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104話 歓楽街に集う者たち

「ほうぅ、嬢ちゃんたちはキヨメやローグと同じギルドなのかぁ、驚きだぁ」


 アイリスとリザから話を聞いたザオウマルは、顎髭をさすりながら目を丸くした。

 三人は現在、路地裏で身を潜めていた。カジノ店を半壊させてしまったため、白服たちが集まってくる前に逃げていたのだ。


「オッサンもまさか、ハウンドの隊長だったなんてね。どうりで強いはずだわ」


「まあなぁ。喜んで力を貸すとしようぅ、キヨメの仲間ならぁ」


「た、助かります」


 アイリスは頷いて、自分たちがこの歓楽街にいる経緯を説明し始めた。

「訳あって私たちはローグさんとキヨメちゃんを探しているのですが、何も手がかりがなくて困っていたんです。それに、この街はあまり詳しくないですし……」


「ふむ、いいだろうぅ。俺はこの街が完成した時から入り浸っているから情報通にも顔が利くぅ。最早、庭と言っても過言ではないぃ」


「それって要するに遊び人ってことじゃん」


「そうとも言うかもしれないぃ。それはそうとぉ」


 ザオウマルは路地裏の先を指差して、


「お探しの人物なら一人そこにいるんだがぁ」


 そんなことを言い出した。

 は?というような表情でアイリスとリザがその方向に顔を向けると、そこには何やらコソコソと身を隠しながら移動する黒髪赤目の男がいた。


 積み上げられた木箱の物陰から、その男、ローグ=ウォースパイトはそっと通りの方を覗き見る。


「やっと撒いたか……。わらわら湧いてきやがって、虫かよもう」


「おい!」


 突然背後から掛けられたその声に、ローグはビクッと肩を震わせた。


「ッ⁉」

(背後を取られただとォ⁉まさか白服連中にそんな手練れが――⁉)


 冷や汗を垂らしながらバッと振り返ると、今まさにこちらへ飛び蹴りをかまさんとする赤髪の少女が宙を舞っているところだった。


「キヨメはどうした赤目コラァ!」


「ってお前かよぶふごおおおッ⁉」


 リザに蹴り飛ばされたローグは激しく木箱の山に突っ込んだ。

 木箱の山が大きな物音を立てて崩れる。白服たちに居場所がバレてしまうかもという危険性があったが、今の彼女はそんなこと頭には無かった。


「うぅ……。何なんだよ……」


 ズルズルと瓦礫から這い出てきたローグの目の前に、リザは腕を組んで立ち塞がる。


「昼間っから随分とお楽しみだったようね!」


「な、何言ってんの?っていうか何でここにいるの?」


 なぜ怒りの形相で見下ろされているのかわからず、困惑するローグ。

 と、そこへアイリスとザオウマルも遅れてやって来た。


「リザさん!標的は⁉」


「今身柄を抑えたところよ!」


「何やらおもしろくなってきたなぁ」


「アイリスと……ザオウマルさん⁉どういう組み合わせ⁉」


「そんなことはどうでもいいぃ。どうしてこんなに怒りを買っているぅ、お前はぁ?」


「いや、こっちが聞きたい」


「ほーう」


 リザの眉がピクリと動く。


「しらばっくれようとしても無駄よ赤目。なぜなら私は、アンタがキヨメの手を引っ張ってこの街に連れて行く瞬間を見たから!」


「ローグさん!未成年に手を出しちゃいけないんですよ!」


「……は?」


 そこでようやくローグは、二人の少女がなぜ怒り悲しんでいるのかを理解した。


「……おい、ちょっと待て。何かあらぬ誤解をしてるな?」


「男と女がこの街ですることは一つぅ」


「アンタは少し黙ってろ!」


 状況を察したザオウマルは完全に面白がっている様子だ。

 ローグはその大男に茶々を入れられないように警戒しながら、アイリスとリザの誤解を解こうともがき始める。


「信じたくないが、お前らは多分こう思ってるな?キヨメが騙されやすそうなことをいいことに、俺があんなことやこんなことをしているのだと」


「違うんですか?」「違うの?」


「違うわ!俺がそんなクズなことするように見えるのか!」


「じゃあ今までどこにいたのよ?」


「遊廓だ」


「本当に昼間から楽しんでるじゃない!」


「だから違うんだって!」


「ローグさん。信じてたのに、どうしてこんなことを……」


「信じてくれアイリス!俺は何もしてない!だからその大きな石を降ろすんだ!」



 ローグたちがギャーギャーと路地裏で騒いでいる頃、歓楽街の一角に一羽の大きなカラスが降り立った。

 体長は五メートルほど。明らかにこの世界の生物ではない。

 その背から、三人の男女が地上へと飛び降りた。


「チッ、やっと着いたかァ」


「ご苦労だったな、黒助!」


「相変わらずジュウゾウ君は名づけの才がないのだ」


 降りてきたのは、キョウシロウ、ジュウゾウ、そして七番隊隊長であるナナハ=シラヌイの三人だ。


「うるせえな。じゃあお前はどういう名前をつけるんだよ!」


「コイツは別に愛玩動物というわけじゃないのだ。あくまで私の妖刀が生み出した一時的な存在。いちいち可愛がったりはしないのだ。――消えろ」


 その一言でカラスの輪郭が揺らぎ、あっという間に消滅した。


「ったく、儚いからこそ大事に扱うべきだろうがよ」


 ブツブツと不満を垂れるジュウゾウ。それを横で聞いていたキョウシロウが鼻で笑った。


「ハッ、感情のない存在など最も愚かで醜いものだ。そんなものをいちいち愛でる必要はない」


「てめえの意見なんてどうでもいいんだよコラ!あっ、どこ行きやがる!」


 キョウシロウは一人、つかつかと歩き始める。


「俺はクシナダ姫の方を担当する。お前らは仲良くあのギャンブルオヤジを探しに行け」


「何でてめえに指図されなきゃいけねえんだ!つーかこっそりと遊廓を愉しむつもりじゃねえだろうな!」


「…………」


「無視すんなコラァ!」


「どうして私がこの二人の監視役に……。せっかくの休日が台無しなのだ」


 この二人の間を取り持つようトウヤに言われているナナハは、その仕事の厄介さに重い溜息を吐くのだった。




**********

『105話 極秘クエスト』に続く

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