10話 あの時の……!
ローグ、アイリス、リザの三人は、スピカの町から少し外れた一面緑の丘を歩いていた。
辺りには放し飼いにされているのか、野生なのか、ちらほらと羊やヤギがうろついている。
「それじゃあ、リザさんも王都から隊商で移動してこの村に来たんですね」
「そ。村の人たちによると、一か月くらい前からイザクって人がこの先にある山小屋に夫婦で滞在しているらしいわ。よく村に降りてきて食糧を買い込んでいたけど、ただ、ここ数日は姿を見せなくなったって言ってた」
「あの村の人じゃなかったのか。なら、もう故郷に帰ったとか?」
「さあ?事情は知らないわ。でも新規ギルドメンバー募集の貼り紙には、スピカで待つって書いてあったし、ここを離れるとは思えないけどね。とにかくその山小屋に向かってみないと何もわからない。
――ところで、」
先頭を歩くリザは、チラリと後ろをついてくる二人に目を向ける。
「さっき、『リザさんも隊商で』って言ってたけど、アンタたちも隊商で移動してきたの?」
「はい。途中いろいろあって、少し遅れてしまいましたが」
アイリスが苦笑しつつ言う。
「それって、盗賊に襲われた、とか?」
「え、どうしてわかったんですか!」
ずばり言い当てたリザに、金髪碧眼の少女は目を丸くした。
「私が同行した隊商の人が、もしかしたら盗賊に襲われてるかもって言っててね。アンタたちが無事ってことは、追い払ったのよね?……あの凄い雷で」
その言葉に、黒髪紅眼の男は耳をピクリとさせる。
「アンタたちどっちかの魔法でしょ?アレ」
「ふっふっふ。俺の魔法だ」
(『凄い』って言われたのがよっぽど嬉しいんだな、この人……)
ずいっと、前に出るローグに、アイリスがジト目を向けた。
「聞いて驚け。あれは【呪われ人】系の雷魔法。つまり、唯一無二の固有魔法だ!」
「へー」
「…………」
思ったよりもリザの反応が薄く、しゅんとするローグ。
「そこそこ腕は立ちそうね。でもなんでわざわざギルドを作ろうとするの?他の冒険者ギルドに入った方が稼ぎも安定するじゃない」
その問いにローグとアイリスは互いに目を見合わせた。
数秒悩んだ末、おもむろにアイリスが口を開く。
「……私は以前のギルドでは良い扱いをされてきませんでした。だから、ステータスで人の善し悪しを判断しない、心から信頼できる仲間が欲しくて……」
「……!そう……そっか……!」
「な、なんでニヤけてるんですかっ?」
「ゴメンゴメン!なんせまったく同じ理由で私もここに来たからさー!」
「えっ……」
「――うん!アイリスとは仲良くなれそうな気がするわ!よろしくね!」
「は、はい!私もリザさんに会えて良かったです!」
キャッキャと手を握り合って喜ぶ彼女たちを、ローグは横目で見ながら微妙な顔をしていた。
こういう女性特有の距離の詰め方は、とても彼には真似できない。
すると、軽く疎外感を感じていたローグへ、リザが顔を向けた。
「ローグがここにいる理由はなんなのよ?」
黒髪紅眼の青年はちょっぴり嬉しそうに、
「俺を追放したギルドの嫌がらせで、どこの冒険者ギルドにも入れなくてなー。だから、一から作るっていうこの話に乗るしかなかったんだよ」
「そこがわからないのよ。その固有魔法とかいうのを持ってて、どうして追放されたわけ?」
「ああ……実は、この固有魔法自体は昨日発現したばっかりなんだ。【異界迷宮】で受けた呪いのせいで元々発現した魔法を失って、冒険者として役に立たなくなった途端に追放よ」
「それは酷い話ね……。アンタがいたっていうギルドってどこ?」
「【豪傑達の砦】」
「――!」
その名を聞いた途端、リザは眉を吊り上げた。
次第に眉間に皺を寄せ、険しい表情になっていく。
「……どうした?」
「……ローグ=ウォースパイト。思い出したわ。その名前……アンタ、あの時の……!」
「???」
敵意剥き出しの眼差しで見据えられたローグは、わけがわからず頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
異変を察したアイリスが恐る恐る割って入った。
「あの……お二人はお知り合いなんですか?」
「ええ、よーく知ってるわ。あの時の屈辱、忘れもしない……!」
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