7話 目撃者たち
天へと続くような光の柱を最初に目にしたのは、ローグたちとの距離が最も近いアイリスだった。
突然の閃光と轟音に思わず腰を抜かしてしまった彼女は、茫然と空を見上げた。
「何……これ……?」
雷の真下にいたアイリスからは天を閃光に覆い尽くされた光景が広がっていたため、昼間のように明るく感じていた。
「魔法……?でもこんな威力の魔法なんて、見たことないよ……」
一体誰がこの雷を発生させたのか。
アイリスには、もしかしたらと思う人物が一人だけ頭に浮かんでいた。
考えているうちに光の柱はみるみる細くなり、ついには青白い線となって消滅した。
避難を終えた隊商の商人たちは幻想的ともいえる光の柱に目を奪われ、そしてさらに、遠く離れた場所を移動していた別の隊商もその光景を目の当たりにしていた。
荷台の上から光の柱に気づいたリザは、無意識に立ち上がった。
「ねえ、あの場所って盗賊たちが現れるかもしれないって言ってた辺りよね?」
「あ、ああ……。盗賊に加えて落雷とは……。つくづくツイてなかったな……」
リザと御者の男は互いに光の柱に目を向けたまま、そんなやり取りをする。
「あれは落雷じゃない」
「え……?」
「地上から昇っていくのをこの目ではっきりと見た……。あれは自然の雷じゃない……!多分、誰かが放った魔法だと思う!」
思う、と口にしたものの、リザの中では既に確信に近いものがあった。
「あ、あれが魔法だって……⁉俺もギルドの見世物で何度か目にしたことがあるが、あそこまで凄まじいもんじゃなかったぞ!」
「それほど腕の立つ冒険者がいたってことでしょ。もしかしたら、向こうの隊商は無事かもね」
「ほ、本当か⁉」
「多分よ、多分」
リザは涙ぐんで喜ぶ御者の男を見て、無事じゃなかったらどうしよう、と軽はずみな発言をしたことを後悔した。
「それにしても」
(一体どんな奴があれを……。気になる……)
闇夜の彼方で、目も眩むほどの雷光が天に昇っていく様を、さらにもう一人の人物が見届けていた。
「あの雷。自然現象の類ではないな……」
断崖絶壁の上で佇むのは、袴を纏った十代後半ほどの少女。
彼女の名は、キヨメ=シンゼン。
アステール王国№2冒険者ギルド、【猟犬の秩序】を仮追放中の身の女侍だ。
「明らかに人為的に放たれたもの。相当な使い手であるとみえる……!――ふ、ふふふ」
突然、笑いを漏らした彼女はプルプルと震える手で腰に差した刀に手を伸ばす。
「ハァ……ハァ……!あの魔法を放った者が如何ほどの猛者であるのか!是非、手合わせしてみたい……!」
しかし、刀に手が触れようとした、すんでのところで反対の手で掴んで止めた。
「くふう!心を乱すな清女!拙者は修行中の身……。寄り道をするわけにはいかぬ……!早く殿に紹介して頂いたギルドに向かわねば!」
一人悶えながらキヨメは自分の欲求をなんとか抑え込む。
――が、そこでふと、彼女は思った。
「…………いや、待てよ。強者と刃を交えることも修行の一環ではないのか……?祖国の師匠も言っていた。強者と戦うことは己にとってナントカカントカ」
肝心な部分は忘れてしまったが、自分にとっていいことがある的なことを言っていた気がする、と彼女は大きく頷く。
「――よし、決めたぞ!」
そして、再び彼女は顔の筋肉を弛緩させた。
「く、くふふふふっ!待っておられよ!雷の御仁!この神前清女、貴公の胸を借りに参ります!」
タガが外れたキヨメは、とろけるような笑顔で断崖絶壁を飛び降りていった。
ただひたすらに、強さを求めて。
キヨメの弱点、其の三。『戦闘狂』。
圧倒的な威力の魔法を見せつけられた盗賊たちは、全員が戦意を喪失していた。
ある者は失神し、またある者は失禁してしまっている。
ローグはたった一発の魔法でこの場を制圧してみせたのだ。
茫然とする盗賊たちにローグはゆっくり近づいていき、諭すように語り掛ける。
「一応、アンタ達には魔法を発現させてもらった恩?みたいなものがある。だから、とどめを刺す前に聞いておくよ。
どうする……?まだやるか?」
その言葉に、まだ意識のある盗賊たちは揃って首を横に振った。
「「「……降参します」」」
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