9話 リザ=キッドマン現る
そんなこんなで翌朝。
隊商は遅れをどうにか取り戻し、本来の予定よりも少し遅れてローグとアイリスの目的の町、スピカに到着した。
「やってきたぜ、スピカの町!何にもねぇー!」
荷物袋を肩に担いだローグが朗らかに言い放った。
視界に広がるのは緑、緑、緑。まばらに羊。
家屋も数えるほどしかなく、町というより村と呼んだ方がしっくりくる。
「ふわぁ……」
目の下にちょっぴりクマをつくったアイリスが大きなあくびをした。
「お前、一晩中やってたのか?」
「はい……。でもなんとか完成しましたよ」
彼女は白地の服の上から、ローグから貰った特殊な絹を加工したケープを身に纏っていた。上半身を包み込む真っ黒なケープによって、アイリスの特徴的な白い肌や金の髪が、より映えるようになった。
「やるなぁ……!専門ギルド並みの腕じゃん!」
「そ、そうですかね……!」
裁縫の腕を褒められたことなどなかった彼女は、思わずニヤけそうになるのを必死に抑える。
「じゃあ、材料費300万ドルクになります」
「お金取るんですか⁉」
「冗談だ」
そんなやり取りをする二人に、彼らを荷台に乗せていた商人の男が声を掛ける。
「それじゃあな、あんちゃんたち。盗賊共から助けてくれたこと、一生忘れねえぜ」
「いや、そんな大したことじゃねえって」
「あんちゃんにとっては小さなことかもしれねえが、俺たちにとっては途轍もなく大きなことなんだぜ。ほんとに、感謝してるよ」
「そう……かな」
真剣な顔で言う商人の男に、ローグはこそばゆくなり言葉に詰まった。
「ギルド、入れるといいな!」
「ああ!そっちも商売頑張れよ!」
「送っていただきありがとうございました!」
ローグとアイリスが手を振って、隊商を見送った。
遠ざかっていく馬車や荷車の行列を眺めながら、いろいろあったが、良い旅だったと二人は感じていた。
「――さて、俺たちも行くとしますか」
「はい!新規ギルドの貼り紙に書いてあった方は、『イザク=オールドバング』という名前でしたね。まずはその方の居場所を聞き込みするところからですかね」
「その人、今この村にいないわよ」
「ん?」
背後から声を掛けてきたのは、腰まで伸びた真っ赤な髪をした小柄な少女。
丈の短い朱色のジャケットを羽織り、動きやすさを重視してか太腿を露出したショートパンツに漆黒のブーツ。
さらに、腰に巻かれたレザーのベルトには両横にホルスターがあり、それぞれ銃が収納されている。
「この村の子供か?それじゃあイザクって人はど」
「あァん⁉」
何気なく尋ねようとしたしたローグに、赤髪の少女は紫紺の瞳をギラリと鋭く尖らせる。
「――え……?」
「誰が子供だ赤目コラ。私はリザ=キッドマン、歳は十八!次に舐めたクチきけば、殺すぞ?」
「……はい」
(く……口悪ぅ……)
思わず委縮する彼の横で、アイリスは人知れず胸を撫で下ろす。
(私より年上だったのかこの子……じゃなくてこの人……。良かったぁ~……。私が尋ねなくて)
ふんす!と鼻を鳴らしたリザは腕を組んで、
「イザクって人に会いにこの村へ来たってことは、アンタたちも新規ギルドを作るために来たんでしょ?私もそうだから一緒に行動してあげる」
((う、上からだなぁ……))
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