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108話 種族の特性

「――で、何でお前までついてくるんだ?」


 カジノ店が両脇に立ち並ぶ大通りで、ローグは隣を歩くアイリスに尋ねた。


「もちろんローグさんを見張るためですよ。キヨメちゃんの純潔は私が守るんです」


「まーだ疑ってんのか。だから何もしてねえって言ってるだろ」


「口ではどうとでも言えますからねー」


 その言葉にローグは少しムッとして、


「おぉい、いいのか!関係ないのがついて来ちゃってるけどー!」


 それは先導して歩く二人、メロウとプーカに向けられたものである。


「一人くらいなら問題ねえですよ。姫様は懐の広いお方ですから」


(ひれ)(ひれ)え」


 双子のエルフは振り返ることもなく答えた。


「あっそう。そりゃ残念」


「……!」


 何気ないローグの言葉に、アイリスがピクンと肩を震わせた。


「……まあ、どうしてもって言うなら……帰りますけど」


「あ……」


 口を尖らせて沈んだ面持ちとなるアイリスを見て、ローグはしまったという顔をする。


(そういえばコイツ、こういう扱いは敏感だったっけ)


 かつて所属していた冒険者ギルドで冷たく扱われていたアイリス。突き放されたり、蔑ろにされると、未だに当時のことを思い出して暗くなってしまうことがある。


(出会った頃に比べて最近は気を張ってる感じもなかったし、自然体で過ごしてると思ったけど……。こりゃ相当重症だな)


 長い期間に渡って受けた心の傷はすぐには治らない。これまた長い時間をかけて癒していくしかない。


(ここは、気の利いた一言で慰めるしかない……!)


 ローグは、視線を落としてトボトボ歩くアイリスの肩にポンと手を置いた。


「なあ、アイリス」


「……はい?」


 彼女にかけるべき言葉は、自分という存在が誰かに求められるということを証明する言葉だ。それをローグはよく理解している。

 眉をひそめてこちらを見上げるアイリスに、はっきりと言う。


「お前の言う通り、俺はキヨメに手を出すかもしれん。だから、やっぱ見張り役としてお前は必要だ」


「うっわ、最低の発言ですよそれ……」


 冷静に、そしてやや引いた感じで返すアイリス。

 ローグはしばし固まった後、彼女の両頬をつねった。


「……お前本当は結構余裕あるんじゃないの?」


「いだだだだ!何にですか⁉」


「心にだよォ!」


 後ろで騒がしくするので、先導をしていたメロウとプーカが怪訝な顔で歩みを止めた。


「あんまり騒がないでくれます?私たちと一緒だから大丈夫といっても、白服さんたちはまだ捜索を続けています。いちいち奴らに見つかる度に話し掛けられて、事情を説明するの面倒くさいんです」


「くせえくせえ」


「すまん。でもそれって、クシナダ姫の権力でなんとかできねえの?」


「無理です。バジル=アステリアス様直轄の部下である白服さんたちは、姫様の部下というわけではないんです。バジル様は、この歓楽街で問題を起こしたアイリス様を快く思っていないでしょう」


「えっ、なんで私だけなの?」


「アイリス様が事件を起こしたことを姫様は知らねえからですよ。ローグ様の一件は、既に話をつけてあるので問題ねえです」


「別に私が事件を起こしたわけじゃないのに……」


「それよりも、ずっと気になってたんですけど」


 先導するメロウが、後ろを歩くローグの方を振り返りながら口を開いた。


「ローグ様は普通の人間なんですか?それともエルフなんですか?」


「……」


 プーカもそれが気になるのか、控えめにローグの方を窺う。


「俺は普通の人間とエルフの混人種(ハーフ)だ。クシナダ姫と同じようなもんだよ。エルフの特性もしっかり受け継いでる」


「特性?」


 メロウが聞き返した。


「知らないのか?“人”として定義される四種族の内、普通の人間以外の他三種族にはそれぞれ特性があるんだよ。

 エルフには、魔法スロットの数と保有魔力量が多いこと、そして、精神干渉系の魔法に対する耐性がある。

 獣人には、並外れた五感が。たまーに特定の生物と意思疎通できる奴もいるな。

 そんで小人は、その小さな体で他の三種族を圧倒するほどの身体能力を持ってる」


「……へぇー。でもやっぱり理解できねえですよ。どう考えても人間が四種族の内で一番下等でしょ。私でも、その人に勝てると思うし」


 メロウはアイリスの方を見てそう言った。


「い、いや~、それはどうかな~?いくら私でもこんな小さな子には負けないと思うんだけどな~」


 目を逸らしつつ強がるアイリス。


「アイリスじゃ勝てねえよ」


「えぇ⁉ローグさん⁉」


「やっぱり」


 プーカがニヤリとする。


「基本的に、お前の言う通り人間は三種族には勝てねえよ。それだけ人間には何もない。唯一、優れているのはその人口だけだな。今この国の人口比率は普通の人間が85%も占めてる。これでもかなり減った方らしいけど」


「そういえば私も、ギルドに入るまではエルフとか見たことなかったですね」


「未だに三種族蔑視の風習が残ってる地域もあるみたいだな。俺の故郷はそんなこともなかったけど、アイリスの故郷は大昔に三種族を追い払ったりしてたのかも」


「なんだかそう言われると複雑ですね……。良い町だと思ってたんですけど」


「人ってのは、集団の中にある異端を排除したがるもんなんだよ。自分たちとは容姿が異なる者、突出して能力が優れた者、劣る者とかな」


 ローグの意見を聞いたプーカが昔を思い返すように目線を下げる。


「姫様も私たちを拾ってくれた時、同じようなこと言ってました。互いを理解できるのは境遇が近しい者だけだって」


「……三種族での混人種(ハーフ)なんて異端中の異端だからな。もしかしたらクシナダ姫も相当酷い扱いを受けてたのかもしれねえな」


「も、っていうとお兄さんも?」


 メロウが尋ねる。


「いや、俺が元いたギルドの冒険者だ。獣人と小人の混人種(ハーフ)で、過去の迫害の影響で性格がかなり捻くれた女だよ」


 女という言葉に反応し、アイリスが恐る恐るといった顔で訊いた。


「ローグさん。ちなみになんて方なんです?」


「名前はクランベリー=レッドローズ。八豪傑の一人だよ」




**********

『109話 イザクVSクシナダ姫』に続く

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