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14話 生産魔法はこう使うのよ

 立ち昇る黒煙を見つめながら、リザはゆっくりと立ち上がった。


「フフン!これで丸焦げなのはお互い様ァ!」


 悪人面でほくそ笑む赤髪に紫紺の瞳をした少女。

 リザ=キッドマンはこの上なく、負けず嫌いだった。


 魔弾――爆裂弾。着弾と同時に爆発を起こす【異界道具(アイテム)】。

 そもそも魔弾とは、【異界迷宮(ダンジョン)】内にある特殊な物質を加工して作られる、魔法と匹敵する力を持つ弾丸である。一般市場に普及されている数少ない【異界道具(アイテム)】で、種類は様々あるが、一発一発が高額であることや銃を使う冒険者が少ないことから、売れ行きは芳しくない。


「――!まあ、このくらいじゃ倒れないと思ってたけど……」


 黒煙の中から、雷を盾のように放ち続けるローグが現れる。

 今の爆発によるダメージはほとんど見受けられない。


「爆裂弾でも傷一つないとか……。どれだけ強力な雷だっての」


「あ、あぶねえ……。本当に撃ってくるとはな……」

(アイツの銃に残弾はもうなかったはず。だが発砲の直前に唱えた魔法、アレは……!)


 ローグの驚愕は攻撃されたことよりも、リザが唱えた魔法にある。

 それは決して、戦いの場で聞くことのない魔法名だったからだ。


「おい!俺の聞き間違いかもしれねえが、お前、今【補充(リストック)】って唱えたか⁉」


「ええ、それが?」


「ま、マジか……」


 小首を傾げて誇らしげに言うリザに、ローグは唖然とした。

 彼らから少し離れたところにいたアイリスも、その魔法名に耳を疑った。


「【補充(リストック)】って……え⁉あの【補充(リストック)】⁉

 ――()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()の⁉」


「そうよ、アイリス。料理人の《才能(ギフト)》を持つ者だけが発現することのある魔法、【補充(リストック)】。アイリスの言うような使われ方がほとんどだけど、本来の能力は、自身から半径50センチ以内にある250グラム以下の無機物を、同じ領域内の任意の場所に移動させる。まあ、レベルの低い空間魔法の一種ってところね」


「戦闘でそんな魔法使う奴なんて聞いたことねーよ!」

(――だが、弾数制限をカバーできるこれ以上ない方法なのは確かか……!)


 リザが腰に巻いているベルトには、左右に拳銃を収納するホルスターが、そして後ろには弾薬が詰まったポーチが備え付けられている。

 彼女は【補充(リストック)】を使用することで、ポーチから弾薬を瞬時にシリンダー内に移動させたのだ。


「言ったでしょ?どんな魔法も使い方次第で化ける――ってね!」


 言いながらリザが発砲する。

 放たれたのは再び爆裂弾。


「不意打ちはもう慣れてんだよ!」


 爆炎が噴き上がるが、ローグは雷の盾で防ぎ無傷だ。

 しかし、彼の周囲は爆炎と黒煙で完全に塞がれてしまった。


(目眩ましが狙いか!)


 視界を確保するために、即座にバックステップで黒煙から飛び出す。

 すると、右方から回り込んで攻撃を仕掛けんとしていたリザの姿を確認できた。


「チッ!抜け出してたか!」


「場数はお前より遙かに踏んでんだよ!」

(そして、銃の弱点も熟知してる――!)


 ローグは、両手の指先から細かい無数の光弾を放った。まるで、真横から降り注ぐ雷の雨。

 一撃に収束した雷撃よりも威力は劣るが、銃使いのリザとの戦闘においてはこの上なく効果的な攻撃だ。


(銃は次に放たれる魔弾が決まっている以上、状況に応じて魔弾を変更できない!爆裂弾じゃ、多重攻撃は防げねえ!)


 現在、リザの二つの拳銃の次弾は、両方ともが爆裂弾。数ある魔弾の中でも随一の威力を誇るが、無数の攻撃への対応力は低い。

 だが、リザの顔に焦燥の色はない。


「フン!甘いっての!」

(自分の弱点くらい理解してる!)


 そして、彼女はもう一つの魔法を口にした。


「――【整理整頓(アレンジ)】!拡散弾!」


 瞬間、彼女は両手で早撃ちクイックを決めた。放たれた弾丸は発射と共に拡散し、リザに被弾したであろう雷の雨を相殺する。


「何ッ⁉」


 さらに彼女は、左の銃口を自身の後方に向けると、


「【整理整頓(アレンジ)】、旋風弾!」


 そこから放たれたのは大気の噴流。ジェット噴射の要領で、彼女の小柄な体躯が砲弾と化し、愕然とするローグの元へ急接近した。

 奇想天外な出来事の連続に、経験豊富なローグでも対応することなどできなかった。

 猛烈な勢いの乗せたリザの膝蹴りが、無防備なローグの顎へと捻じ込まれる。


「ご……ッ⁉」


 何が起きたのかわからないといった表情のまま、彼の体は大きく放り出された。

 リザは着地と同時に駆け出し、仰向けになったローグに馬乗りになって彼の眉間に銃口を突きつける。


「ハッハッハ!これで私の勝ちィ!」


「こ、この……ッ」


 脳を揺さぶられて歪む視界で、満面の笑みを浮かべる赤髪の少女の姿が映る。

 自分の努力が間違っていなかったことを証明でき、余程嬉しかったのだろう。


 そんな彼女を見て、ローグも今回ばかりは負けを認めざるを得なかった。


「……あー、クソ……!……参ったよ。俺の負けだ。重いからどいてくれ」


「あァ⁉」


「そういう意味じゃねえって!銃口向けんな!」


 デリケートな心を持つリザをどかせて、立ち上がる。


「いってー、まだ視界が揺れてるよ……」


「頭を吹っ飛ばす気で蹴ったんだけど、アンタ意外に丈夫ね」


「……ホント、自分を褒めてあげたい」


 物騒なことを言うリザにゾッとするローグ。


「それにしても、【整理整頓(アレンジ)】って言ってたけど、もしかしてあの?」


「うん。アンタの想像通り、清掃人系の魔法よ。【補充(リストック)】と似て、自身から半径20センチ以内に作用する空間魔法。領域にある500グラム以下の無機物同士の位置を入れ替えることができる」


「なるほど、それでシリンダー内の魔弾を入れ替えたってわけか。その方法ならある程度の対応力はあるな……」


 ローグが放った雷の攻撃に対し、リザは次弾に装填した爆裂弾とシリンダー内の拡散弾を【整理整頓(アレンジ)】で入れ替えていた。それにより次弾が拡散弾となり、雷の雨を凌いだのである。


(どんな魔法も使い方次第、か……)


 言葉にするのは簡単だが、実際彼女にしかできない戦い方だとローグは思う。


(こんなスタイルに前例なんてあるわけない。手探りで自分にしかできない戦い方を見つけ出して、それを物にしたんだ。俺の想像が及ばないくらい努力してきたんだろうな……。凄い奴だ……)


「……何ジロジロ見てんの?発情期?」


「俺の称賛を返せ!」


 決闘が終わったと思った、アイリスが二人の元へ駆け寄ってくる。

 なぜか彼女の方がどっと疲れた顔をしていた。


「やっと終わりましたか……。二人とも、本気過ぎて心臓に悪かったですよ。さあ、早くイザクさんのところへ向かいましょう」


 アイリスのその言葉に、ローグとリザはピクンと耳を反応させた。


「……いや、俺はまだ本気じゃないけどな。使ってない魔法だってあるし」


「私も、魔弾の種類はこんなもんじゃないけどね。っていうか使うまでもなかっただけだし」


「言うじゃねえかチビ。なんならもう一回戦っとくか?」


「受けて立とうじゃないの!」


 再び、彼らの間に火花が散る。


「…………はあ」


 それを目にしたアイリスは、呆れて溜め息を吐くしかなかった。




 ローグとリザの決闘を、遠くから見つめる視線があった。


「うむ……!なんと見事な勝負。観ただけでこれほど心が躍るとは……ッ!」


 枝葉に隠れるように木の上に立って、彼らの戦いを眺めていたキヨメは、歓喜に顔を綻ばせていた。


「雷の御仁もやはり相当な腕前だったが、銃使いの御仁もかなりの手練れ!あのような戦い方は見たことがない……!くふうう……ッ、拙者も手合わせしてみたいぃ……!しかし、どちらと戦うべきか……」


 キヨメはブツブツと呟きながら、その黒い瞳でローグとリザの姿を追う。


 う~む、と腕を組んで唸った彼女は、やがて一つの答えに辿り着く。


「――うむ!昔から二択で迷った場合に取る行動は一つだ……!」


 先程までの恍惚な笑みとは一転して、獰猛な笑みを浮かべ、


「二兎を追う者は、二兎とも捕るべし!」


 胸を張って言い放つキヨメの剣呑なプレッシャーに、近くに居合わせた鳥やリスなどの小動物は一斉に逃げ出した。


「あのような素晴らしい者たちから、どちらかを選ぶこと自体が失礼にあたるというもの!まとめて相手をすれば、何の問題もないな!」


 言うが早いか、キヨメは二人の猛者目掛けて飛び出した。



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『15話 妖刀、童子切』に続く

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誤字報告ありがとうございます!意外に気づかないものですね。他にもし見つかれば、どんどんご指摘願います!

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