンジョン)】へ潜行しているだけあって冒険の基本を押さえている。


 可能な限り動き回らずに進むべきルートを見つけ出す。

 それが、安全かつ確実に冒険をするための鉄則だ。


「イザクさんがこのエリアにいる可能性はないでしょうか?」


 アイリスの問いに、ローグは間を置かずに答えた。


「ないな。セラさんが腕は立つって言ってたし、ここにいる程度のモンスターにやられるとは思えん。生きてたらとっくに【異界門(ゲート)】から出て来れているはずだからな」


「となると、他のエリアを探しに行くしかないですね」


「そうだな。ここから見つけられればベストなんだが…………あ。あったわ」


「え!」


 言った側から見つけ出したローグに、アイリスは驚きの声を上げた。


「ど、どこです?」


「ほら真正面のバカでかい木の根っこのところだ。10キロくらい先にある」


「…………あ、本当だ!よく見たら先に続いてますね」


 高さ約百五十メートル、太さ約四十メートルはあるであろう大樹の根元の、これまた太すぎる根っこが入り乱れた隙間の一つが、洞窟のように次なるエリアへと繋がる入り口となっていた。


「こうも簡単に見つかるとは幸先いいな!」


「そうですね!」


 あれだけ目標地点が目立てば、地図を描いて目印をつける必要もないだろうとローグとアイリスは判断した。

 すぐに移動を開始しようと思ったところで、


「ローグ!アイリス!早く来てッ‼」


「「――⁉」」


 切羽詰まったようなリザの声が、二人の耳に届いた。


「行くぞ!」


「はいッ!」


 何かまずいことが起きたのだろうかと、ローグとアイリスは慌てて駆け出した。

 リザはそれほど遠くには行っていなかったようで、へたり込む彼女の姿をすぐに見つけることができた。


「リザ!」


「リザさん!」


 ローグたちの声に振り返ったリザの顔は、真っ青だった。


「大変よ、二人とも……!」


「な、何があった⁉」


 気の強い彼女がそんな顔をするなんて、余程のことがあったに違いないと思ったローグとアイリス。

 赤い髪とは対照的に、青ざめた顔の少女はその出来事を口にした。


「そこの果物を食べたキヨメが、泡を吹いて倒れたわ」


「ふ、不覚……ッ」


 リザの腕の中では、泥のような顔色の侍が意識を朦朧とさせていた。


「うわあああ!キヨメちゃあんッ!」


「だから変なもん食うなって言ったろうがッ‼」


 幸先よく冒険を始められると思ったローグとアイリスの淡い期待は、いとも容易く裏切られた。


 キヨメの弱点、其の一。『アホ』。




**********

『24話 【異界迷宮】デビュー 中編』に続く

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