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118話 正体不明×2

「【豪傑たちの砦(ヘラクレス・フルリオ)】の連中の目的は十中八九、シャムラハブに繋がる【異界門(ゲート)】の占領だぁ」


 人のはけたカジノ店の中で、ザオウマルがそう切り出した。イザク、アイリス、リザ、ジュウゾウ、そしてメロウとプーカの六人は黙って耳を傾けている。


「雷鳴が轟いてジュウゾウと赤髪の嬢ちゃんが飛び出していった後ぉ、ナナハが八咫烏で(ふみ)を送ってきたぁ。内容は、俺、ミト、ナナハ、ジュウゾウの四名で五番隊隊長キョウシロウ=アマチを粛清するという極秘クエストだぁ。奴はなんでも、ヘラクレスの冒険者と共謀して五番隊のパーティメンバーの殺害したらしいぃ。まさかとは思ったがあり得なくもないことだと思ったぁ。

 だが、肝心なのはここからだぁ。キョウシロウがなぜヘラクレスと手を結んだか、……いや、なぜヘラクレスがキョウシロウに接触したか、というべきかぁ。それはおそらく、俺たち【猟犬の秩序(ハウンド・コスモス)】の壊滅だろうぅ。

 順を追って事態を説明していこうぅ。

 俺たちは近く、シャムラハブへの大規模な潜行を予定していたぁ。だが、ヘラクレスもシャムラハブの攻略を目的とする勢力の一つぅ。奴らとしては当然阻止したい事態だぁ。そこで奴らは、どういう取引を持ち掛けたのかは知らんがキョウシロウを利用し、ハウンドの壊滅を企てたと俺はみているぅ」


「ちょっと待て旦那! 俺はそんな極秘クエストのことなんか聞かされてねえぞ! この街に来る道中ナナハとはずっと一緒だったのによ!」


 声を大にして問い詰めるジュウゾウに対し、ザオウマルは面倒くさそうに対応する。


「俺にキレるなジュウゾウぅ。ナナハの奴が俺に送ってきた手紙にこんなあとがきがあったぁ」


 懐からその手紙を見せつけるザオウマル。


『ちなみに、ジュウゾウ君にはまだこのことを伝えてません。だってバカだから。旦那の口から伝えておいてね。ナナハちゃんより』


「……あのヤロー、元に戻ったらぶん殴ってやる……」


「ちょっとぉ! あんたらの事情とか心底どうでもいいわ! さっさと赤目バカを助けにいかないと!」


 と、そこでしびれを切らしたようにリザがジュウゾウ以上の剣幕で声を荒げた。


「でも、どこにいるのかわからないんじゃ助けようもないですよ……」


「うぐ……」


 アイリスのもっともな指摘に、リザは苦い顔をする。


「それなら大方の予想はつく。おそらく、敵さんが潜伏しているのも歓楽街の中心にある白い塔の内部だ。どうしてローグをさらったのかまでは見当もつかないが」


「なんでそう思うの?」


 イザクの意見を聞いたリザは小首を傾げた。


「そりゃ敵さんが死守したいもんがあの塔の地下にあるからな。ヘラクレスの攻略パーティが到着するまで籠城するつもりだろう」


「あぁ、黄金迷宮とかってやつね。とにかく、場所が分かったのなら今すぐ殴り込みに行くわ」


「リザ。行ったところで、塔を覆っている木をどうにかできるのか?」


「いや、そこはマスターの出番でしょうが」


「はっはっは、無理だ」


「はあん?」


「マスターの魔法でも、あの大きな木をどうにかできないんですか?」


 アイリスの問いに、イザクは肩を竦めて答える。


「俺の魔法だと塔ごと潰しかねんからな」


 壊せはするんだ、と心の内で呟くアイリス。

 すると、イザクは少し離れて彼らの会話を聞いていた双子のエルフに話を振った。


「そうだ、嬢ちゃんら。クシナダ姫の禿なんだろ? なんか秘密の抜け道とかないのかい?」


「そんなもんがあったら、とっくに使ってますよ。私たちだって早く姫様の無事を確認してえんですから」


「うん、姫様心配……」


 メロウがかぶりを振って答え、プーカがそれにこくこくと相槌を打つ。


「それもそうか。……参ったな、こっちからはどうしようもない」


 腕を組んで唸るイザクの隣で、リザが頭をわしわしとかき乱す。


「あーもうしゃーない! 状況を打破するには、私の壊源弾を使うしかないわね!」


 その名を聞いてアイリスはハッとする。

 自分たちが以前潜った【異界迷宮(ダンジョン)】で、ヘラクレスの冒険者を一撃のもとに屠った絶大な威力を誇る魔弾。詳しい原理は知らないが、強大な魔法をいとも簡単に打ち消した光景は今でも彼女の脳裏に焼き付いている。

 たしかにあの魔弾ならば……。


「いや、あの魔弾は使わなくていい」


 ところが、イザクはきっぱり首を横に振った。


「えぇ⁉ なんでよ!」


「あー……、あれだ。敵さんがわざわざローグを攫ったということは、何かあいつに用でもあったんだろう。すぐに殺されるようなことはないんじゃないか」


 適当な文句で誤魔化しているような口ぶりに、リザは怪訝な顔になる。


「その用ってのが済んでたら……?」


 イザクは手を合わせ、


「殺されないことをただ祈るばかり」


「やっぱ今すぐ行ってくる!」


「待て待て! 冗談だ。ローグは大丈夫だ。それは保障する」


「根拠あるんでしょうね? マスター」


 また適当言ってんじゃないだろうな、と言わんばかりのリザの胡乱気な眼差しに、イザクは気まずそうに言う。


「あの塔の中にはクシナダ姫に、なぜかキヨメまでいた。二人がいればなんとかなるかもしれん。……それに、万が一の時はあいつが……」


「あいつ?」


「とにかく、今はまだじっとしておけ。近い将来、あの魔弾が必要になる時が必ず来る。それまでは使用しないでくれ。これはギルドマスターとしての命令だ」


 イザクにしては珍しい、上下関係を利用しての説得にただならぬ事情を察したリザは、渋々といった顔で大きく息を吐いた。


「……わかった。従うわマスター」


「向こうで必ず動きがあるはずだ。それまでは我慢してくれ」





「あん?」


 クランベリーがふと何かに気づき、出入り口の方に視線を向けた。


「どうした陰湿チビ。客でも来たか?」


 キョウシロウのその言葉は冗談半分だ。なぜなら、クランベリーの魔法でこの塔を中心に地中に張り巡らされた『根』によって、歓楽街にいる人間の位置は正確に感知されており、塔内には最早自由に動ける人間はいないとわかっていたからだ。


「まさか……、ありえねえ……」


 そのはずなのに、クランベリーは眉間にしわを寄せて出入口を凝視し続けている。

 ふざけているわけではないとわかり、キョウシロウもまた怪訝な顔でそちらに目をやった。

 そんな二人の様子に、ローグもまた何らかの異常事態が起きたことを察した。


(なんだ急に、扉の方を気にして……。誰か来るってのか?)


 と、クランベリーの獣耳がピクン、と動く。


「おい凶剣のぉ。二人……、階段を下りてきてやがるぜ」


「何だと」


 その会話を聞いたローグも聞き耳を立ててみると、カツンカツン、とたしかに複数の足音が近づいているのがわかった。


(誰だ? リザたちが助けに来てくれたのか?)


 そして、姿を現したのは、ローグの想像だにしない人物だった。


「――あら~、どうしてこんなところにいるんですか~、ローグくん」


「……⁉」

(セラさん⁉)


 イザクの妻、セレーナ=セプティムスが緊張感の欠片もない顔でそこにいた。


「まあ、そんなに縛られて。何かのプレイですか~」


「ンフフフフ! セプティムス、彼は捕まっているのだと思うよ」


 その隣にいるのは、趣味の悪い仮面をかぶった長身の人物。声と体格からして男だ。


「もう、その呼び方はやめてくださいと言っているでしょう、ロンドグリムさん」


「おぉっと失礼。しかし、そっちも人前でその呼び名は控えてほしいね。表向きはバジル=アステリアスでやっているのだから」


「あら~、よく見たらキヨメちゃんもいるじゃないですか~。お~い、キヨメちゃ~ん」


「ンフフフフ! もう聞いていないね!」


 そんなやり取りをするセラたちを前に、さすがのキョウシロウとクランベリーも困惑の色を隠せないでいた。


「どういうことだァ、陰湿チビ。この塔の中には、もう人間はいなかったんじゃなかったのか? てめえの感知魔法も使えねえな」


「ああ、いねえよ! 今も、あの二人のことはワシの魔法では感知できてねえ!」


「……あァ?」


「だがワシの獣人の感性が、さっきからしつこく警告してきやがる」


 クランベリーはその額に脂汗を浮かべて告げる。


「魂の格が、ワシらとは次元が違う……。あいつらは、――人間じゃねえ!」





**********

『119話 セレーナ=セプティムス』に続く

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