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22話 【異界迷宮】突入

 午後22時。5時間ほど、【異界迷宮(ダンジョン)】に挑む準備や仮眠を済ませたローグ、リザ、キヨメの三人は、各々バックパックを背負ってログホームの玄関前に集まっていた。あと一人、アイリスが準備を終えて二階から降りてくれば出発という状態だ。


「俺の回復薬(ポーション)が全部なくなってたんだけど……」


「それなら私やアンタの怪我を治すのに使ったわよ。あとキヨメにも」


 ローグの誰に向けたものでもない呟きに、リザが反応した。


「やっぱりか。いや、それは別にいいんだけどよぉ。ただ、回復薬(ポーション)なしで【異界迷宮(ダンジョン)】に挑むのは危険が高まるんだよな。向こうで調合できる資源があればいいんだが」


「アンタ回復薬(ポーション)作れるの?」


「なんと【調剤師】の《才能(ギフト)》を持ってるから余裕だ。凄いだろ?」


「ふーん」


「…………」


 そんなやり取りを終えたところで、ドタドタと階段を駆け下りてくる足音が聞こえてきた。


「すみません!お待たせしました!」


 慌てた様子で姿を見せたのは、他の者より大きめのバックパックを背負ったアイリス。彼女をまじまじと見つめたキヨメが、


「アイリス殿は荷物を多めに持っていかれるのですね」


「うん。いっぱいあった方が安心だと思うから」


「でもいざって時に動けないと困るだろ?」


「これくらいなら支障はないですよ、ローグさん。それに今回はかなり荷物を絞ったので、いつもよりは軽いです」


「その量で⁉」


 旅の荷物だけでなく、【異界迷宮(ダンジョン)】に持ち込む荷物まで多いことに驚くローグ。どうやって【異界迷宮(ダンジョン)】を生き延びてきたのだろうと思っていると、


「じゃあ、皆さん。荷物お預かりしますよ」


「「…………?」」


 両手を差し出して、そんなことを言い出したアイリスにリザとキヨメは揃って首を傾げた。


「……どういうこと?冒険者のクエストって、荷物を誰か一人に持たせるのが常識なの?」


「いえ、拙者も一度しか【異界迷宮(ダンジョン)】に潜ったことがないので詳しいことは……。ただ、その時は各々が荷物を背負っていましたが」


 ひそひそと話す彼女たちに、ローグが後ろから声を掛けた。


「あー……、実はかくかくしかじかで、すっかりパシリ根性が染みついてるらしい」


 彼は、アイリスが以前所属していたギルドで、良い扱いを受けてこなかったことを説明した。


「……なるほどね。アイリスも苦労してたんだ」


「アイリス殿!荷物は自分で背負っていくので、お気遣いなく!」


「大体、パーティメンバーの一人にそんな枷を嵌めるようなことをしたら、全員が危険に晒されるってことがわからんのかねぇ。お前が所属してたパーティの程度が知れるな、まったく!」


 リザとキヨメが優しく言った。ローグに至ってはアイリスに妙な習慣を身につけさせたパーティに腹を立てている。


 金髪碧眼の少女は、想定外の展開にオロオロするばかりだ。


「で、でも……、私、荷物持ちくらいしか役に立てないですよ……!」


「……?何言ってんだよ、【ドラゴンサモナー】って希少才能(レアギフト)があるだろ?いざって時には竜種(ドラゴン)を呼んで助けてくれ」


「「竜種(ドラゴン)⁉」」


 驚愕すると同時に目を輝かせるリザとキヨメ。期待の眼差しを向けられたアイリスは、彼女たちの間に壁を作るように両手を振った。


「いえいえいえ!呼び出せても操れないんで!皆さんの迷惑になるだけです!」


 どこまでも自信のないアイリスに、ローグは呆れたように鼻で溜め息を吐いた。


「あのなぁアイリス。リザの言葉を借りるなら、要は使いようだ。竜種(ドラゴン)を呼び出せるだけでも状況次第じゃ、大きな戦力になる」


「でも宝の持ち腐れだってガッカリしてたのはローグさんですよね?」


「………………そんなこと言ったっけ?」


「言ってました」


 アイリスにジト目を向けられ、額に汗を滲ませるローグ。リザはアイリスの肩に手を乗せて、彼に冷ややかな目つきで言い放つ。


「アンタにとっては些細な発言でも、言われた側は傷つくもンなのよ。少しは言葉に気を付けろクズ」


「その発言に傷つくんだけど⁉」


 話が逸れてしまったので、ローグは一度咳払いして軌道修正した。


「とにかく!竜種(ドラゴン)の力が必要な『緊急事態』になれば、俺が指示するから!」


「は、はい……!」


 気を引き締め直して、返事をするアイリス。

 と、そこへ、


「よかった~。皆さんまだ、ここにいてくださって~」


 ニコニコとした白髪(はくはつ)の女性、セラが一枚の紙を持って奥からやってきた。彼女はその紙をローグに手渡して、


「これ、【異界門(ゲート)】までの地図です。言葉だけじゃわかりにくかったでしょうから~」


「ああ、助かります」


「それと、皆さんの耳に入れておきたい情報が一つ」


「……?何すか?」


「今朝、通りすがりの旅人の方に教えて頂いた情報なのですが、実は隣町のエニフという町にある冒険者ギルドが、どこからかその【異界門(ゲート)】の噂を聞きつけてパーティを向かわせてるそうです。時間的にもしかしたら、遭遇する可能性があるかと思いまして~」


「それってもう【異界迷宮(ダンジョン)】の存在が宮廷に伝えられてるってこと⁉正式にギルドを立ち上げてない私たちじゃ、宮廷の所有物になった【異界迷宮(ダンジョン)】へは潜れないんじゃないの⁉」


 焦るリザに対し、ローグは落ち着いた様子でかぶりを振った。


「いや。新生【異界迷宮(ダンジョン)】は一度、冒険者の目で直接確認してから宮廷に報告されるもんだ。まだ確認前の段階なら、法を犯すことにはならないからギリギリセーフ」


「そ、そうなんだ。違法行為になるかと思った……」


「セラさん、そのギルドは何ていうところです?」


「え~と、なんていったかしら~」


 セラは頬に指を添えて記憶を巡らせる。



「――ああ、そうだ。たしか、【小心者の子馬(ミニチュア・ホース)】という名前だった気がします」



「――!」


「うーん、聞いたことあるような、ないような……。少なくとも上位ギルドじゃないな」


「私も聞いたことないわ」


「無論、拙者も」


 ローグ、リザ、キヨメの三人がピンときていない中、ただ一人アイリスだけがピクリと反応していた。

 動揺で鼓動が加速している彼女の様子に、他の皆は誰一人として気づいていなかった。




 セラと別れたローグたち四人のパーティは、地図を頼りに迷うことなく目的の場所へと辿り着いた。

 山林地帯の中に、ひっそりと存在する小規模の洞窟。

 その内部をさらに進んでいくと、突き当りに差し掛かったところでソレを見つけた。


「あれだな」


 四人の視線の先にあるのは、虚空に浮かぶ黒い霧のようなモヤモヤとした何か。

異界迷宮(ダンジョン)】へと繋がる入り口、【異界門(ゲート)】である。


「いよいよね……!」


「この緊張感、心が躍るというもの……!」


異界迷宮(ダンジョン)】への潜行経験がほぼないリザとキヨメは、緊張しつつもワクワクする気持ちを抑えられないでいた。


「…………」


 二人とは対照的に、アイリスはどこか沈んだ面持ちだ。

 そんな彼女にローグが声を掛ける。


「……どうした?今更不安になってきたのか?」


「え……?あっ、いえ!そういうわけじゃないんですけど……」


「実力も大事だが、ここからは何よりも【異界迷宮(ダンジョン)】を何度も潜行したっていう経験が重要になる。そういう面でいったら、俺が一番頼りにしてるのはお前だからな」


「――!……はい、頑張ります……!」


 ローグの言葉で、胸の内に引っ掛かっていた不安がどこかにいったアイリスは、笑みを浮かべて返答した。


「よっしゃ!それじゃあ行きますか!我らがマスターを探しに!」


 掌を拳で叩いたローグが意気揚々と声を上げたところで、赤髪の少女が我先にと飛び出した。


「はっはー!いっちばーん!」


「あっ!負けないですよリザ殿!」


「おい!輪を乱すなお前らァ!」


「あはは……」


 足並みを揃えることなく、四人は未知の【異界迷宮(ダンジョン)】へと足を踏み入れた。




**********

『23話 【異界迷宮】デビュー 前編』に続く

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