8話 もう一つの魔法
ローグの活躍で、盗賊たちの襲撃による隊商への被害は最小限に抑えられた。そのおかげで商人たちの旅は問題なく続けられることに。
無事な荷車に二時間ほどで荷物を積み直し、遅れた時間を取り戻すため、夜中にも関わらず再び移動を開始した。
夜の荷台の中で、アイリスは縫い物をし、ローグは自分のステータスが写し出された紙を眺めていた。
「ムッフフフフ」
「……ローグさん。いつまでも気持ちの悪い声を出さないでください」
アイリスはうんざりとした様子で言った。
「だってよ~アイリス。また魔法が発現したんだぜ~。ほら見ろこれ」
ローグはニマニマしながら、ステータスが写し出された紙を見せつける。
彼は体の所々に包帯を巻いていたが、商人からお礼に譲り受けた回復薬でほぼ傷を癒し終えている。
「もう十回は見せられましたよー」
「すごくね?すごくね?一度に魔法が二つも発現するって聞いたことなくね⁉俺ってやっぱ天才?」
「はいはい。すごいですねー」
針を動かす手を止めずに適当な返事をするアイリスだったが、ローグは構わずステータスが写し出された紙を嬉しそうにヒラヒラさせる。
ローグのステータスに新しく刻まれた魔法は【鳴雷】だけではなかった。
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ローグ=ウォースパイト
《種族》
半人半エルフ
《魔法》
【鳴雷】(呪われ人系)
【裂雷】(呪われ人系)
【 】
【 】
【 】
【 】
【 】
【 】
《才能》
【魔術師】
【剣士】
【調剤師】
【教師】
【呪われ人】
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第一の魔法【鳴雷】に続く、第二の魔法【裂雷】。
ステータスに刻まれた時点で、その効力はどのようなものかを理解してはいるものの、実際に使ってみたい気持ちを彼は抑えきれないでいた。
「ぬう……やっぱ我慢できん……!ちょっと二つ目の魔法も試し撃ちしてきていい?」
「……それってどんな魔法なんですか?」
「殺傷能力だけなら【鳴雷】より高いみたい」
「絶対ダメです」
「え~」
「そんな魔法を急に使ったら商人の方々がびっくりしちゃいますよ。それに夜も遅いし、いけません」
「……お前は俺の母ちゃんか」
言い聞かせるような口調で縫い物を続ける彼女の姿に、故郷の母を思い出すローグだった。
「はい。直りましたよ」
「お、サンキュー」
作業を終えたアイリスはその手に持っていた黒いコートを手渡した。
彼女が生産系の《才能》【裁縫師】を駆使して修繕していたものは、ローグの着ていたコートである。
盗賊との戦闘の際に少々破れたり焦げ目がついてしまったのだが、それは微々たるものである。
「ところで、このコートどうなってるんですか?ローグさんの怪我に対してそれほど傷はなかったですし、なんか普通の生地じゃないように感じるんですけど」
「んー?それはSランク【異界迷宮】の宝物庫にあった絹を加工して作った代物でな。ダメージカットはもちろん、なんと体温調節までできる優れもの。それさえあれば氷雪地帯だろうが火山地帯だろうがどんな環境でも適応できるのだよ」
ローグはコートの袖に腕を通しながら、どことなく自慢げに説明する。
「へー!じゃあ【異界迷宮】に合わせて、装備を変えなくてもいいんですね。いいなー」
「その絹まだ余ってるし、欲しかったらやるよ」
「え⁉いいんですか⁉」
目を輝かせるアイリスに、ローグは微妙な顔をした。
「俺の魔法より全然いい反応だな……。そもそも衣服に加工できるのか?裁縫専門の支援者ギルドにそのコート作ってもらった時、あり得ないくらい金取られたから相当難しいと思うぞ」
「見くびってもらっちゃあ、困りますよ。前のギルドでは荷物持ちの他に、パーティの人たちの服を全部私が修繕させられてましたから、腕には自信があるのですよ」
「悲しい奴……」
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