12話 決闘をしよう
「そんなことあったっけ?」
「あったのよッッ‼」
「うおっ」
ビリビリとリザの怒気がローグを襲う。
「あんまりですよ。ローグさん」
「えぇ……。お前、一瞬でそっち側についたの……?」
怒り狂うリザに恐れをなしたのか、アイリスが非難の目を向けてくる。
完全にローグが敵役の空気になっていた。
「思い出してきたわ。ローグ=ウォースパイト。たしか【神童】とかいうダッサい異名を付けられてたわね」
「ダサ……ッ……⁉」
ショックを受けるローグに、リザはさらに怒りをぶつける。
「私はね、ウチのギルドにクレームをつけてきた、ヘラクレスの冒険者をブッ飛ばしたせいで追放されたの!でもそれ自体は別にいい。私が許せないのは、あんな弱い奴が入団できたのに、私は入団試験すら受けさせてもらえなかったこと!ステータスだけですべてを判断しようとする奴らの考えが許せないのよ‼」
「……ま、その考えが間違っていることに関しては俺も同意だ。それで俺もこんな目に遭ってるわけだからな。だが、【豪傑達の砦】の冒険者は弱くねえ。お前がブッ飛ばしたっていうのは、おそらく階級が低い連中だ」
「階級……?」
「【豪傑達の砦】には全部で十三の階級があるんだ。入団試験に受かった奴がまず一番下の階級に振り分けられる。上の階級の者と入れ替わりで昇級し、それを繰り返し続けて、のし上がっていく。十三番目の階級、『八豪傑』と呼ばれるまでに至るには、十二回、その下克上を繰り返さなきゃいけねえ。
それが【豪傑達の砦】独自のシステム、『十二の試練』!『八豪傑』の連中は、全員が異名持ちなうえ、そこらの【異界迷宮】なら一人でも踏破できる強さだ。それに近い階級も相当な実力者揃い。
お前がどれだけ腕に自信があるのか知らねえが、生産系の《才能》しかない奴に上位クラスの冒険者はまず負けねえよ」
ローグは、本来嫌いなはずの【豪傑達の砦】を遠回しに庇ってしまっていた。
決して意図したわけではい。
ギルドを追放された現在でも、ローグの短い人生の内、栄光時代は『八豪傑』として活躍していた頃なのだ。
単に自分を弱いと言われた気がして、反論したに過ぎない。
「やってみないとわからないじゃない!どこの冒険者ギルドも挑戦するチャンスすらくれない!その中でもヘラクレスなんて特にクソよ!そんなギルドにいたアンタもさぞかしクソ野郎なんでしょうね」
その言葉を聞いたローグはムッと顔をしかめた。
「もう俺はクズを脱却するって決めたんだ!あの頃の俺とは違う!」
「でも【神童】なんて呼ばれて、どうせ調子に乗ってたんでしょ?」
「乗ってました!」
「死ね!」
「おぶらあああ!」
瞬間、一息で距離を詰められローグは顔面を殴り飛ばされた。
「うぐ……」
視界が点滅するほどの痛みが広がる。
「しぶとい……ッ!」
「ま、待て!お前は結局何がしたいんだ⁉俺をボコれば満足なのか⁉」
バッと右腕を差し出して、制止するローグ。
彼の質問にリザは追い打ちをかけようと踏み出した足を引っ込めた。
「何がしたいか……?そんなの決まってるじゃない……!私の強さの証明‼努力次第でトップギルドの冒険者よりも強くなれるってことを証明したい‼今はただそれだけよ‼」
「…………」
魂をぶつけるような叫びだった。
ステータスだけじゃ測れない、自分という存在価値の証明。
その心からの叫びをローグは真摯に受け止めた。
「……わかった。ならやろう、決闘」
「――!」
「ローグさん⁉」
「止めてくれるな、アイリス。こいつには真剣勝負が必要なんだ。自分の力の現在地を知るためにな」
ローグは立ち上がりながら、右手からバチン!青白い火花を弾けさせる。
それを目にしたリザは、女の子がしてはいけないような邪悪な笑みを浮かべる。
「ハッ、意外に話のわかる奴ね。でも後悔しないでね」
「こっちのセリフだ。親に女の子を泣かせちゃいけねえって言われて育ったが、今日ばかりは泣かせてやろう」
「言うじゃない。――あぁ、そういえば一つ聞き忘れてたわ」
「あん?」
「アンタ、ヘラクレスにいた時の階級は?異名までつけられてんだから、中途半端な立ち位置じゃなかったんでしょ?」
その問いにローグは鼻を鳴らし、
「――無論、頂点」
「上等……!」
申し合わせたようにほぼ同時。
ローグは右手に雷を迸らせ、リザはベルトのホルスターから銃を一丁引き抜く。
二人の決闘が始まった。
**********
『13話 ローグVSリザ』に続く
**********
ブックマークしてくださった25名の方々、評価してくださった4名の方々、ありがとうございます!
少しでもおもしろいと思ってくださった方は、ブックマークやページ下側の「☆☆☆☆☆」をタップして頂けると励みになります!