公爵令嬢と聖女は王子の元に嫁ぎたくない
だって好きな人がいるんですもの。
公爵令嬢と聖女は結託した。 @短編その58
スザリエ公爵令嬢と、聖女チュール。ふたりは呆然としました。
「え・・・聖女チュール、貴方・・・レノアーレ王子を好きではないの?」
「スザリエ様は好きではないのですか?婚約者なのに」
二人はついに、本音で話しましょうと学園の体育館裏で落ち合い、ずっと気になっていた事を聞いたのだ。
「・・・ええ。婚約者だけど・・好きではないの。国王陛下と父が決めた婚姻ですから・・貴族はそれ相応の役割を果たす義務がありますから・・・でも、好きでない、いいえ。嫌いです。心底嫌いなんです。だから貴方が希望するなら」
「いいえ!!希望なんかしません!!あたしは幼い頃から好きな人がいるんです。希望なんて絶対にしません!」
「私も婚約していなければ・・・」
「まあ・・・スザリエ様にも、思う方がいらっしゃるのですね」
このふたり、周りからはVSで対立していると思われている。
スザリエ侯爵令嬢は、この国の王子、レノアーレの婚約者だ。
聖女であるチュールとは、同い年。
何故か勝手に、周りが二人を喧嘩させようとしているのだ。
それも王子の取り合いだとか。
ふたりは心の底から『冗談ではない』と感じていたし、お互い話し合いたいと思っていて、ようやく実現したのだった。
で、話をすれば、ふたりともお互いを悪くは思っていないし、あの厄介な王子に対して僅かな好意も感じてはいなかった事を知ったのだった。
「これはもう・・・共闘ですわね」
「共闘、ですか」
「私は婚約を解消、貴方はお好きな方と親密になる。お互いに協力し合って、念願を果たしましょう!」
「ええ!!下手したらわたし、側室か正妃にさせられそうなんです!どっちも嫌です!」
「私もなの。正妃か側室に、させられてしまうの。・・・・貴方の思い人は、どなたなの?」
「え、恥ずかしいです・・・・騎士団に所属の騎士・・・トッド班長です」
「まあ!貴方の護衛をしてくれている方ね?幼馴染だったの?」
「はい、家も近所で、学問所で同級生で、一緒に勉強をしたり遊んだりしたんです。さあ、次はスザリエ様の番ですよ」
「そ、そうね。・・・私はカッシー先生がずっと好きなの。13歳まで、魔法の家庭教師してくださっていたの。その後、この学園の魔法の教師になったのよ」
「カッシー先生ですか。素敵です〜。女生徒が一度は恋してしまう方ですね!あたしは靡きませんけど!」
「まあ!でも貴方の傍には貴方だけの騎士がいるんですものね!」
「いやですわ、もうー!スザリエ様の意地悪」
くすくす・・・二人は笑い、手を繋ぎます。
「共闘ですわ」
「共闘します!」
この日、公爵令嬢と聖女の『NO王子同盟』が結成されたのでした。
二人は、翌日から一緒に行動することにしました。
二人が仲良い事を知らしめるように、おしゃべりは廊下です。
そしてランチも一緒です。
移動教室では、二人で席を隣同士に座ります。
一緒にいて、いろいろなお話をするうちに、二人は本当に仲良しになっていきました。
あの『VS』、喧嘩させようとする噂も、もう聞くことはなくなりました。
二人で会話するうちに、いろいろな共通点を見つけました。
花が好き。
一緒に花壇に花を植えたりするようになりました。
小説本も好き。
図書館に籠もって本を読んだり、好きな本を熱く語ったり、布教したりも楽しい。
お菓子作りをしたことがなかった公爵令嬢に、聖女はレクチャーします。
出来たお菓子を頂きながら、お茶を飲み・・・お茶の入れ方を、今度は公爵令嬢が教えたり。
ドレスの選び方や、上品な身のこなし方を公爵令嬢が教えれば、果物のカットのデコレーションを聖女が教える・・・
いつのまにやら、二人は親友となっていたです。
聖女と護衛の騎士をお茶に呼び、二人きりにしてあげたり・・
ふたりでカッシー先生に勉強を教わるうちに、いつのまにか聖女が席を外したり・・・
それはそれは楽しげに過ごしたのでした。
まあお分かりのとおり、二人で過ごしている間、王子は放って置かれたわけです。
ダンスのエスコートをすると言っても、体調が悪い、先約がある、ついには行きたくないとまで言う始末。
王家としては、正妃はどちらがなってもいいのだ。
聖女は絶対に手に入れたいので、対外的にも自慢出来る聖女を正妃にするのが良かろう、だが王子が好きな方を正妃にしても良いのだと言われていた。
王子としては・・・どちらも好みではなかった。
というか、結婚は決まった事で、政治的なものだから感情は無かった。どうでも良かった。
向こうだってどうでもいいと思っているだろう。だから好きにはならなかった。
でも最近のふたりの態度には我慢ならなかった。
いくらなんでも、無視しすぎだ。こちらは王家一族で、王国の後継の王子だぞ。
噂は耳に入っている。
婚約者である公爵令嬢と、聖女が仲良しだと言う事だ。
おかしいな?前に聞いた話では、大層仲が悪かったと言っていたではないか。
彼はすでに卒業を済ませているので、学園内のふたりを直に見る事が出来ない。
仕方がないので、部下に調査させた。
そしたら・・・仲が良いと言う噂は本当だったのだ。
「これは・・直接話をするべきだな」
王子は二人をお茶会に誘いました。
王子だけなら二人は無視したでしょう、なんと彼の母、正妃からのお誘いです。
なので、二人は渋々王城にやって来ました。
ふたりの王子への対応は、正妃も聞いています。とにかく話し合え、と場を設けてくれたのでした。
これはどうしましょう・・・と、公爵令嬢。
ファーストレディの圧です、と聖女。
最近は聖女と騎士はラブラブデート(護衛とも言う)、公爵令嬢も先生と二人きりでおしゃべり(授業の話が多いが)と、毎日が楽しいのです。
ですが、王家の勅命に従うのが国民です・・・
ああ。好きな人と結婚出来ないなんて・・!二人は涙を浮かべて悄気るのでしたが・・
「お前らいい加減にしろよ。俺だって、好きな女と結婚出来ないんだって、分かれ!!」
「!!!!」
その発想は眼から鱗でした!!
「そ、そうよね・・・王子様も、好きな人と結婚出来なのよね・・可哀想」
「貴方を責めてばかりだったわ・・・同じ思いをしているのね」
「そうだぞ。ただ王家に生まれただけで、長男に生まれただけで、好きな女とは結婚出来ないわ、次期王としての責務を負わされるんだぞ。お妃教育がナンボのもんだ!」
なんと、王子とも心が通じ合った瞬間でした!!
その後、三人は腹を割っての話し合いとなるのでした。
「で、スザリエはカッシー先生、チュールがあの護衛騎士が好きなのか。騎士はいいとして、カッシーはなかなか振り向かねーだろうなぁ。真面目だし、年齢差をあっちが気にするかもしれないな」
「酷いっ!!ずっと先生一筋ですのよっ!」
「王子様はどなたを懇意にされているのですか?」
「・・・・ティーフィー嬢だ」
ティーフィー・クロノクル男爵令嬢・・・御年6歳。
女性陣はひえええと甲高い悲鳴を上げてしまいました。思わず聖女は叫びます。
「ロリコンーーー!!ここにロリコンがいますよーー!!」
「そう言うと思ったよ!!やめろ!!」
「私に歳の差とか言っておいて、王子様も12歳も歳が離れているじゃありませんか!」
「でもなぁ・・・可愛いんだよ。言っておくが、言うこと成す事が可愛いんであって、手を出そうとかは全く考えていないからな!性癖は、やはり相応の女性だから!自分の元で、可愛がって、成長を愛しみたいんだよ!」
「ひええ〜〜、王子の愛が重い!!」
「んまあ。大事に大事に育てて、熟成を待つのですね?ワインを作るように」
「まあな。これぞ、男の醍醐味だ。おうじしゃま〜って、抱きつかれたら、もう腰が砕ける」
「ただ聞いていると素敵に聞こえますが、やはり変態ですわね」
こうして三人が揃ってのお話は、王子の提案でいよいよ盛り上がってまいります。
「俺は彼女を娶りたい。お前たちも、好きな男と添い遂げたい。さあ、どうする?」
「聖女がそもそも結婚したからって、『ああ、そう』程度の事です。何か一大事があれば、あたしは王城に馳せ参じます。だから、結婚は外してもらえませんかねぇ」
「うん、そのように助ける気があれば、大丈夫だろう。まあ、城下町に住んでもらう事となるがな」
「それくらいなら!」
「それでは、スザリエが一番厄介だな。婚約をしているわ、お妃教育をしているわで、王家からの期待がMAXだからな」
「なんとか出来ませんの?王子様」
「そうだな・・婚約解消をする事しかないな」
「して、どのようなシナリオで」
「スザリエだけに、泥を被せる訳にはいかないからな・・・よし。この俺が、汚れ役を買って出てやろう」
王子がニヤリと笑います。ゲス顔ニヤリです。女性陣ふたりもつられてニヤリ。
「え!何をする気です!」
「婚約を強制解除するとしたら・・・『断罪』かな!」
「まあ。王子様だけにそんな苦労はさせませんわよ」
「あたしもお手伝いします!何をすればいいのですか?」
こうして何度も打ち合わせをして、『断罪』作戦は決行されたのでした!
決行日までの1ヶ月は、まず根回し。
王子が他の女性に恋をしたと言う噂を拡散させます。
そして、当日。この日は祝賀記念パーティーが開催されていて、王子はエスコートに公爵令嬢を伴って参加。
聖女は『謎の王子の思い人』役で、こっそりと侵入しています。
そして茶番は始まったのです!
「ああ、スザリエ。俺の不義理を許せ!俺には好きな女性がいるのだ!この婚約を、無かった事にしてくれないか!」
「まあ、王子様!このような場所で言うくらいです、本気なのですね・・わかりました、婚約を解消いたしましょう」
「本当に御免なさぁい、公爵令嬢・・あた・・わたしぃ、王子様を好きになってしまったのです〜ぅ」
「さあ、行こうではないか、愛しい人よ、ではさらばだ!」
王子と偽恋人の聖女が引っ込んだ後、公爵令嬢は嘘泣きしながら会場を去ります。
「私、王子様達の恋を応援しますわ〜〜〜ううう〜〜〜」
子供のお遊戯ばりの下手くそ芝居でしたが、なんとか三人はやり遂げました!
これで本当にうまくいくか?と思われるでしょうが・・・
噂が光の速さ並みに王都を駆け巡り、国民にも知れる事となったのでした。
今更破棄は嘘だと言っても無理なくらいに肯定されたのです。
公爵家では、両親に問い詰められた令嬢は、
「ずっと前から、王子様に嫌われていますので、婚約破棄したいと思っていたのです」
と、ぬけぬけと言いました。
王家では『謎の思い人』を連れてこいと言いますが、
「やはり迷惑になると、彼女はどこかに旅立ってしまいました。奥ゆかしい人です。探し出してくれませんか?」
と、すっとぼけたのでした。
こうして、今更公爵令嬢との婚約をし直すのも混乱を起こすだろうと、破棄のまま。
もちろんお詫び的な金銭も渡したので、公爵家は一応納得はしませんが、追及もしませんでした。
婚約破棄をして友人関係になったら、王子も、公爵令嬢も、聖女も、本当に仲良しとなったのでした。
こんな『企み』をしちゃうのだから、悪友ですね。
その後は聖女と騎士の恋を応援したり、公爵令嬢を教師にして、先生の同僚にしたり・・・
王子の可愛い令嬢の家庭教師に、元公爵令嬢と聖女が選ばれたとか。
女性陣と王子は結婚はしませんでしたが、王家は公爵家と聖女の心強い後ろ盾を手に入れ、繁栄しましたとさ。
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。
ほぼ毎日短編を1つ書いてますが、そろそろ忙しくなるかな。随時加筆修正もします。
連載もあります〜。