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prologue1 ローグ=ウォースパイトの追放

 アステール王国№1冒険者ギルド、【豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】。

 ギルドの、というよりギルドマスターの信条は弱者必滅。

 強者のみの入団を受け入れ、実力がなければたとえ古参メンバーであろうと容赦なく追放する。

 そうすることで、ギルドメンバーの実力の平均値を底上げし続けてきた。

 完全実力至上主義。故に最強。

 メンバーたちは、【豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】に所属していることに誇りを持ち、追放されまいと日々力を磨き続ける。

 しかし、また一人、【豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】から冒険者が追放されようとしていた。




 小高い丘の上に建てられたギルドの一室には、二人の男がいた。


「ローグ。貴様を破門とする」


 ずっしりと響くような野太い声でそう告げた老爺は【豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】のギルドマスター、ハインリヒ=ファウスト。


 開口一番ギルドからの追放を告げられたローグは、しばし茫然とした後、深紅の双眸で、白髭を蓄えた大柄の老人を睨み据える。


「本気か……?マスター」


「異名持ちを失うのはギルドの評価に関わる故、その点に関しては少し惜しいがな」


 異名とは実力を認められたごく一部の冒険者が、直接国王から授かる栄誉ある称号だ。異名持ちの冒険者が一人いるだけでギルドには依頼が殺到するため、本来ならば重宝される存在である。


「しかし、今の貴様の実力ではこのギルドの名を背負うに値しない。恨むなら、呪いを受けた自分の不運を恨め」


「待ってくれ!また新たに魔法が発現する可能性だって」


「『規格外才能(エクストラ・ギフト)』――【呪われ人(カースド)】」


「――ッ!」


 言葉を遮るようにハインリヒがその名を口にした。

 老人は老いて尚も衰えぬ鋭い眼光をローグに向けて語る。


「本来、《才能(ギフト)》は生まれつき確定しており、新たに増えることはない。が、後天的に追加される唯一の《才能(ギフト)》が【呪われ人(カースド)】だ。魔剣・妖刀・呪具・呪法、【異界迷宮(ダンジョン)】に存在する様々な要因によってそれは偶発的にもたらされる。

 呪いを受けた者は、既に発現していた魔法をすべて失い、一から新たな魔法を発現しなくてはならない。だが、一度魔法をなくした者が再び魔法を発現させられる確率は1%にも満たん。

 よって、ローグ=ウォースパイト。貴様に破門を言い渡す。使い物になるかわからんものを、置いておく必要など皆無だからな」


 ハインリヒは椅子にふんぞり返りながら淡々と告げた。


「ふざけんな!そうやってギルドの仲間を切り捨て続けるのが正しいのか……⁉もうこのギルドにいる連中は、どいつもこいつも他人を蹴落として自分が如何にのし上がることしか頭にない連中ばかりだ!俺が入団した時にいた古参メンバーはもうほとんど残っちゃいない!喜びを分かち合えない集団なんて、ギルドとは呼ばねえんだよ!」


「くだらん」


「な……ッ」


 眉一つ動かさず、ギルドマスターは冷たく吐き捨てた。


「仲良しごっこがしたければ他所でやるがいい。頂点に至るためにはワシのやり方が正しかったと痛感するはずだ。

 ――そもそも、『八豪傑』に昇格した際に貴様とて一人蹴落としているだろう。自分の身が危うくなった途端に抗弁を垂れおって。貴様の本質も他のメンバーと何ら変わらない」


「……ッ」


 返す言葉が見つからずにローグが立ち尽くしていると、コンコン、と扉を叩く音が響いた。


「――まだ、貴様の後釜が決まったことを報告していなかったな」


「あァ……?」


「入れ」


 ハインリヒが入室を認めると、失礼します、という声と共に一人の男が扉を開けた。

 部屋に足を踏み入れたのは、金髪に垂れ目が特徴の少年。

 その人物を見て、ローグは眉を吊り上げる。


「――ヒュース……!」


「紹介しよう。貴様に代わって『八豪傑』に名を連ねることになった、ヒュース=マクマイトだ」


 紹介に預かったヒュースは、不敵な笑みをローグへ向ける。


「安心してください、ローグさん。あんたの代わりはこの俺がしっかりと務めてみせますよ。それにしても、あんたが言うほど悪い気分じゃないですよ。――人を蹴落とすっていうのは」


「……!」


 今まで見たこともないヒュースの一面に、ローグは驚きを隠すことができなかった。

 そんなローグの横顔を見て、ハインリヒがほくそ笑みながら口を開いた。


「ヒュースは貴様よりも年若でありながら、『希少才能(レア・ギフト)』も有している。ブランド力は彼奴の方が上だ」


「ブランド力だと……⁉ジジイ……てめえは俺たち冒険者を何だと思ってやがる⁉」


「冒険者など、金を稼ぐための道具でしかない。もっとも、今の貴様は道具としての価値すらない。

 ――正確には、呪いを受ける以前から、と言うべきか」


 その一言に、ローグはこの事態の全貌を察した。


「――てめえら、まさか……!俺を陥れるために組んでやがったのか⁉」


「……イザナミノミコトに殺されてくれるのがベストだったんですけどね。まあ、魔法を失っただけでも良しとしますよ」


「ッ……!俺はあの時、急に魔力が切れた。てめえに貰った高等回復薬(ハイポーション)に何か仕込んまれてんのは明らかだ。……だが、腑に落ちねえ。俺を殺したかったのならそのまま毒殺でもすればよかったんじゃねえのか?」


 ヒュースは無邪気な笑みを浮かべて、ローグの肩に手を乗せる。


「やだなあ。俺を殺人鬼か何かと勘違いしてません?万が一そんなことがバレたら、俺の身が危うくなるんですからね。まあ、いずれにしろ、初めからこうなることは決まっていたんです。勝ち戦だとわかってるのに、リスクを冒すバカはいませんよ」


「ヒュース……てめえ……ッ!」


 胸ぐらを掴み上げるローグの手をヒュースは荒々しく振り払った。


「……ずっとあんたが邪魔だったんだよ。俺より生まれたのが少し早かっただけでイキり散らしやがって。早く消えろよ、負け犬が」


 その声色は今までのどこか余裕のあるような声色から一転して、冷たく突き刺さるようだった。

 ローグが歯噛みしながら沈黙するしかできないでいると、 ヒュースに同調するようにハインリヒは鼻を鳴らす。


「所詮この世は弱肉強食。弱者の屍の上に、強者が栄光の旗を立てる。この生存競争に負けた時点で、貴様には何の存在意義もない」


 老人は自らの白髭を撫で擦りながら、さらに重たく冷ややかに言い放つ。


「――はて、魔法の一つも使えなくなったゴミが、いつまでワシの前で無様な面を晒すつもりだ?疾く失せろ!」


 その言葉により、ローグの怒りは限界まで達した。


「……てめえらの性根は腐りきってる」


 拳を強く握り、目の前の机を殴り壊す。


「こんなクソみてえなギルド、こっちこそ願い下げだ‼」


 さらにハインリヒに対して親指を下に向けて、


「俺は別のギルドに入って、このギルドを№1の座から引きずり下ろす‼てめえのやり方が間違っていたことを証明してやるよ‼震えて眠れやクソジジイッ‼」


 最後にギロリとヒュースを一瞥し、ローグは扉を思い切り叩きつけて部屋を後にした。


 後に残されたハインリヒは無言のまま、その扉に目を向ける。


「マスター。ああ言ってますが?」


「フン、奴を受け入れる上位ギルドなどありはせん」

(……だが、羽虫は早めに潰しておくに限るか。万に一つも、このギルドに不利益が生じないようにな」




**********

ローグ=ウォースパイト

ギルド追放理由:実力不足

**********



本作をお読みいただき、ありがとうございました。



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